1.《ネタバレ》 映画全体で無駄がなく大変良く出来た作品という印象。ちょっとした一場面も後に生きてきたりする秀逸なシナリオが非常に良いです。
冒頭でムッシュー・ヴィクトルに子供が出来たというのが、単に善良な市民像を印象付けるだけでなく7年後のストーリーの中でその子供がしっかりと役割を与えられていてストーリーの一端を担っているところが面白いですし、靴屋の主人が三人組の一人と口論している場面を序盤で組み込んでいたり、彼の奥さんが美人で他の男に簡単に流れていきそうなキャラクターである事もストーリーを構成する上での一要素となっていて、よく練られていると思いました。
また、靴屋の仕事道具である錐が優れたキーアイテムとして活用されていることも注目すべきポイントで、子供のおもちゃとして遊びで扱えるような物が子供の手を介して大人の手に渡り凶器に転じてしまうというのも唸らされます。
また、ムッシュー・ヴィクトルのキャラクターが非常に良く、この役を演じたレイミュという俳優さんは初めてお見かけしましたが、一人で二役を演じているかのように昼の顔と夜の顔を完璧に演じ分けているのが素晴らしいです。
夜のシーンでの目つきが鋭い怪訝な表情はまさに本格ノワールそのものといった雰囲気が出ていますし、昼のシーンもまた、家族や友人たちと語らう場面は勿論のこと、殺人を犯して家に帰って来た時のオドオドした様子や嘘を隠そうとしてひたすらまくし立てる滑稽じみた姿などかなり熱の入った演技で非常に楽しませてくれます。
彼の出演作はわずか4,5本ほどしかないようですが、是非とも他の作品でも彼の好演を見てみたいと思いました。