172.《ネタバレ》 北野武の映画は、北野が出ない「キッズ・リターン」とか「あの夏、一番静かな海」みたいな映画の方が好きなんだけど、北野が監督・主演で唯一好きなのがこの「HANA-BI」だ。
北野のファンの中には「“ソナチネ”のような鋭利なものが無くなり、優しさばかり溢れている」という人もいる事だろう。
だが、俺は優しさと冷たい暴力が共存するようなこの映画が好きだ。
「ソナチネ」や「あの夏、一番静かな海」の蒼き海の美しさ、「その男、凶暴につき」の孤独な警官の物語。
まず、武が多くを語らないのが良い。
劇中で咲き乱れる花、花、花。
火花のように散る血、血、血。
少しかすめただけでも噴出すような真っ赤な血液。
特に劇中の北野が演じる警官は、すぐに爆発して散ってしまいそうな存在だ。
夜空に打ち上げられ、一瞬美しく咲き乱れ、消えていく花火のように。
子も失い病の妻を気遣う警官。
妻が死んだら自分はどうするか。生き続けるか、それとも・・・。
そんな時に、同僚が撃たれ彼は部下と共に犯人を追う。
駅の売店で犯人を見つけ、捕まえようとする北野。
揉み合いになり、犯人が放つ拳は爆弾の起爆剤を押すように口から血を噴出させる。
たけしだったら自分の足ごと犯人を撃ち抜いていただろう。静かな怒りが主人公を動かす。
警官をやめ、ヤクザのような黒装束とサングラスで身を包む北野。
「銀行強盗やろうと思ってよ」なんて嘘か本当か解らないジョークを飛ばす。これが有言実行なんだから恐ろしい。
“ナイフ”の場面でアクションを影だけで演出するのが面白い。
そのナイフを相手がパッと両手で受け取るのなんか思わず笑ってしまった。
妻の治療費のため、そして残された部下のためにヤクザ相手に独りで立ち回るのだ。
終盤の怒涛の如き流れも、静かな空気が肌を刺す。
偶然出会った少女に、主人公は亡き子供の面影を見たのだろうか。
胴体だけ先に行き、残った両手もまた後を追う・・・。
ラストの海を見ながら「ごめんね」と呟く妻と静かに過ごすシーンが印象的だ。