1.《ネタバレ》 彼の名は、ジェファソン・キッド大尉。今は退役したものの南北戦争で戦ったかつての英雄だ。そんな彼の現在の職業は、〝ニュース屋〟。まだ通信技術も移動手段も限られていたこの時代に、普段新聞を読まない市井の人々のために全米各地を転々としながら日々の出来事や政治情勢を分かりやすく読み聞かせることを生業としている。今日もまた次の町へと向かうために荒野を旅していた彼は、途中10歳くらいの謎めいた少女と出会う。白人でありながら英語は話せず現地の民族服を着た彼女は、明らかにインディアンに連れ去られた子供だった。調べてみると、彼女の名はジョハンナ。6年前にインディアンによって家族を皆殺しにされて、そのまま部族の中で育てられたらしい。唯一の身寄りは、テキサス南部に暮らす叔父夫婦のみ。遠方へと出払ってしまった保安部隊の代わりに、地元当局から身内の元へと送り届けてほしいと頼まれた彼は、仕方なく彼女を連れて荒野へと旅立つのだった。だが、武器となるのは鳥撃ち用の貧弱な散弾銃だけ。そんな二人を当然、荒野の荒くれ者どもは見逃すわけもなく、執拗に付け狙い始める……。『キャプテン・フィリップス』のポール・グリーングラス監督と名優トム・ハンクスが再びタッグを組み、南北戦争後のアメリカを舞台に孤独な退役軍人と家族を皆殺しにされた少女との苦難の旅路を描いたロード・ムービー。主人公となるのが現役バリバリの英雄なんかじゃなく、今や老境へと差し掛かろうかという枯れたオヤジというのが本作のミソ。そんな圧倒的に弱い立場の二人の旅路は常にサスペンスフルで最後までハラハラドキドキの連続で目が離せません。特に中盤、少女を売春宿へと売り飛ばそうという無法者3人に荒野で追い詰められるシーンは、リアルで生々しくひりつくような緊張感に溢れた名シーンでした。それ以降も、豪族が支配する地方の村落でニュースの読み聞かせからのアジテーションで村民に暴動を起こさせて逃げようとするシーンは、名優トム・ハンクスの面目躍如といった素晴らしい熱演で見応え充分。そんな彼とタメをはる子役の女の子も、これが新人とは思えない堂々とした演技で全く負けておりません。最後のオチもベタながら、この茫漠とした世界の中で微かな希望を感じさせ、良い余韻を残してくれます。過酷な運命に見舞われた少女がこれから先、少しでも幸せになってほしいと祈らずにはいられないなかなかの逸品でありました。