1.《ネタバレ》 黒沢清の映画は多作故に当たり外れが非常に大きい。
本作は明らかに後者。
タイトル通り、雲のようにあやふやで掴みどころがない。
それは主人公のはっきりしない対応であり、転売で当たるかどうか分からないギャンブル要素であり、
ネットで増幅する姿の見えない悪意である。
悪びれることなくどこか他人事で、常に棒読み台詞で人の形をした空虚みたいに。
射幸心。
一山当てたいがために中毒性のある一過性の幸福を手に入れ、ひたすら視野が狭くなっていく。
主人公の関心は如何に安く仕入れた大量の商品が高く売れるかで、
物欲大好きな恋人よりも、猟友会の男が死んでも、殺人による死の危機を脱しても、
売り物が無事であるか、そして売れるかどうかしか見ていない。
それはSNSの「いいね」にそのまま当てはまる。
不特定多数の何かに依存し、四六時中ウォッチして、「いいね」が少なければ人は病んでしまう。
黒沢清ならではのダークな画作りと演出に、おおっと思わせるシーンはあった。
ところが中盤以降の廃工場のガンアクションで映画が既視感だらけの薄っぺらになってしまった。
ほぼ『蛇の道』のクライマックスのまんま。
助手にパソコンを使われたり(パスワード掛けろよ…)、主人公が攫われて殺されるかもしれないのに忍び込む恋人、
なぜか主人公に執着する狙う側の元職場の経営者と守る側の助手(どこかボーイズラブらしさがある)、
それぞれの背景がはっきりしないまま終わってしまった。
100%描き切れば良いわけではないが、この曖昧さのバランスの悪さが足を引っ張っている。
素性がバレ、恋人に裏切られ、これから巨大な組織に取り込まれるだろう主人公には深い地獄の入り口が待ち受けている。
自業自得と言えばそれまでで転売ヤーに対する目が厳しくなっている以上、
彼らに一切関わらない、ネットに依存しすぎない、真面目に働こう、という教訓が得られるくらいか。