16.《ネタバレ》 冒頭から、この邦題に似つかわしくない張りつめた不穏な空気が漂う。
母と1人息子。母は夫と別れたことからまだ立ち直れていない。少年も父親がいない寂しさを抱えている。
その前に現れた1人の非常に危険な男。
この前半はあまり音楽も使われず静かに作品は動き出しますが、
その分1つ1つの物音や母と息子の目線など、緊張感漂う作品の空気が見事。
それでいて、この危険な男が徐々に意外な素顔を見せる。
どこか優しさがあり、料理上手で器用。
料理の他にも、男手の無い家でクルマや家の修理を買って出る。そして少年に野球を教える。
夫と父がいなくなった2人の前に突如現れた、招かれざる客であるはずの危険な男が徐々に微妙な存在に変わっていく。
作品の空気もこの3人からも徐々に緊張感が薄れ、あたたかみが増していきます。
作品は不安定な空気を持続しながらも、その中にあるあたたかみに実に不思議な味わいがあります。
しかしこれらは過去の出来事であり、少年による回想を交えて品は進むので、
この不安定な幸せは長くは続かないであろうことを匂わせます。
次第に作品の焦点はこの3人は果たして本当に幸せになれるのか?というところに変わっていきますが、
少年が町で出会った少女が変なたとえ話を持ち出す。それは「ボニー&クライド」。
これによって見る者はますますこの3人から目が離せなくなっていきます。
ジェイソン・ライトマンは近年の作品の「マイレージ・マイライフ」や「ヤング≒アダルト」では、
人生の折り返し地点を過ぎた頃の男や女の揺れる気持ちを表現してきました。
本作はそこに思春期に差し掛かる子どもの存在を実にうまく挿入しています。
夏休みが終わり、新学期が始まる日。警官、銀行、隣人が次々に不安感を掻き立てる。
そして徐々に大きくなってくるパトカーのサイレン・・・。
しかし本作は「ボニー&クライド」にはならなかった。
長い年月を経てのラストシーンが感動的です。