12.《ネタバレ》 聞きしに勝るカルト的なSF映画だった。
ただし、決して奇をてらった“とんでも映画”というわけではなく、気が遠くなりそうに緻密な演出と撮影、そして揺るがない美意識に支えられた極めてアーティスティックな映画だった。
とある宇宙線の影響により、砂漠地帯の“蟻”に劇的な「進化」がもたらされる。
高度な知性を得た蟻とうい種が、徐々に周囲の環境を支配し、ついに人類と敵対する。
というのがこの映画の導入部。即ち“PHASE I”である。
その進化にいち早く気づいた科学者二人と蟻との攻防が描かれるわけだ。
この映画が、邦題「戦慄!昆虫パニック」というテイストの通りだったならば、良くも悪くもB級モンスター映画に仕上がっていたことだろう。
しかし、この映画の邦題は大いに見当違いであり、そんな生半可な仕上がりを許すものではなかった。
この特異な映画が描き出すものは、この世界の支配者とされる人類とそれを脅かすものとの攻防などではなく、現状の支配者が新たな支配者によって確実に速やかに取って代わられる様そのものだ。
蟻の脅威的な進化に対して、人間は必死に抵抗を試み、攻防を演じているように見える。
だが、実際はそうではない。
観察者であった筈の人間が、実際は蟻によって観察されていたことを知った瞬間、そもそもそこに攻防などという関係性は無かったのだと気づく。
この映画に映し出されていたものは、その“資格”を持った新しい支配者が世界を支配するという、あまりに自然的で、だからこそ残酷な生物の「理」だったのだと思い知った。
ついに支配を受け入れた人間の雄と雌が、禍々しく赤く灼けた太陽を臨むシーンでエンディングを迎える。
一寸それは夕陽に見え、世界の終末を感じさせる。
しかし、すぐにそれは昇る朝日だと分かる。“終末”ではなく、新しい世界の“はじまり”だったのだ。
そして「PHASE IV」というタイトルバック。参った。