1.パンフレットの佐々木敦氏の批評を読むまでもなく、成瀬の『乱れ雲』とすぐ気づく。
三浦貴大の差し出す現金入りの封筒を幾度も幾度も叩き続けた臼田あさ美の手。
その彼女の手が、ラストの駅のホームで横に並んだ三浦の手をしっかりと握る。
そこには病床の加山雄三の手を握りしめる司葉子の手の記憶があると共に、
『百年恋歌』(恋愛の夢篇)での結ばれる手のイメージも重なって感動を増す。
地元PRありきの企画ながら、ドラマティックな物語とロケーションが見事に
融合しており、観光スポットを変に浮き上がらせるような愚も回避している。
焚火の灯りが映える夜の浜辺。
縦の構図を活かした、年季の入った工場内の風情。
艶やかな夜の駅のホーム。
それぞれの画面が低予算などまるで感じさせない出来だ。
その情景の中で震災後を生きる臼田あさ美、三浦貴大の佇まいもまた素晴らしい。