31.《ネタバレ》 佳代の本音は何処にあったのでしょうか。
滋との面会時でも小菅の非礼に対して逆に照美に謝るように強要します。
拘置所にいる滋へ手紙を書く時も娘達へは本当の事を書けと言いますが、自分の気持を言葉にすると途中で感極まってしまいます。
彼女にとって思想統制等はそれ程重要ではなかったと思いますが、愛する滋の自尊心を守る為ならば彼の恩師や父親をも敵に回します。
滋に一番戻って来て貰いたいのは佳代の筈ですが自分の気持を抑えて、あくまでも滋を立てます。
彼等が激昂した後にそれぞれの奥さんの言動を見ていると佳代の気持ちを理解出来ていたのはやはり女性なのだという事も分かります。
彼女自身、学校や隣組では嘘しか言えずに仙吉の前でしか本当の事は言えないと言っていますが、そんな仙吉も初子の為に奈良に帰って貰う事になります。
母として妻として自分を犠牲にして我慢に我慢を重ねる佳代は痛々しくさえ映ります。
そんな彼女の最後の言葉である「あの世でなんか会いたくない、生きてる父べえに会いたい」という言葉こそが彼女の本音だったと思います。
そしてその言葉を聞いた照美が号泣する姿を見ると、作中省略されている戦後から現在までの長い間も佳代は本音を言う事なく我慢して想いを秘めていた事が想像できます。
その後にエンドロールで流れるものは内容から推測すると滋の死後に届いた彼の手紙だと思います。
献身的に家族や自分を支えてくれている佳代への感謝と、自分と彼女を苦しい境遇に追い込んだ憤りを検閲に引っかからない程度(微妙な表現もありましたが…)に暈して書かれながら僅かですが生きる希望も感じられる内容にもなっています。
そんな滋の仄かな願いが理不尽な死によって掻き消された事を受けてもう一度佳代の最後の言葉を考えると非常に重いものとなって心に残ります。
作品全体を通してみると佳代のキャスティングは吉永さんが適役だったと思いますが山崎との無法松的な恋の話を絡めるとかなり無理が有るように感じてしまいます。
作中での彼等の年齢差は恐らく10~15歳位の設定が妥当ではないかと想像すると吉永さんは雰囲気や演技でなんとかなるという範疇を軽く超えていると思います。
彼女を起用するのならば久子に山崎の気持ちを語らせずに彼の想いをわざと有耶無耶に表して見ている側に委ねたほうが良かったと思いますし、その場合は山崎と久子の関係を兄妹の様に仲良く描いてあげればすっきりと纏まると思います。
本作通りの脚本にするのならばやはり佳代を他のもう少し若い女優さんでキャスティングした方が山崎の出征を知った時のシークエンスは映えると思いますし、別れを告げた山崎を追っていく吉永さんの姿は前述したのとは別の意味で痛々しく見えてしまいました。
個人的には吉永さんの佳代が良かったので前者の様な内容にして貰いたかったです。