1.《ネタバレ》 エリック一家を襲った悲劇は映画よりも現実の方が過酷だった。
レスラー志望の六男もまた、自死を選んでいた事、
フリッツ・フォン・エリックは晩年妻と離婚し一人身だった事、
三男デヴィッドの死は痛み止めとして使用していた鎮痛剤の
大量摂取、つまり彼も薬物中毒による自死であったといわれてる。
「過度な期待によって挫折するスポーツ選手、その再生」てのは
映画ファンとしては食傷気味な題材なので、客観的に見れば
レビュー点数はこんなもんなんだろう、と思う。
だけどプロレスファン、特に「プロレス・スーパースター列伝」を愛読書とし、
土曜夜に「世界のプロレス」を見て80年代を過ごしていた私の様な
オッサンには突き刺さりまくりで、泣けて泣けて仕方がない。
プロレスから離れ、唯一生き残った次男ケヴィン・フォン・エリックが
自分の子供達に声をかけられ涙を流すラスト。彼は昔、父親の教えを
忠実に守り過ごしていた日々を振りかえる。
時代錯誤な父親と教育に無関心な母親。でも確かに愛情はあった。
兄弟は皆若くして死を選び再会は叶わない。ただ確固たる絆はあった。
チャンピオンになれた期間は短かった。 それでも強いレスラーだった。
世間でいう「呪われた一家」では、決して彼らはなかった。
現実のケヴィンにはあまりにも事態が悲惨すぎて、そんな感慨に浸る
には更なる年月が必要だったろう。もう心情的には無理かもしれない。
でもこの作品中、夢の中兄弟楽し気に抱き合うシーンを入れた
事で、この映画は世界中で身体を傷つけながら頑張っている
プロレスラー、ひいては目標に向かって努力を続けている
市井の人びとへの監督なりのエールなんだ、と感じてしまった。
アイアンクロー、フォーエバー。
とはいえケリー・フォン・エリックでいえばディスカスパンチ
(学生時代円盤投げの選手だったなごりから得た回転パンチ)
の方が、アイアンクローよりも好きだったなぁ。
物理学者映画に埋もれてしまう前に、どうぞ。