107.《ネタバレ》 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。
何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。
とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。
妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。
また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。
歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。
あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。
それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。
復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。
全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。
脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。
特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。
家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。
結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。
ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。