131.《ネタバレ》 この映画「依頼人」は、私が何度も観直している映画の1本で、大好きな宝物のような映画です。
「依頼人」は、法廷物を得意とする推理作家、ジョン・グリシャム原作の映画化作品で、同じく彼の原作の映画化作品の「ザ・ファーム/法律事務所」「ペリカン文書」と違って、この映画はサスペンスよりも"人間関係の確執"に、より重点を絞った内容の"人間ドラマ"になっていると思います。
11歳の少年マーク(ブランド・レンフロ)は、8歳の弟リッキーと一緒に近くの森に隠れて煙草を吸いに行き、そこで二人は偶然、見知らぬ男が、ピストル自殺する現場を目撃してしまいます。
リッキーは、その精神的なショックから植物状態になり、入院する事になります。
一方、マークは秘密を知ったため、マフィアに脅され、追われるはめになり、警察の事情聴取にも頑なに口を閉ざしてしまうのです。
知事を目指す野心家の連邦検察官ロイ・フォルトリッグ(トミー・リー・ジョーンズ)も、FBIと共にマークを追求していきます。
そして、マークは、自分と家族を守るために、わずか1ドルの所持金で、女性弁護士レジー(スーザン・サランドン)を雇い、弁護を依頼。
この二人の"心の絆"を軸に、マークに法廷で証言させようとする検察側の思惑を絡めて、スリリングな物語が展開していく事になるのです------。
事件の中心的存在であるマフィアは、物語の流れの中では、単なる脇役に過ぎず、主人公のマークと女性弁護士のレジーに対立する敵は、実はマフィア逮捕のためには手段を選ばない"検事"だという作劇の巧みさ。
それが、善悪を単純に二分化できない現代を象徴していて、実に面白いのです。
我々、庶民の象徴のような弁護士が、果敢な信念を持った態度と豊富な法律の知識で、辣腕検事をやり込める場面が特に素晴らしく、胸のすくような思いがしますが、この国民の権利を守るはずの法律が、逆に国民を縛る存在になっている現状を鋭く突いているなと思います。
そして、法律をもう一度、自分たちの手に取り戻す過程が、"民主主義の原点"を見つめ直す作業として描かれ、それが女性弁護士レジーの"自分の人生を見つめ直そう"という作業として、重層的に描かれているのです。
それがまた、少年マークのレジーを見つめる、彼の成長とも繋がっていくという、実に心憎い内容になっているなと唸ってしまいます。
レジーを演じたスーザン・サランドンの哀しい過去を引きずりながらも、弁護士としての矜持を持ち、世の中の理不尽な出来事に立ち向かおうとする弁護士像。
そして、自分だけを頼るしかない健気な少年マークに対する、優しい母性を感じさせる愛情の表現には、鳥肌の立つほどの思いで、彼女の演技力の確かさ、深さを改めて知る思いで、彼女の演技としては、彼女がアカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した「デッドマン・ウォーキング」と変わらないほどの素晴らしさだったと思います。