95.《ネタバレ》 表面的に綴られたストーリーは、あまりに稚拙であざとい。
しかし、その裏に見え隠れする「意図」に気がついた時、この映画に対する価値観は一変した。
その意図が、真の狙いか、偶然的なものかは定かではないけれど、結果的にちょっと“深追い”したくなってしまう作品であることは間違いない。
「思念」のみで時空を時空を越えるというアイデアが持つ脆さと深さ。
一見すると、ストーリー的にはあまりに稚拙で、中盤からラストにかけての顛末も陳腐と言わざるをえない。
しかし、鑑賞後、ふとある疑念が浮かび上がってきた。
すなわち、主人公にとってこの物語は果たして「現実」だったのか?という疑念だ。
スランプに苦しむ劇作家が、ふと訪れたホテルで肖像画の美女に盲目的な恋をし、その“焦がれ”のみで時空を越えようとした「妄想」だったのではないか。
「妄想」というキーワードが浮かび上がると、稚拙で陳腐なストーリー展開も途端に腑に落ちてくる。
主人公の独善的な“願望”なのだから、整合性もリアリティも関係なくなってくる。
実際にはこの映画の顛末に、そのような「妄想」を暗示する要素はないけれど、描かれる「時間移動」に明確な根拠がないからこそ、この映画世界において、「現実」と「妄想」の境界は曖昧になる。
主人公を演じるのは、元祖「スーパーマン」のクリストファー・リーブ。
彼の「スーパーマン」以外の映画を観るのはこれで二作目だが、改めて非常に良い俳優だったのだと思えた。
類まれなルックスは勿論、その俳優としての息吹は、はまさしく映画スターのそれであり、もし存命であったなら若い頃とは違った存在感をスクリーン上で見せてくれただろうと残念でならない。
すべてが主人公の妄想と錯乱だと考えたなら、それはあまりに悲しいけれど、その悲しさに対比するようなあまりに美しい“うつつ”に、心が惑い、やがて締め付けられる。