9.《ネタバレ》 石油採掘場で狼退治の仕事に携わる射撃のプロ、オットウェイが、
人生に絶望して銃自殺を図るという意表を突く冒頭部分から、
翌日乗った飛行機が墜落してしまうという意外な展開へなだれ込む。
幸運にも軽症で済むが、奇跡的に助かった7人に猛然と吹雪と狼が襲いかかる。
生きのびるためにどういう行動を取るのか?
突如自然の脅威にさらされ、極限に追い込まれた人間の心理状態を描くのが主題。
最も予想外だったのは、オットウェイは狼退治のプロなのに銃を使わないこと。
自分のライフル銃を雪中に発見するが、壊れていたようで、捨ててしまう。
これでは、狼退治の専門家で射撃のプロという設定が無になってしまう。このことが最後までひっかかった。
散弾銃の弾を枝につけて武器にする場面があるが、結局使わない。
彼が人生に絶望したのは愛する妻が死んだから。父も母も既に亡く、天涯孤独だ。
そんな彼が極限のサバイバル経験と他の生存者との交流を通じて、生きる勇気と希望を取り戻す魂の再生物語とも思ったが、それも違った。
彼は最初から十分なリーダーシップを発揮し、他者の面倒をよく見、声をかけ、励まし、狼を度々撃退するなど、大活躍し、心の弱さは微塵も感じられない。以上述べたような演出にはなはだ疑問を感じる。
言いたい事の焦点が絞られていないのではないか?
生存者は一人一人と消えていくが、彼らの人生が観客の心に重くのしかかるわけではない。
彼らの反応、行動は想定内で、これといった印象も残さず、「型どおり」に消えていく。
狼の恐ろしさはよく描けているが、ところどころに作り物めいたところが見え、恐さは薄らいでいった。
普通に考えれば、飛行機の残骸でシェルターを作って立てこもり、救出を待つのが正解と思う。
あの状況で森に逃げ込む人は、まずいないだろう。
狼から必死に逃げたあげくに狼の巣にたどり着くという皮肉な結末を用意した意図は何だろうか?
人生には逃れられない運命があり、結果はどうであれ、最後まで諦めずに戦うことが人間として最も勇気ある行動だ、とでもいいたのだろうか。死者の財布を持ち帰る美談があるが、重くかさばるので、写真と免許書類だけでよいと思った。
自然の猛威を示す映像は申し分なく、狼との戦いも迫力がある。何より音響効果が素晴らしい効果をあげている。なので一見の価値あり。