3.検閲の厳しいイランを離れ、イタリア・ルネサンスの地で表現される女性のエロティシズム。
それをジュリエット・ビノシュが艶めかしく体現する。
車のフロントガラスを流れていく街並みと空、そこに重なる車内の男女の像。ガラスや鏡を介した複写の主題も、レストランの窓ガラスや化粧室の鏡から、オートバイのミラーへの反射に到る細部まで手が込んでおり、迷宮感すら催す。
ウィリアム・シメルが登ってゆくホテルの階段の深い暗がりと、窓から差し込んでくる微かな陽光の推移など、光に対する感性あふれる画面にも魅了される。
画面奥の空間を示唆する多層的遠近感の演出も、ルネサンス絵画技法の映画版というべきか。
そして、雷鳴・風音・鳥の羽音・鐘の音色がもたらす豊かな空気の震えも聞き逃せない。