5.《ネタバレ》 風景がとっても綺麗なんだ。昭和末期の懐かしさもあるんだけど、「あ、この景色をもう少し観ていたいなぁ」って思ってたら、思いのほか長回しで観せてくれる。そのため、ゆったりとした気持ちで観ることが出来たわ。
初潮が来たのに頼れない母親。話題にもしない親子関係。1人で淡々とナプキンを買い、淡々と水着を洗う無表情の11歳が悲しすぎる。象徴的に視界を遮るブラインド。親子どちらも見たくないものは見ない、2人とも、都合の良いものだけを見るブラインドを持っている。
セリフがないから最初何を考えているか解らない窓拭きの青年と、孤独な少女。2人が出会い、再会し、夜の公園で語り、雨の夜に泊まり、2人きりの旅行へ・・・どう考えたって青年の不満が爆発するとかして、2人とも不幸な結末になることを想像してしまう。
地面に書いた楽譜を消す清掃車。メトロノームの音の奥で夫婦喧嘩。大好きな父親との思い出は、夫婦喧嘩の場面ばかり。夢の中のかがりは黄色のドレス。家庭も学校も現実がイヤすぎて、“もう無理”って意味の黄色信号なんだろう。黄色が象徴的に使われている。
良の優しい言葉に、最初しばらくはツンツンと不機嫌に答えていたのに、段々打ち解けて、良について次々質問するかがり。「青だよ」徐々に心も開いていく。かがりなりのお礼だろうか、良の海の話を絵に描くかがりが可愛らしい。無愛想に現金を渡してた子が、徐々に心を開いていく過程が丁寧に書かれている。グラスの水に広がる青い絵の具も、かがりの安心感や安らぎの現れかもしれない。
高熱を出したときも夫婦喧嘩していた両親。ここでは赤が使われている。母親の服装も赤。かがりの限界を超えたんだろうな。
〜※レビュー数が少ない作品にも関わらず、ここから先はかなりのネタバレを含むので、出来ればこの作品を観てから、読んでみて下さい。〜
東北の田舎で、良のお母さんが作った素朴なご飯をみんなで食べる。「この魚美味しい」こんな事言いそうにない子だと思ったのに。
不安の象徴だった蜘蛛が、ここでは良の実家を守っている。大きい浴衣でニコニコ笑顔。家の中が笑いに包まれて、観てるこちらの心もほぐされる。
山道や海岸を延々と歩く2人の映像。何のドラマも起きない、特にセリフもない時間だけど、すっごく心地よい。おにぎり美味しそう。
これさ、ラピュタ以降のジブリが何度もトライしている、リアル路線の完成形じゃないかな。伊藤監督というのか。長編映画初監督作品で、コレって凄いことだと思う。ノスタルジーの押しつけを感じない自然の心地よさ。
かがりの両親は最後、どうなったのかな。あの建物は何だろう?警察?裁判所?あのベンチの距離から2人の再婚は考えにくいから、かがりの親権を父親に譲ったのかな?って勝手に想像。
スクラップ・アンド・ビルドで建造物だらけの住みにくい都会。田舎を捨てて東京に集まっていく若者たち。廃れた田舎で以前のままの生活を続ける高齢者。若者の居なくなった学校は壊してそれっきり。そんな田舎で壊れたゴンドラを、別の壊れた船の板で直す良は、まるで父親との関係を修復しているようだ。
「もう帰るトコなんて無いの」から「帰りたくないなぁ」に。かがりの気持の変化が、セリフの少ない映像で充分に表現されていたと思う。
そんなかがりに良が送った言葉「どんど晴れ!」。「君が好きだ」とか「ずっと居て良いんだよ」とか「2人で頑張ろう」なんてありきたりの言葉でなく、『めでたし、めでたし。』って意味の方言。素晴らしいセンス、言葉のチョイスだと思う。
チーコを海に還して、かがりの心にも帰る田舎が出来た。だから東京に戻ってもきっと頑張れる。純真無垢な2人に私まで元気を貰えたわ。
さぁ明日から私も頑張ろう。