8.《ネタバレ》 トットは、特に強い希望や憧れがあって、TV出演者になりたかった訳ではない事が、冒頭示される。一緒に入った仲間たちは、それはそれは強い願望と努力の果てに、入社を勝ちとったというのに。そして数々の失敗を重ねながら、自分の進む道であるテレビジョンの世界で、少しずつ巧くやれるようになってくる。
幾つも語られる、生本番ゆえの、どうにも仕様のない失敗も面白いが、ある時トットが、寄りかかったセットの壁が倒れてくる、というトラブルに現場の知恵で対処する。これがおそらくトットの転換点。植木等先生がまた見事な慧眼で、いい事を言う。
「いいえ、重かったはずです。あなたの背負っていたのは、『テレビジョン』という、大きな壁だったのですから」
トットのこの時の笑顔が素晴らしい。自分のしている事、自分の存在、仕事の意味を理解した瞬間。評価された嬉しさ。
その後、新しいことに無理解な人たちとの闘いもありながら、自分の行く末の仕事が、かつての人々の「夢」の実現であることを知ったトットの、暗闇でもそこに向かって歩き始めた後ろ姿のラストシーンは、清々しい感動だった。
この映画は若者の青春映画だが、新人社会人への優れた啓蒙映画としても見ることが出来る。
また、後年、三谷幸喜がそこに見つけた、コメディエンヌとしての斉藤由貴の優れた資質を、すでに見ることが出来るのも嬉しい。