1.《ネタバレ》 「半分の月がのぼる空」(2009)と同じ原作者の一般小説(ライトノベルでなく)を映画化したものである。
映像面の印象やクラシカルな背景音楽の雰囲気は悪くないが、どうも話が地味で長く感じる上に説明不足の点が多い。大まかなところはわからなくもないが、自然にわかるというより作り手の意図を理屈で推測する感じだった。
物語としては、要はかけがえのない人の死をどう消化するかの話と取ればいいのだろう。多少ネタバレ的に書いてしまえば、死んだ元彼はこれから主人公と今彼を結ぶ紐帯として、二人の関係の中に取り込まれたと思えばいいのかも知れない。もちろんそれ以前にそれぞれの心の中で一定の割り切りが必要なわけで、劇中でもそういう描写はあったように思われる。
ただしそもそもの問題として登場人物、特に主人公に生活感が全くないのはさすがに変だ。また今彼がいつまでも死んだ友人にこだわっているのが同じ男として理解できず、主人公の父親までが高校生の発言に感化されるというのも話として甘く見える。ちなみに小市慢太郎という役者の持ち味が、今回は少しわざとらしく感じたのは残念だった。
映画だけでは不足だったので原作を読んだところ、原作にかなり忠実なようではあるが、原作での説明が映画ではかなり捨象された感じになっており、また場面間のつながりも弱いため、やはり映画だけ見た人間にはつらいものがある。また映画では今彼が単に軟弱な男にしか見えず、性格や行動面での美点に関して元彼との対比がはっきりしないため、この男ならではの存在意義が感じられなくなった気がする。
やはり映画化の限界というものがあってのことだろうが、ただし人が生きようとする物語だという基本線には当然だが賛同できる。原作ファンであれば、きれいに映像化された原作の世界を楽しめるかも知れない。また個人的には、劇中で親しい者同士がじゃれ合う様子が自然な感じで好きだ。終盤の鍋のしあわせ感も嬉しい。
なお余談として、同窓会の場面で相楽樹という女優が出ていたが(吉田みずき役)、何か思惑があるような顔でいながら結局何だかわからず、原作を読んでも書いてないので謎のままである。また「武蔵野市・三鷹市 協力作品」とのことだったが、劇中でも「武蔵野地粉うどん」「むさしのプレミアム」といったものが出ていて、東京なのに地方のまち興し映画のようになっていたのは変だ。