9.《ネタバレ》 とても重たい内容ですが、テンポが良いので思いのほかサクサクと観ることができた。また、光と影やカメラアングル、カット割りなどが映画的な工夫がされていたのも良かった。主演の松山ケンイチさんは言うことなしだったが、長澤まさみさんが、こんな演技できるんだ!という驚きと感動があった。ただの客寄せパンダのアイドル女優ではないんだと、失礼ながらに思わせてくれた。
現代社会における介護問題を取り扱ってはいるけれど、社会的な視点寄りではなくあくまでも主要人物たちだけでの視点で物語がまとめられているので、そこに自分自身を投影させやすく問題と向き合いやすくなっているのは、この映画が単に問題提起だけではなく一歩その先を見据えて作られたというこでしょう。
斯波(しば)が役所へ行って生活保護の申請をするシーン。あなた働けますよね。介護をしなければならないから働けなくなってしまった斯波に対してあまりにも辛辣すぎる。でも実際にこれが現実なんでしょうね。ただちょっとだけ疑問に思ったのは、もう食べれなくなって云々と当時の状況を赤裸々に語ったけれど、その後の生活は一体どうしたんだろうかと...身寄りはないし働いてないから借金もできないはず...些細なことなんですけどね、こういった現実性のある問題作だからこそ隅々まで徹底してほしいかな。
この映画における問題提起に対する答えは三者三様で、斯波のパターンもあり大友のパターンもあり、救われたという遺族もいれば人殺しと叫ぶ遺族もいる。また、新しい人生をスタートさせた遺族(坂井真紀さん)は、人はお互い迷惑をかけ合うものと言う。それぞれがそれぞれの人生があり価値観がある。ただ私はやっぱり斯波の他者への関与は違うと思うし列記とした殺人なので、そこだけは同意できない。もし自分がこの映画の中の悪戦苦闘する身内を介護する者だったとしても、他人である斯波に命の選択はさせたくないし、殺されたら怒りもします。そこだけはブレない自信はあります。
大友が父親を見殺しにしてしまった件が出てくるが、画面の中に大量の処方薬が出てくるだけで死因がなんだったのかがわからないし、そこまで重体な状態だったとしたら病院側の対応に疑問を感じてしまう。そして死にそうなほどの病状ならば娘である大友がそれを知らないのもおかしいし、知っていてそれを放っておくというのもあまりにもちょっと脚本的に無理があるようには思えてしまった。ラストで明かされる衝撃の事実としては少し狙いすぎた感も...。
色んな登場人物が出てくるがもっと印象的だったのは峯村リエさん演じる介護士の猪口。酒の席で身内による介護者の殺害話をしたり、取り調べでもっと話したいとアピールしたりと飄々としているように見えるが、その実後輩が取り乱したらしっかりと受け止めたり、介護者たちの限界を見極めたりと、しっかりと物事を捉えている。捉えているけれどそれを表には出さずにいるのは、それをしてしまうととてもではないが精神がもたないからかでは...と、一番この作品の中でうまく立ち回っていたなと思いました。猪口ののような器用さが介護には必要なのかもしれませんね。
良い映画でした。ありがとうございました。