2.《ネタバレ》 この話は、とてつもなく狂おしい永遠の愛の物語と思い、非常に心を揺さぶられました。
とにかく美しく、静謐な映画でした。
映像は一つ一つの場面がそのまま絵画にして飾られてもまったく遜色ないくらいで、主人公2人とその周りの人たちがそれぞれ個性的で美しい顔立ちで、着てる衣装も18世紀のそれぞれ美麗な衣装で、描かれる場面も独特の形の岩を背にした海岸だったり、屋敷も貴族の家の、派手派手ではないけど、美しい調度や楽器や椅子や食器や、主人公の一人が絵描きなので絵を描く道具などが並べられて、それらをじっくり見てるだけで眼福という感じ。
静謐の方は、とにかく「音楽」が作中ほとんど流れる場面がないので、大半が自然音ばかりなのですが、登場人物の声と、息づかいと、足音と、衣擦れの音と、海辺の波の音と、風の音と、道具や食器の音くらい。声や人の動きによって出る音も、終始感情のない淡々とした言葉や音ばかりで、ほとんど全部の箇所がずっと静かなまま淡々と進んでいく(親しくなるにつれてだんだんお互い感情を出すようになってきますが)。
ただ、その静けさというのは、登場人物が心穏やかなので大きな音を立てないというのではなくて、本当は熱い情念を内に秘めてるけれども、それの心をじっと殺して、そんな感情などあることなど忘れ去ってしまうくらいに殺し続けて、保たれてる静寂であって、だから、静かだけど、ものすごい緊張感が最初から最後までピンと糸が張ったように持続し続けています。
それが、打ち破られるのが、4か所音楽が鳴るところで、それまで音声的にはまるで白黒映画を観てるような、乾ききった音しかなかったものが、音楽が鳴る場面だけ、極彩色のカラーの映画を観てるような、音的に華々しい躍動感あふれる場面に変貌して、その劇的変化に痺れました。
作中で、主人公二人が「どこで初めてキスしたいと思ったのか」と問いかける場面があります。女画家の方は焚火の場面でそうだったと答えるのですが、貴族の娘の方は、いろいろあって答えられずに、その問いの謎が「永遠の謎」として残ります。永遠の愛をテーマにした物語ではそういう「永遠の謎」が残って、そのまま相手が死んでしまうので、答えがわからないまま残された人が途方に暮れるというのが定番の展開と思うのですけど。本作では、相手は死ぬわけではないけど、社会的に許されないので、死ぬまで秘密にし続けなければならない、ということによって「永遠の謎」が「永遠の謎」になるという構成が、愛の物語として、すごい画期的だなあと感じました。
当時は女性はまともに人権が認められず、結婚相手も親に勝手に決められる状況で自由はなく、なおかつ宗教的(もしかすると法律的にも)同性愛は認められない時代でしたので。
この辺は、18世紀の話だけど、現代でも、ある意味、あまり変わってないのではなかろうか、というのも思いました。LGBTQの件なんかも法律的には許されてるけど(国によっては許されてないところもまだありますが)、信頼できる人などに「カミングアウト」した時しかそのような志向であることをなかなか明らかにできない、という現状があったりしますし。
……というようなことを考えあわせた結果、貴族の娘が「どこで初めてキスしたいと思ったのか」の場面は、あそこかなあと思った次第で、話の構成自体は割とシンプルかつシステマチックだなあと感じました。