115.《ネタバレ》 チャップリンは様々な映画で人々の心に希望を灯し、次の旅先へ向い続けてきた。
それに一つの終止符を打つ「殺人狂時代」と「ライムライト」。
「キッド」や「カルメン」と違い真正面から死を見つめたこの2本は、一見正反対のようで根底には人の死が横たわる。
「ライムライト」は今まさに死が迫ろうとする女性の姿から物語は始まる。
街に溢れる音楽、アパートのある一室でぐったりとした美しい女性。右手の小さな瓶が総てを物語る。
その現場を目撃してしまうほろ酔いの男。
いつものチャップリンならドアを開けるまでにもう一騒動待ち受けているが、運命は彼に使命でも与えたかのようにドアを開けさせた。
何故かマイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーの「赤い靴」を思い出してしまった。
あの作品も踊りを愛し、愛するが故に舞台の上で命を燃え上がらせる作品だった。ここでは、美しいプリマドンナを救うためにチャップリンという天使が現れたとしか思えない。
放って置きそうで黙って見過ごせない情、死ぬ事のつまらなさと生きる事の喜びを彼女にありったけ注ぐチャップリン。まるで最後の力を振り絞るように。
ノミのサーカスは「教授(チャップリンの教授)」以来の“復活”。
クレア・ブルームは命の恩人に惹かれていくが、チャップリンは「過去の人間」として「未来を歩みはじめた」彼女のために見守る愛を選ぶ。
かつての「サーカス」や「失恋」といった作品がそうであったように、チャップリンは本気でその人の事を愛してくれる人を見つけたら、潔く身を引いてしまう男なのさ。
彼は彼女を愛しているからこそ頬をひっぱたき、笑顔で励まし送り出してくれた。彼の愛が彼女の脚も動かしてしまう。
チャップリンとクレアのダンスシーンが本当にキレいでさあ。
ラストのバスター・キートンとの狂騒的なグランドフィナーレですら、笑えるのに切なくなってくる。それは上映時間が迫る「もうすぐお別れ」という感覚だからだろうか。二人の息の合った演目が素晴らしいほど、不安も大きくなる。
あんなに笑えてあんなに切なくなる“退場”の仕方って有りかよ。
道化師は去り、美しい白鳥が次の舞台を踊り続ける。