16.《ネタバレ》 まずは、もったいぶった演出がツボに嵌まった。
暗闇を基調とした独特の映像も気に入った。さすがに評判の監督だけはある。
主題としては「映像の暴力」を批判しながらも、本作が「映像の暴力」を売りにしているという自己矛盾を抱えている点も面白いと思う。
映画の中で「大衆の要求に応える」ことの重要性を語っているから、そのあたりに矛盾に対する答えを盛りこんでいる気がする。
また大衆の「潜在的な暴力嗜好」として、冒頭の飛び込みを描くことにより、見たくなくても見てしまうという衝動は主人公だけでなくどんな人にでも抱えているものであることを示している。
これは映画の中の主人公が興味本位で巻きこまれている虚構の世界を描こうとしているわけではなく、より現実的な世界を描こうとしている姿勢が感じられる。
映像と現実とのズレを解消しようとしている相当に良い例を持ち出していると思う。
サスペンスとしても実に手が込んだ面白い脚本だった。
見ている時には、一瞬で「どうせこの新しい教授が犯人なんだろう」と思わせておいて、教授を単なる前振りにしか用いないという大胆な使い方。
そして「じゃあ、犯人誰よ?」と謎を深めさせておいて、結局「なんだ嫉妬女の単なる逆ギレかよ」と落胆させておいて、ストーリーを全て原点に戻すというのも斬新だったなあ。
その上、ラブストーリーの要素を絡ませるなんて、これまた素晴らしい。
自分が好きな女が好きな男のビデオを見ている姿をその女のことを好きな男がビデオに映している姿が映像として流れるのも面白い仕組みだ。そして見ている者に対して少し切ない気分にさせる。
この切ない気分にさせることによって、ラストの単なる「お茶への誘い」が単なるものではない効果をもたらしている。