1.《ネタバレ》 約1時間半の上映時間があっという間だった。「怪盗グルー」シリーズはこれまで地上波やレンタルで、しかも半ば迎合的に鑑賞してきたけれど、この作品は可能なら是非劇場の大画面で鑑賞することをお勧めする。スケールが(無駄に)大きく、映像は細部に至るまで凝り、馬鹿馬鹿しくてくだらなくてアホらしいけれどキレッキレのアクションは実写を軽く凌駕し、打ち上げ花火のように猛烈な勢いで次々炸裂する、そんな映画だ。子供は大笑いするし大人は頭の中を空っぽに出来る。
シリーズのスピンオフという位置づけだそうだが、ミニオンズはもうグルーのお株を奪うほどの人気者だ。その人気の源はなんと言っても大勢で押し寄せる迫力にある。一応ケビン、ボブ、スチュアートという主役トリオが居るが、その他大勢も騒々しく勝手気ままに振る舞い、イタズラを繰り返す。行く先々で起きるのは破壊と混乱ばかりだがどうにも憎めない。今作では4番手のミニオン「オットー」が登場するがコイツが肝心な所でご主人グルーの命令を忘れ、自分の「好きなこと」を優先させてしまうスカポンタン。歯列矯正中(つまり半人前の暗喩)の外見と相まって頭を抱える問題児だが、責任感はとても強く、単独行動(これもミニオンの行動パターンから外れている)の末にクライマックスでイイ感じの活躍をするものだから、ホロリとしてしまう。
敵役「ヴィシャス・シックス」もくせ者揃いで一人ひとりがとにかく強い。まあそのぐらいで無ければミニオンズに対抗出来ない。余談だが市川正親、尾野真千子の演技がピタリと合っていて何の違和感も無かった。渡辺直美のカンフーマスターは外見ですぐ分かったが、これも文句のつけようが無い。「話題作りで有名人や芸人に声優をさせるな、プロ声優に任せるべきだ」という意見は世間に未だ多いが、この作品はその批判を跳ね返す稀有な例になるのではないかと思う。田中真弓、大塚明夫、立木文彦といった豪華ベテラン声優を脇役に配しているところにも話題だけでは無いキャスティングをしっかり考えている日本語版制作陣の志を感じる。
序盤のヴィシャス・シックスによる中国奥地での秘宝盗掘は「完全に」レイダース/失われた聖櫃のパロディだし、そこからの怒濤の展開はテンポも快調で見事だ。70年代の風俗が次々登場する物語は、30代以下の観客層(特にティーンズ以下)には新鮮に写るし、それ以上の層はニヤリとさせられる。主人を助けるために旅客機を(結果的に)ハイジャックしてサンフランシスコに向かう時の騒動は、70年代に流行ったパニック映画「エアポート」シリーズを彷彿とさせる(あのシリーズもあちこちでパロディのネタにされることが多く、ギターの弾ける尼さんや重病の手術を受けにいく少女、親に結婚を反対されているカップルが搭乗しているという設定自体がおちょくりの対象にされていた)。特に主役トリオがカンフーマスターに弟子入りしてからのくだりはブルース・リー人気を知る人には爆笑必至だ。
ディズニーやピクサー作品では味わえない馬鹿馬鹿しさがこの作品の一番の魅力だ。あー面白かったと映画館を出られる映画のお手本として推したい。