1.ジョン・ロバートソン『狂へる悪魔』(1920)以降、幾度も映画化されている
『ジキル博士とハイド氏』。
三十年代のルノワールならトリック撮影の工夫で見せたかもしれない
変身シーンそのものに、彼はいっさい興味を示していないようだ。
当時のテレビの利点である、マルチカメラによる芝居の持続性こそが
最大の関心であったらしい。
映画の敵とも見做されたテレビを否定することなく積極的に受け入れていく大らかさ。
それが、映画冒頭に本人として登場するルノワール自身の姿に見ることが出来る。
何より目を引くのは一人二役を演じるジャン=ルイ・バローの変貌ぶりだろう。
ルノワールらしいロケーションの中、
彼が電子音楽と共に街に現れ、奇矯な仕草とともに通行人を襲う彼の暴力
が圧巻である。
マルチカメラを活用したセット撮影のシーンは手狭な印象が強いが、一方で
ビル屋上からの俯瞰撮影や、街中の大階段などのロケ撮影も活かされており、
その中での暴力描写もテレビ作品だけにより際立っている。