1.《ネタバレ》 自分のまわりの人間は、良い人か、悪い人か。
その判別を一体どれくらいの人が“正確”に行えているのか。
果たして、「自分自身」はどうなのか?
一人の人間のインサイドに潜む「迷宮」のような闇を、類い稀な人間描写で捉えた秀作だ。
と、永作博美が口笛を吹きながら夜の街を歩くラストシーンを見ながら、思った。
突然自殺した部長。日を同じくして行方不明になった一人の男。
彼の「存在」を追っていくうちに、彼に関わった人間の様々な「不幸」を知る。が、彼のことを心底悪く言う人は一人も居ない……。
人間は一人では不幸にも幸福にもならない。人間は、人間により不幸なり、幸福にもなるのだと思う。
一人の人間の“口車”によって人生が転落してしまうという静かな恐ろしさを、絶妙な人間描写で表している。
某シナリオ大賞の受賞作らしく、人間を描く着眼力と描写力の反面、舞台設定のディティールにはチープさや古臭さも感じた。
あまりに今風でない職場環境や、会社の人間模様、「1億円の横領」なんて設定には、素人臭さも見え隠れすることは否めない。
が、ストーリーが忍ぶように“ひたひた”と展開し、西島秀俊の関西弁の違和感を受け入れ始める頃には、すっかりと一人の人間の「迷宮」に引きずり込まれており、永作博美と共に“出口”を追い求めていた。
ラスト、主人公は自ら“出口”を見誤ろうとする。迷宮の闇の中にそのまま呑み込まれるのか否か…。
最後の最後に絡み合う人間同士の心理の様には、「正論」だけでは説明がつかない本質的な“あやうさ”が含まれていて、とても深淵だった。
浦沢直樹の「MONSTER」の語り口も彷彿とさせる、人間の内面に渦巻く闇にまつわるサスペンスと人間模様を堪能できた。