229.《ネタバレ》 これ、話の根幹となるサスペンス部分よりも「他人の生活を覗き見する」という枝葉の部分の方が、よっぽど面白い映画ですよね。
なんせ前者に関しては「隣人が殺人犯じゃないかと疑ったら、本当にそうだった」というだけなので、今観ると新鮮味が無いというか、予定調和過ぎて楽しめないってところがあるんです。
でも、後者に関しては今でも斬新だし、普遍的な魅力があると思います。
自分が特に好きなのは「ベランダに布団を敷いて、仲良く眠るカップル」の描写ですね。
このベランダがまた、本当に布団を敷くのにピッタリなサイズというか、絶妙な手狭さで(良いなぁ……このベランダで、布団敷いて眠れたら楽しいだろうな)って、そんな風に思えちゃうんです。
飼い犬を籠に乗せ、それをエレベータのように地面に下ろす描写も、凄くミニチュア的な魅力があって好き。
もし、自分に模型作りの腕前があったら、きっとこの「裏窓の世界」を再現していたんじゃないかって気がします。
第二のメインストーリーと呼べそうな「孤独な女性」の描写も、凄く良いですよね。
殺人犯に関しては(どうせ逮捕されて終わりだろうな)と達観して観ていられたけれど、彼女に関しては本当にどうなるか読めなくて、自殺エンドも有り得るのではと思えただけに、作曲家の男性と結ばれ、幸せな結末を迎えてくれたのが、本当に嬉しかったです。
ラストシーンに関しては、バレエダンサーのトルソ女史も恋人と再会出来て、全体的にハッピーエンド色が強めな中「夫を詰る妻」という、新たな波乱を予感させる一コマも挟んでいるのが、ヒッチコックらしいシニカルさで、クスッとさせられましたね。
もしや、些細な口喧嘩から第二の殺人に発展する可能性もあるのでは……と思えるし、主人公が窓の外に興味を失くした後も、自分としては、もっともっと「裏窓の世界」を眺めていたくなっちゃいました。
それと、本作は細かい部分が丁寧に作られている点も、忘れちゃいけない魅力ですよね。
「窓を開けっ放しのままで犯行に及ぶ訳が無い」とヒロインや刑事に言わせて、主人公の話を中々信じてもらえない理由にしている辺りなんて、特に上手い。
この映画の仕組み上、どうしても「犯人は何故か窓を開けたままにしている」っていう不自然さを押し通さなきゃいけない訳で、それについて全く言及しないのではなく、むしろ率先してネタにして「だから主人公は信用してもらえないのだ」という形で活用してみせたのは、本当に見事だと思います。
裏窓からの視点に固定されている為、さながら舞台を眺めているような趣があるのも、特別な映画って感じがして楽しい。
女性が飼い犬の死を嘆き「ここで誰からも好かれてたのは、この子だけ」「だからなの? 妬ましいから殺したの?」と訴える様も、如何にも舞台劇といった感じでしたよね。
この辺りは、ヒッチコックも意図的に舞台っぽい物言いにさせたのかな、と思えました。
わざとらしいBGMを流さず「近所の作曲家の演奏が聴こえてくる」って演出にしているのも上品だし、視点が固定されているがゆえの「一方的に覗き続けていた相手と、目が合ってしまう」場面の衝撃も、実に良かったです。
そんな本作の短所はといえば……
肝心の主人公カップルには魅力を感じなかった事。
犯人と対決するクライマックスが、全然盛り上がらなかった事。
この二点が挙げられるでしょうか。
こうして書くと(いや、それって重大過ぎる欠点でしょ)(主人公達に魅力が無くて、クライマックスが盛り上がらない映画って、本当に面白いの?)って、我ながら不思議に思えてくるんですが、それでも間違いなく面白いし、傑作なんですよねコレ。
幹は細く頼りなかったとしても、枝葉が豊かに茂っていて、美しい樹木として成立している感じ。
鑑賞後も「裏窓から見える、小さな世界」が懐かしく思えて、何度でも再見したくなるような……
そんな、愛らしい映画でありました。