1.《ネタバレ》 明治末期の北九州で前半はゴンゾウという石炭流しの一人夫として、後半は若松で棒芯を経て組の小頭として健さんが大活躍します。
本作より5年前に公開された一作目の日本侠客伝では些か小頭としては少し線が細くて若すぎるきらいが有ったように思いましたが、この時期の健さんは何方の役どころも違和感なくピッタリとハマっています。
後半の任侠映画特有の展開や立ち回りなどは作品的に特出する所はそれ程無く進んで終焉を迎えますが、前半の話は健さんの若々しさと相俟ってかなり楽しめます。
ゴンゾウの仕事は喧嘩も兼ねているとの事で、荷役を巡りライバル業者相手に負けそうになると当然のように実力行使の手段に打って出る展開を見て、仮にも近代日本の話なのにこんなバカな解決法でいいのかと思ってしまいましたが、軽く調べてみると荒唐無稽でもない事に改めて驚かされてしまいました。
友達を頼って新天地に着き徐々に周りの信頼を勝ち得ていく玉井金五郎という若者を若さと渋さが調度良く混在している当時の健さんが見事に演じきっています。
そんな彼の魅力を感じさせて貰えるのが友達の新之助を傷めつけた相手のいるヤクザの親分達の酒宴に単身乗り込みに行くシーンです。
真っ直ぐな眼差しで相手を見据えて歯切れの良い台詞で啖呵を切る健さんは利他的で曲がった事が許せないが故に他人を惹きつける主人公が持っているキャラクターの説得力を増すと共に高倉健という人そのものを見せつけられた気がして高揚感と同時に爽快感を味あわせて貰いました。
また、このシーンではここでしか出ていない若山富三郎さんの淡々として大袈裟では有りませんが確かな存在感も堪能できます。
個人的には山本麟一さんが特に良かったですが、他の脇を固める役者さん達も地に足を付けた演技で安心して見る事が出来ますし、テンポは速くないのですが話が面白いのでリズム良く加えて心地も良く進んでいきます。
台詞などで説明せずに映像や情景で状況や心情を表しているのもその要因のひとつだと思います。
タバコの件や薬と一緒に菊の花を持って行くおマンの行動で見せる彼女の玉井への恋心が芽生える表現等は的を射た丁度良さが有り、見ていて演出の上手さを感じると共にとても気持ちが良かったです。
唯一、品と優しさを拭い切れない二谷英明さんが肉体労働者とヤクザの役というところに無理があった気がします。
本作を含めてこの様な義理人情全開の任侠映画を見たのはまだ3本目なのですが、それが持っている典型的な展開等は私の想定内に収まっていましたが、どの作品もドラマ部分の質の高い作りには正直驚かされてしまい嬉しい誤算でした。
当時、任侠映画の人気が高かったのは実はこの様なドラマとしての面白さにも起因しているのではないかと思える程楽しませて貰いました。