1.パンフレットにも裏話として書かれているが、竹野内豊が中村ゆりかの前に現れる
シーンの庭を渡る風は偶然のものらしい。その特長的なロングテイクの中に奇跡的に
吹き渡る風のざわつきの感覚が非常にいい。
ショットの中に立ち現れる、作り手も予期しなかっただろう風物・生物のアクション、リアクション。それら偶然の産物が映画を充実させている。
中村ゆりかの飼っている犬、成海璃子らが飼っている猫のユニークな動作とタイミング
の絶妙なことといったらない。
楽団の演奏の何ともとぼけた感じと、それを手前で聞いている中村の緩い反応なども
ユーモラスだ。
一方で構図取りは非常に厳格である。
マンションのエレベーターやオフィス玄関の自動ドアや階段の昇降。
そこでの人物の出し入れが巧い。
求心的な構図から一転、ビスタサイズを目一杯使って二者、三者をフレーム両端まで配置してみせたりもするので、見る側も気合が入る。
その上でのラストのクロースアップと涙はただただ清らかだ。
劇中の映画ネタ、ご当地ネタはご愛嬌。坂道の数々や堤防越しの水平線がよく撮れている。
投稿後、『群像』の映画時評を確認。真似たわけではないので。念のため。