1.《ネタバレ》 物語は少女のあどけなさが残る大空真弓演じる女性が、雨の中でお墓参りをする場面から入っていく。
恐ろしく沈鬱なムード。
岡崎宏三のカメラが、その沈鬱なムードを際立たせている。
陰影の効いた、少し暗い感じのするモノクロ映像だったが、悲哀たっぷりに海を臨む墓地を映し出しており、文学的なムードと相まってとても美しい。
画面は一転して、明るめの雰囲気に。
そこで若尾文子が登場。
いやー、美しい。
艶かしい。
実に着物が似合っている。
お尻の線が色っぽ過ぎる。
今まで私が観てきた若尾文子出演作の中で、最も美しい若尾文子がそこにいた。
白状すれば、今までは若尾文子がそんなに好きではなかったし、大して美しいとも感じていなかった。
それが、本作で簡単に覆ってしまった。
本作では、若尾文子の美しさが見事なまでに映し出されている。
“ベスト オブ 若尾文子”な作品。
本作の魅力を一言で表現すればこんな感じだろうか。
若尾文子演じる雛千代は、悲しい過去を持ちながらも、とても明るく、誰に対しても優しい。
どんなに辛くて困難な状況でも、悪態をつかず、常ににこやか。
まるで、自分の幸せを全て分け与えてしまっているかのようだ。
雛千代は、娼館(置屋)で女郎をしているのだが、そこの女将さんの娘と懇意になる。
その娘を演じたのが、上に書いた大空真弓である。
娼館で勤める身なので、年下の娘に対して敬語を使う雛千代。
それに対して、娘はタメ口。
だけど、二人の雰囲気は悪くない。
悪いどころか、とても仲むつまじいのだ。
冒頭で雛千代が亡くなるという悲劇的結末を先入観として観ているこちらとしては、明るすぎるこの二人のやり取りが、むしろとても哀しいものに見えてくる。
この哀しき二人のやりとりを「美しい」とみるか、「陰鬱で辛い」とみるかは人それぞれであろう。
しかし、少なくとも私は、あまりにも哀れに感じてしまい、観ていて辛さばかりが先にたってしまった。
もしかすると、私と同じ様に感じていた人もいたのではないだろうか。
ここにDVD化されていない理由の一端があるんじゃなかろうか。
そんな気がした、あまりに哀しすぎる二人の仲むつまじきシーンであった。