75.《ネタバレ》 ロバート・ロッセンは数々のフィルム・ノワールの脚本を手掛け、自身も「ボディ・アンド・ソウル」という傑作を残している。
この映画も最初見たときはもう一押欲しいと思っていたが、再見して印象が変わった作品の一つだ。
ビリヤードに命を賭ける玉突き師(ハスラー)の生き様を描いた作品。
ビリヤードでのギャンブル生活に生き甲斐を感じる主人公は、ポーカーよりも競馬よりもビリヤード。
己の腕で玉を弾く快感に深酔していたと言って良い。
相手がマフィアだろうとゴロツキのたむろする酒場だろうと、女だろうと実力で何とかなると思い込んでいた。
実力は折り紙付きだが、思い上がるその性格は彼を孤独にしていた。
それが「痛い目」に何度も遭い、彼女の健診、或る賭博師との出会い、数々の試練を乗り越えて徐々に成長していく。
人間として成長していく彼だが、所詮ギャンブルは命を賭けた大博打。
一回でも手元が狂えば、身内すらも狂わせていく。
主人公は賭け事よりも大切な物を失ってしまう。
深い絶望、乗り越えた「試練」、吹っ切れた男にもう迷いはない・・・男は玉を弾く、弾く、弾く・・・。
ポール・ニューマンの挫折と成長を交えた人間像が良かった。
序盤は延々と玉突きの場面で、しかも飛ばし飛ばしと欲求不満になりそうなシーンが続いて少々退屈だが、徐々にエンジンが温めていく展開は良く出来ていたと思う。時折見せる華麗なショットも手伝って。
だけど、もっとポール・ニューマンたちのショットを、猛烈な特訓の成果をもっと映像で見たいなと思った。
シドニー・キャロルの脚本はフィルダー・クック監督の「テキサスの五人の仲間」で堪能した。
アレが面白かったからこそ「ハスラー」を見ようと思ったし、「ハスラー」から見ていたら恐らく「テキサスの五人の仲間」は見ていなかったと思う。
だが、この映画が本当に面白いのは「何度折られようとも挑み続ける不屈の精神」なのかも知れない。
挫折に次ぐ挫折で絶望の淵、諦めかけていたところに最愛の女性や師匠と呼べる男の支えもあって徐々に闘志を取り戻していく。
彼の“指”がそれを強く物語る。あの1本1本に彼の魂が宿っていくというか・・・。
束の間のピクニックのシーンは心打たれる名場面の一つです。