1.《ネタバレ》 人間の心に潜む闇を描かせれば天下一のトッド・ソロンズ監督の最新作ということで楽しみにしていたのですが(本作のひとつ前の作品はいまだに日本でリリースされていない)、これまでのソロンズ作品とは随分違うという印象を受けました。。。
ハゲでデブでオタクで、何の取り柄もないのにプライドだけは高いアラフォー男・エイブが本作の主人公。こういう残念な人は過去のソロンズ作品にも多く登場しましたが、本作のエイブについては対人関係における積極性があり、異性に対して強気のアプローチも仕掛けていきます。無気力か対人恐怖症の人物を主人公としてきた従来のソロンズ作品と比較すると、ここが大きく異なる点であり、勘違い男が的外れな行動をとりながらも恋路を爆走する姿からは、ジャック・ブラックの映画でも見ているような印象を受けました。彼の相手となるのは、メンヘル女・ミランダ。エンドクレジットでは「ミランダ(かつてのヴァイ)」と表記されており、この女性は『ストーリーテリング』でセルマ・ブレアが演じたヴァイの10年後という設定となっています。ヴァイとは、誤った正義感や責任感から弱者に対して過剰に肩入れし、本当は好きでもない身体障害者や有色人種との交際を重ねるイタい女子大生でしたが、本作においてもそのイタさは変わっていません。当初はエイブに見向きもしないものの、彼が可哀そうな人間であることを知ると態度を翻し、エイブからの求愛を受け入れます。一方、エイブは人間としてのまともな感覚を持ち合わせているため、このミランダの心変わりに異常なものを感じ取ります。。。
ここから映画は本筋に入るのかと思いきや、物語は予想もつかない方向へと舵を切ります。エイブが交通事故で瀕死の重傷を負い、彼の脳内の物語へとシフトするのです。この体裁をとることで部分的には面白い場面を作れてはいるものの(エイブが「俺の人生はキズ物だから交換して欲しい」とレジ係に訴えるが、「人生は交換も返品もできない」と断られる場面等)、全体としては展開の唐突さ、不自然さの方が目に付きました。従来作品にはあった、観客の心までを抉るような鋭い指摘も本作には見られず、それどころか、エイブに陰ながら好意を寄せる女性がいたことの暗示により僅かな希望までを匂わせており、ソロンズも随分と丸くなったものだと感じました。