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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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861.  ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 - スペシャル・エクステンデッド・エディション -
今後、これ以上の映画が登場するのかと不安になるほどの出来です。通常の映画2本分の長さでありながらダレる間がなく、見終わった後の達成感もひっくるめて見ている側も旅に参加したような気分になれます。「ナルニア国物語」の完成度と比較すればわかりますが、予算がかかっている、技術レベルが高いなどの理由だけでこれほどのものは到底作れるわけがなく、ピーター・ジャクソンという監督の采配あっての完成度です。ひとつひとつのシーン、ひとりひとりのキャラクターを監督が愛情をもってきめ細かに描いている密度があるからこそ、これほど上映時間が長くても見る者の目を離させることなく、自然と集中して見られたのだと思います。セリフのあるキャラクターの心情をじっくり伝えるだけでなく、軍勢をなすオークやトロルの一体一体までに個体差があり、彼らが痛がったり怖がったりする様子までさりげなくも几帳面に描かれているという仕事の細かさはまさに驚異的。このおかげで合戦の連続のこの第3部もただド派手で大味な作品にならずに済んだのだと思います。ストップモーションのキャラクターに個性を与えたハリーハウゼンの仕事をCGの時代にやったのが本作の功績のひとつでしょう。またこの映画の大きな功績だと思うのが、文章のイマジネーションに実写が負けていた部分を相当革新させたことです。例えばトロルやオリファントが軍勢を蹴散らし、ドラゴンが空から襲ってくる様子。文章においては表現されてきたこれらの光景も映像としては実写どころかアニメですら再現されておらず、作り手のイマジネーションが文章に至っていなかったひとつの例だと言えますが、ピーター・ジャクソンという人物は今までできなかったこの映像を十分に説得力ある形で見せてしまっています。また箱庭のような狭っ苦しい印象しか残らなかった実写ファンタジーの世界観を映画史上はじめて覆し、どこまでも広がるような世界を再現、エルフの高貴さや指輪の邪悪さという実在しないものまで十分な説得力をもって表現しているのは驚くべきことです。これがなければフロドの旅の過酷さやゴンドールが挑む戦いの絶望は伝わらず、困難に挑む登場人物たちの苦悩やそれに打ち勝つ勇気という指輪物語のテーマの表現はできなかったでしょう。そんなわけで、世界でピーター・ジャクソンでなければ作れなかった、これ以上の完成度は考えられない映画史上の金字塔と言えます。
[DVD(吹替)] 10点(2006-11-12 21:46:38)(良:2票)
862.  太陽の帝国(1987) 《ネタバレ》 
スピルバーグ作品中でも注目度や知名度の低い作品ですが、今になって見るとスピルバーグ本人の中ではけっこう重要な作品なのではないかと思います。スピルバーグの感傷的な演出がこの映画ではほぼなくなっているのがまずひとつ。死人から靴を奪う、他人の食器を盗んで2人分の食料にありつくなど倫理的にいかがなことを平気で出来るようになることが主人公の成長として描かれてる上に人間関係もきわめてドライで、収容所内ではみんなで助け合って生きているように見えても、少し目を離しただけで自分の物を盗まれるなど結局は自分のことしか考えていない様子。保護者役をやっていたベイリーも慕ってくるジムに愛情をかけているとは言いがたいものがあります。キジ獲りの罠を仕掛けるエピソードでは、地雷が埋まっている可能性のある鉄条網の外へジムを行かせ、彼が生きて帰るかどうかを賭けるなんてことをやっているし、結局はジムに黙って収容所を脱走して姿を消してしまいます。損得関係なく唯一心を通わせていた日本人の男の子もベイリーに殺され、4年の間で作ってきた人間関係は完全に消滅。ひとりになったジムはようやく両親に再会しますが彼は両親の顔を忘れており、再会の感動もないまま死人のような無表情で話が終わるという絶望的なラスト。最近のスピルバーグならともかく、20年も前にここまでの映画を撮っていたというのは驚きです。また、死への執着というもうひとつの特徴がこの映画では見えはじめています。スピルバーグを語る上で死は不可欠な要素であるもののその性質が判明したのはシンドラーのリスト以降なのですが、この映画にはその後の彼を思わせる描写が見受けられます。冒頭からして揚子江に浮かぶ棺からはじまり、主人公は少年でありながら多くの死に直面します。しかも死に行く者がのたうち回ったり何か言い残して死ぬという映画にありがちな劇的な描写ではなく、何の言葉も発することなく気がつけば死んでいたという突き放したような死。死は刹那的に訪れるというのがスピルバーグの認識のようですが、それを映画の中ではっきりとやったのはこれがはじめてではないでしょうか。後にシンドラーのリストやプライベート・ライアンでやる演出のプロトタイプみたいなシーンもあるし、作品自体は少々間延びして退屈ではあるものの、スピルバーグのその後を思わせる描写がいくつもあるので見る価値のある映画だとは思います。
[DVD(字幕)] 6点(2006-11-10 00:52:42)(良:3票)
863.  荒鷲の要塞
こういう映画を見ると、映画の技術というものは確実に進化しているのだなと実感させられます。主人公には弾が当たらないのにドイツ兵はバタバタと死ぬ、ドイツ兵はバカみたいに主人公の罠に引っ掛り続ける等、この時代の映画の見せ方は現在のアクション映画とは比較にならないほど稚拙だと言えます。また脚本の練り方も現在の水準からすればつっこみが非常に浅く、味方の中に3人も二重スパイがいながら主人公達や観客が翻弄されるという展開がない(彼らを巧く使えば前半の山場になったはずなのに)、いち早く潜入に気付いたゲシュタポ隊長をすぐに殺してしまう(彼を好敵手にすれば盛り上がったはずなのに)、救出したカーナビー将軍は一言もしゃべらず主人公達のうしろにくっついてるだけで存在感ゼロ(あのチームではただひとりの異色な存在だったんだから、彼にも見せ場を与えれば話の幅がもっと広がったのに)、スパイいぶり出し工作という最高のアイデアがセリフだけで説明される(話の展開とともに少しずつ全容が明らかになれば最高に面白かったはずなのに)等、おいしくなりそうなところを相当素通りしています。とにかく主人公達が圧倒的に強く、彼らの計画が式次第通りに進んでいくだけなんですね。相当困難なミッションをやってるわけですから、一筋縄ではいかない展開の方がおもしろいのに。警戒厳重な拠点に潜入しながら、周りが敵に囲まれているという緊張感もないし。そんなわけで現在の水準と冷静に比較すればレベルの高い作品とは到底言えませんが、だからと言って現在では評価に値しない作品だというわけでもありません。年代ものの映画特有の雰囲気とでも言いますか、現在では到底出せない絶妙な空気を映画全体が放っているのです。困難なミッションを与えられた主人公達が超人的な活躍をして当然のように成功を収めて帰還する。戦争ファンタジーとも言えるこのような話をお笑いにすることなく真っ当な映画として成立させるのは、現在ではちょっと無理だと思います。この時代の映画だからこそこのような設定でも素直に成立しているのであり、古風な脚本、レトロな撮影、往年の俳優の存在感など映画全体が放つ昔ながらの空気に馴染むと、「今だったらこう作ってるのにな」なんてことを考えるのは野暮。そういった意味では十分に評価すべき作品であると思います。
[DVD(字幕)] 6点(2006-11-07 23:44:45)(良:1票)
864.  シンデレラマン
特にひねりのない直球勝負の良い映画でした。くせのない良心作ばかりを職人さんのように作り続けるロン・ハワードという監督を私はあまり好きではないのですが、この映画ではその無個性ぶりがしっくりきていました。不景気でどん底に追い込まれた元スター選手が復活するという超ベタなお話で、守る者ができたから彼は若いボクサーにも負けないんだよなんて聞き飽きたきれいごとで出来た映画ですので、これぞロン・ハワードが撮るべき映画。彼のマジメ一直線な演出とここまで相性の良い題材は他にはありません。とロン・ハワードをバカにしてしまいましたが、確かにこの映画は良いんです。ロン・ハワードの手腕がここまで吉と出る題材はなかなかありません。実話というエクスキューズがあるおかげで「はいはい、ベタですね」とバカにもできないので、けっこう素直に話に入り込めました。ファイトシーンも良く撮れていて、体中に力を入れながら画面に見入ってしまいました。敵のパンチをいっしょによけたりなんかして。脚本の出来が良く、要所要所でいいセリフもあるので、素材の良さを邪魔しないマジメな演出がこの映画には最適なのです。他の監督が撮っていれば、やはりそれぞれのクセが出るせいでどこかがおかしくなったと思います。スコセッシが撮れば夫婦ゲンカの罵りあいが見るに耐えなかったかもしれないし、ストーンが撮ればボクシング業界の内幕がドロドロしすぎたかもしれないし、スピルバーグが撮れば感動の押し付けが度を越したかもしれない。ロン・ハワードという無個性な演出だからこそ、バランスのとれた本当の良心作になりえたと言えます。
[DVD(吹替)] 8点(2006-11-05 22:16:53)(良:1票)
865.  オープン・ウォーター 《ネタバレ》 
泳ぎの不得意な私としては相当怖い映画でした。サメが襲ってくる、クラゲに刺されるという直接的な恐怖以前に、だだっぴろい海のど真ん中に丸腰で放置されるというあの恐怖。ありそうでなかった題材をきっちり映像化したということでアイデアの勝利と言えるでしょう。映画的な演出をしてないように見せかけつつも、底意地の悪いラストをビシっとやってくる当たりの計算もうまかったと思います。とまぁ私は本作を十分に評価しているのですが、悪名高きブレア・ウィッチと同じミスを犯しているのはある意味致命的。海に置き去りにされる絶望感を観客の想像力で補ってもらうことを前提に映画を作ってしまっているのです。なので、私のように海底に足がつかなくなっただけで恐怖を感じる人間にとってはこの上ない恐怖映画であっても、そうでない人には退屈に感じられる仕上がりとなっています。ドキュメンタリータッチの中にもそれとなくひと工夫加えることを完全に怠っているのです。だだっ広い海に取り残されてることがわかる俯瞰ショットをひとつ入れただけで絶望感の描写は違っていただろうし、潮に流されている、体温が下がっている、海水は飲めないから脱水症状になるなど、おいしい材料はいくつも提示されているのに、その場限りのセリフで終わっているのが残念。サメだけでなくこれらの要素もラストに向けてじわじわと主人公達を襲ってくれれば、多くの人が怖がる映画になったはずです。また、ふたりの葛藤も薄味なような気がしました。この映画は特殊な状況に置かれた人の恐怖を描くという意味で心理スリラーに分類されると思うのですが、神経をすり減らす主人公達の描写が今一歩弱く感じました。生身の人間があの状況に放り出されればあんなに静かなことはないはずです。例えば海に置き去りにされたことに気付いてすぐの時点で、スーザンは遠くへ見えるボートへ泳いで行こうと言いますが、一方ダニエルは無理に動かずにこの場に留まろうと言い、その結果ボートに救われるチャンスを逃してしまいます。こうした二者択一の失敗は後の葛藤につながるのが映画の常套手段なのに、こんなおいしいエピソードが話に絡んでこないのはもったいない限りです。「サメに襲われる恐怖」もいいのですが、海に取り残されたということ自体を人間はどう感じ、どうリアクションするのかを丁寧に描いていれば、より多くの人が怖いと感じる映画になったはずです。
[DVD(字幕)] 7点(2006-11-05 13:36:37)(良:1票)
866.  ディープ・インパクト(1998)
地球に隕石が落ちてくると聞かされればド派手な映画を連想しがちですが、その実めぼしい見せ場と言えば隕石が落ちてくる1箇所のみであり、派手なシーンの連続というわけにもいかない厄介なテーマだと言えます。そんな課題に対してドラマパートに力を入れて終末感を煽ったのは正解で、無理に見せ場を盛り込んだ結果肝心の終末感をなくしてしまったアルマゲドンなどよりも余程映画として成立しています。実際に地球の危機が訪れた時に政府はどう対処するのかがよく考えられていて、隕石への対抗策を何段構えにも準備し、またパニックを押さえ込むための措置もきちんと講じられています。「給料や物価は現状で凍結しますので、生活はすべて今のままです」とまで大統領が言及していることには感心しました。また、絶望して辞任した財務長官からマスコミが政府の異常に気付くという展開も面白く、論理的によく練られた脚本だと言えます。映画において「リアクション」というのは大事な要素です。地球の危機を目前にした人々は何を感じ、どう行動するのか?これをテーマにしているので本作は質の高い映画となっています。どれだけ見せ場の連続であっても、それに対峙した生身の人間のリアクションをきちんと描けていない映画は大したものにはなりません。肝心の隕石衝突シーンにしても、津波に飲まれるビルの屋上には津波と逆方向に逃げる人影がきちんと描きこまれており、世界が滅びるとはただ物が破壊されるだけではなく、その下には怯える人たちが大勢いるということをわからせるのです。地球の危機をテーマにした映画は多くありますが、たいていのものに欠けているのはこの丁寧な描写だと思います。そんな充実した映画なのですが、後半になるとドラマパートにも穴が出てきたのは残念でした。誰をノアの方舟に入れるかは政府が厳正に決めたものなのに、その権利を個人の判断で勝手に譲渡し合ってるのは変だったし、それに付随して「私はここに残るからあなたは方舟に行きなさい」なんてドラマもくどかったです。生き残る権利を与えられなかったその他大勢の人々がパニックを起こすのならまだしも、ノアの方舟に入る権利を与えられた者が「やっぱり好きな人といっしょにいたい」だなんて言ってるんですから、非常事態という認識の欠けた人達が自己満足で騒いでるようにしか見えませんでした。
[映画館(字幕)] 7点(2006-11-05 01:08:36)
867.  インデペンデンス・デイ 《ネタバレ》 
【2011.12.9 レビューを変更しました】 これまでさんざんバカ映画だとこき下ろしてきた本作ですが、今回の鑑賞で考えを改めました。これは決してバカ映画ではなく、練り上げられた傑作シナリオを一般受けする形に味付けし直した作品のようです。エスねこさんが詳しく書いておられますが、この映画はキャラクター造型が抜群に優れています。私が特に注目したのがホイットモア大統領で、支持率が地に落ち、指導者としてのプライドも目標も失ってしまったダメ大統領として彼は登場します。決断力がなく、部下が言い争いをはじめても言葉ひとつ発することができない、記者発表も当然原稿を読み上げるだけ。デストロイヤー飛来から攻撃までには丸一日あったにも関わらず彼は初動を完全にミスり、数千万の国民と自身の妻の命を失ってしまいます。挙句の果てに反撃作戦も大失敗に終わり、貴重な兵力をも大幅に失ってしまう始末。そんな彼でしたが、妻の臨終を看取り、残された幼いわが子を見て「この子と、この子が生きる世界は自分が守らなければならない」と腹を括ったことから、リーダーの本分を取り戻します。リスキーな奇襲作戦に独断でGOサインを出し、世界中の残存兵力をテキパキとまとめはじめるのです。人類の存亡を賭けた一大作戦を前に、原稿ではなく自分の熱い思いをぶつけた演説のかっこよさは、映画史に残ると言っても良いでしょう。この役柄を、印象の薄い二枚目だったビル・プルマンに演じさせたキャスティングも絶妙で、彼がどんどんたくましくなっていく様は、この映画が優良なドラマ作品であることを証明しています。キャスティングで言えば、当時まだスターではなかったウィル・スミスを主演に据えた判断も神がかっています。彼の演じるヒラー大尉は、エリート軍人ではあるものの婚約者がストリッパーであるために出世の道が閉ざされつつあるという設定。しかし彼は婚約者とその連れ子を心から愛し、軍人としての夢よりも彼らとの生活を優先するという根っからの善人なのです。そんな彼の性格の良さ、常に前向きで一直線なところがエリア51に集まった負け犬達の心に変化を与え、やがて一大作戦を成功に導くこととなるのですが、これを演じるにはウィル・スミスは最適な俳優でした。今でこそ彼はスターですが、96年当時、大作経験のなかったウィル・スミスによくぞこの大役を任せたものだと感心します。
[映画館(字幕)] 7点(2006-11-04 19:54:08)(笑:2票) (良:2票)
868.  パニック・フライト 《ネタバレ》 
まさに良質のB級作品といった感じで、余分なものは省いて手際よく見せているのが好印象でした。感じの良い人から怖い人への変貌をとげるキリアン・マーフィと、それに怯えるレイチェル・マクアダムスはどちらもよくハマっていて、ふたりのやりとりだけで進む話をよく支えていました。このふたりのやりとりがあまりに良かったので、機内でのエピソードにもうひとひねりふたひねり欲しいような気もしましたが。一方で飛行機を降りてからのエピソードは作品全体のバランスからすると不釣合いなほど長く、暗殺計画に巻き込まれたヒロインという主題のこの映画において、暗殺を防いだ後の話をあそこまで長くやる必要はなかったと思います。逃げるに逃げられないというサスペンスをメインにしながら平然と場面転換してしまう無神経な映画は意外と多いのですが、残念ながら本作もその失敗を犯しているのが残念。究極に追い詰められた状況からいかにトンチを利かせて逃れるかがこの手の映画のキモなので、場面転換してしまうと一気にテンションが落ちるのです。ま、追っかけとなると途端に演出が活き活きとしてくるのはウェス・クレイブンらしいと言えばそうでしたが。機内の会話だけで展開するメインパートは「ただ撮ってるだけ」な感じ(そのアッサリ加減がこの映画では吉と出ていた)だった一方で、飛行機を降りての追っかけになった途端に演出が明らかにノリノリになってるのが面白かったです。ヒロインも人が変わったようになってるし。そんなこんな言いつつジョディ・フォスターの映画をふたつつなげただけのあんまりなタイトルの未公開作とは思えないほど充実しており、自信をもって人に勧められる映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2006-11-04 18:37:33)
869.  ドゥ・ザ・ライト・シング 《ネタバレ》 
人種問題を扱った映画は多くありますが、これほど核心を突いた映画は珍しいと思います。人種映画は白人の手によって贖罪の意味で作られたものが多く、そのためどれもが腫れ物を扱うような作りで、黒人は決まって立派だが言われなき偏見を受ける人と決まっています。そこに来て本作は黒人社会から見た人種問題という他にありそうでなかった視点で、自身が黒人であるスパイク・リーだからこそ作れた映画だと言えます。異人種がすぐ隣に住んでいることの人種的緊張は「被差別者=一方的な被害者」という単純な図式には収まらないものであり、この映画では黒人側の問題点を浮き彫りにします。言葉が満足に通じないにも関わらずわずか1年で店を成功させた韓国人、彼らは人の何倍もの苦労をして成功を手にしたのでしょうが、一方おしゃべりをして1日を終えるような黒人のじいさんは、彼らを見て「古顔の俺たちより成功するとは何事だ」と自分を棚に上げて八つ当たり。またクライマックスの暴動のきっかけを作るメガネの黒人バギン・アウト。彼はイタリア人のサルが経営するピザ屋にイタリア系の有名人の写真しか飾られていないことに腹を立て、「黒人の写真を飾れ」と怒鳴り込みます。同じく暴動のきっかけとなるラジオ・ラヒームも、あれだけのボリュームで店に入られれば迷惑に決まっているのに、それを注意されると「黒人差別だ」と問題をすり替えてしまいます。水戸黄門の印籠かのように「差別だ」という言葉を使い、自分の都合のいいように相手を黙らせようとする黒人のずるさがきちんと描かれているのです。そして、そうした人種間の行き違いは登場人物の中でもっとも人種的にフラットなイタリア人サルへと向けられます。人種の違いを意識せず、誰とでも同じように接してきたサルは、そのフラットさゆえに「差別」という無敵の言葉を振りかざすバギン・アウトやラジオ・ラヒームとの関係をこじらせ、25年間同じ街で暮らし愛着を感じていた黒人の隣人達から店の襲撃を受けることとなる皮肉。その挙句、不真面目な勤務態度も大目に見て「お前は息子みたいなものだ」と愛情をかけてきたムーキーまで、襲撃でショックを受けているサルの気持ちも考えずに「俺の給料をくれ」と平然とやってくる始末。人種が絡むと思考回路が停止する黒人に対して「正しいことをしろ」と訴える実に珍しい映画で、人種問題をよく知るのには欠かせない作品だと思います。
[DVD(字幕)] 9点(2006-11-04 03:21:31)(良:2票)
870.  Mr.インクレディブル
ディズニー映画はあまり好きではないのですが、そんな私をもってしても面白いとしか言いようのない出来です。脚本の出来がまず完璧で、感動話を突然ねじこんで無理やり感動させるようなことはせず、感情的な伏線をどうやって張っていくか、観客を興奮させるにはどういう紆余曲折でクライマックスに持っていけばいいのかが完璧に計算されています。アクションパートの見せ方も丁寧かつ的確で、各キャラクターの能力を活かしつつスピード感ある面白い見せ場の連続となっています。面白い設定は準備したものの、キャラクターに特殊能力は与えたものの、各種アイテムは配置したものの、それらを活かせていない作品がマンガ、アニメ、実写関わらず大変多いことからも、ここまできっちりと各キャラクターを使い切れている作品は大変に稀有と言えます(スパイダーマンですら「予知能力」という伏線を完全に放棄しているくらいですから)。ともすれば「子供向け」ということで安きに逃れることもあるアニメという体をとりながら、実写と比較しても驚くほどマジメに作られているのです。しかも単なるマジメではなくヒーローものの遊び心もきちんと備わっていて、個性豊かな登場人物や荒唐無稽かつかっこいいシンドロームの秘密基地などにそれはよく現れています。きちんと理屈を追うことと、理屈を越えた面白さやかっこよさを見せることの両方をしっかりとやっているのです。最近は実写においてもヒーローの映画化が人気ですが、その反面で時代はヒーローものというジャンルが成立するギリギリのところにまで来ているような気がします。映画の語り口が進化した結果見ている側の目も数十年前の観客より確実に肥えてきており、ヒーローが正義のために戦うという単純な構図が素直に受け入れられる時代はすでに終わっているのです。なぜヒーローが存在するのか、どういう原理でスーパーパワーを持っているのか、現実にヒーローが力を振るうとどうなるのか、細かい辻褄合わせは不可欠であり、そのため「これぞヒーロー」という醍醐味の再現は非常に困難な状況となっています。そこに来て本作はヒーローもの本来の醍醐味を十分に味わわせてくれます。しかも昔ながらの演出ではなく、「存在意義に悩むヒーロー」という新世代の基準もきちんと踏まえつつ。新しい設定の中で古いものの良さを描く、これってなかなか難しいことではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 9点(2006-11-03 23:26:45)(良:1票)
871.  ジャーヘッド
前作ロード・トゥ・パーディションがいかにも優等生的でつまらない映画になってしまったので、その反省とばかりにサム・メンデスは本来の持ち味である斜めの視点で本質をえぐり取るという皮肉精神を取り戻しています。ディア・ハンター以降、戦争映画と言えば主人公が「俺は殺人行為をやったんだ」と悩み、戦争で抱えた苦悩を背負う作品ばかりになってしまいましたが、この映画は四半世紀ぶりにその傾向に風穴をあけるような面白い姿勢で作られています。主人公が厳しい体験の中で成長するわけでもなく、悲惨な現実の中で何かの教訓を学ぶわけでもなく、「戦争行ったけど特に何もなかった」ということがテーマの変な戦争映画です。上官に向かって「俺の手で敵を殺させてくれ」と兵士が泣いて頼むという常識はずれのシーンまであります。監督も自分の試みに自覚的だったのか、ドラマ路線の戦争映画として最高の評価を受けるディア・ハンターのビデオにポルノまがいの不倫映像がダビングされてるくだりがあり、一方で「戦争映画としては非現実的だ」との批判を受ける地獄の黙示録を見て兵士が最高潮に盛り上がったりと、「『これが本当の戦争だ』と言ってた今までの戦争映画だって所詮脚色されたもんでしょ?」とでも言わんばかりの挑発ぶり。確かにこの映画の異色ぶりは相当なもので、これまでの戦争映画がどれも判を押したように「悲惨の連続」だったのに対し、この映画が描くのは「退屈の連続」。延々と退屈が続きそこに生死を分ける一瞬が突然やってくるというのが戦場の実態のようですので、「生死」並に大きな要素でありながらこれまで映画が取り上げてこなかった「退屈」という側面をはじめてテーマにしたところにも、この映画の価値はあると言えます。ただしこの監督、挑戦的な内容を扱いつつも映像や語り口に良くも悪くも「えげつなさ」がないという特徴を元々持っており、アメリカン・ビューティーにおいては過激な内容をうまくまとめてさらっと見せる手腕が良い方向で現れたものの、戦争映画においては刺激不足の原因となり、後半に猛烈な長さを感じさせられました。また最初と最後のモノローグは完全に蛇足で、何か意味ありげなあのモノローグは「何もない」がテーマのこの映画の本質をかえって見えづらくしています。
[DVD(吹替)] 7点(2006-11-03 22:03:58)(良:1票)
872.  フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い 《ネタバレ》 
優しいママに育てられ更生した元悪ガキ4人兄弟がママの死をきっかけに乱暴者に戻って復讐するという、男の男による男のための正しい映画です。葬式で兄弟が久しぶりに集まるシーンからして実に男描写がうまく、今はおとなしくしてるが目の奥にはワルさが活き活きと残ってるあの様子は実に絶妙。兄弟の絆やママへの愛情も冒頭の15分ほどでほぼ描き切れており、この辺は本当にうまいなと感心しました。ママは話の要でありながら登場シーンはほんのわずかしかありませんが、それでも兄弟が復讐に燃える動機となるには十分なほど彼女の人柄は伝わっているのです。この辺の出来がいいのでママのエピソードはもっと見たい気もしましたが、映画全体が湿っぽくなりすぎてテンポを妨げないようドラマを最小限にとどめている製作側の判断は正しかったと思います。荒っぽい下町の描写も類型的ながらもよくできており、出てくるやつがたいてい幼馴染みでいい歳したおじさんが「あいつはケンカ強くてよぉ」なんて言ってる様子は見ていて楽しかったです。世界中どんな国でも下町ってのはあんなもんなんですね。ちゃらちゃらしてる町の不良や若いチンピラを「本当のワルを教えてやる」とでも言わんばかりに4兄弟が痛めつける様子も実に痛快。男の見たいものが凝縮された素敵な映画です。がしかし、欲を言えば話のクライマックスをもっとエモーショナルにして欲しかったです。ママに加えて末の弟まで殺されて復讐に燃える3人が、多勢に無勢を承知の上で敵のアジトにかち込んでいくなんて展開にしてくれれば最強の漢映画となったかもしれないのに、そこそこトンチの利いたあの展開は話の流れにあまりそぐわないような気がしました。あんちゃんとボスの素手ゴロという決着の付け方は良かったのですが、ボスがあんちゃんと互角にやりあうってのも流れに沿ってないと思います。実力もないのに下の者に威張りまくるというキャラ設定だっただけに、今はカタギやってるが本当は死ぬほど強いあんちゃんにボコボコにされまくり、徹底的に情けない姿をさらす最期の方があのタイプには合ってたと思うし、今はツメを隠してる元不良が久しぶりに本物の実力を見せるカタルシスを味わうにもその方がよかったと思います。が、そんな不満も帳消しになるほど面白く、下町や不良の空気が気持ちよく、下町映画(そんなジャンルあるのか?)としては最高クラスの出来だったと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2006-11-03 20:54:21)(良:1票)
873.  コラテラル
この映画はファイト・クラブの銃撃版なんだと解釈しました。ケンカ映画の外見をとりながら実は生き方に説教たれるのがファイト・クラブでしたが、本作も同様にハードボイルドという外見をとっていますが主題はそこになく、流されるままに生きている主人公が殺し屋という強烈な存在と対峙し、人生観が一変するというのが本当のテーマだと思います。主人公を演じるのはエドワード・ノートンにジェイミー・フォックスという小市民の匂いを漂わせる演技派。そんな主人公と対峙し、人生を変えるかっこいい曲者を演じているのはブラッド・ピットにトム・クルーズという、圧倒的なカリスマ性に溢れた大スターです。やさしい顔立ちのトム・クルーズは殺気に欠け、殺し屋役には本来向かない俳優だとは思いますが、小市民の人生の前に立ちはだかる悪のカリスマを描くのに彼のスターオーラは不可欠なものであり、監督もそれを求めてあえてキャスティングしたのだと思います。そんなカリスマが人生の哲学を語りまくりますが、コラテラルの説教の方が現実的で身につまされる思いがしました。自分で開業したいと思いながらも決心のつかない主人公に対する強烈な説教。「開業したければいつでもできるはずだ。下らない人生を生きてる自分への言い訳で夢にすがってるだけだろ?このままでは下らないまま人生が終わるぞ」。この映画の真髄はまさにここにあったと思います。主人公だけではない、見ている私たちのほとんどが図星にならざるをえない強烈な説教。善良だが平凡なタクシードライバーが殺し屋に連れ回されるという話もすべては主人公の人生観を変える寓話としての状況設定に過ぎないと思うのですが、この説教を単なるセリフとして特に感じることもなく流してしまうと、映画の本質が見えないまま「ムチャクチャな話だったな」で終わると思います。マイケル・マンが監督したおかげでハードボイルドとしてはあまりに穴だらけすぎる脚本でも及第点の仕上がりになっていますが、その完成度のために人生観を変えられた男という主題がかえって見えづらくなっているので、良かったんだか悪かったんだかって感じです。「何か変なアクションだったな」という印象しかなかった方は、視点を変えてもう一度鑑賞されることをおすすめします。
[DVD(吹替)] 8点(2006-10-31 22:28:00)(良:2票)
874.  ミュンヘン
本作製作当時、アメリカは対テロ戦争の着地点を見失いつつありました。フセインとタリバンを政権から引きずり下ろしたことで911の弔い合戦が一区切りできるかと思いきや、根本的なことは何ひとつ解決していない。それどころか、事態はより悪化しているのではないかという不安を抱え始めていたのです。同年にはリドリー・スコットが『キングダム・オブ・ヘブン』を発表し、「一度はじめてしまった戦争をこちらの都合でやめることはできない。好むと好まざるとに関わらず、アメリカは戦いきるしかない」という辛辣なメッセージを発していましたが、本作もこれと同じく、アメリカの厳しい現実を描いた作品となっています。面白いのは、そのどちらもが現代アメリカを描くためのモチーフとしてイスラエルをチョイスしていることであり、修羅の道に落ちてしまった国としてイスラエルを否定的に描いています。。。 本編は意外なはじまり方をします。選手村を襲撃しようとする黒い九月のメンバー達が、閉まっている門の前で困り果てています。どうやらこいつらは、明け方には門が閉められていることすら想定していなかったらしい。いよいよ襲撃を開始してもいちいち手際が悪く、何人かの選手を取り逃がしてしまいます。この時点では、黒い九月は洗練された組織ではなかったのです。これはイスラエル側も同様。事件への報復を開始した時点では主人公達は殺しに慣れておらず、銃を突き付けている相手が丸腰の民間人であってもビクビクしています。しかし、報復合戦が続くうちに両者とも洗練されていき、死体の数は増える一方。こちらの攻撃によって相手がより先鋭化し、さらに厄介な敵が生み出されるという負の連鎖に突入したのです。。。 そのうち、匿名の殺し屋だった主人公達にも死の影が迫ってきます。すっかり精神をやられた主人公は戦線を離脱するものの、いつか殺されるのではないかという恐怖は消えません。これは前半、文化人やビジネスマンにしか見えない相手をテロリストとして殺してきたことの裏返し。殺しの現場から離れても、職業を変えても、一度血で染まった者を敵は忘れてくれないのです。。。 本作公開から9年、スコットやスピルバーグの心配は現実化しました。アメリカはいまだに対テロ戦争をやめられないどころか、従来のイスラム諸国すら恐れをなすほどの危険勢力・イスラム国までが誕生する始末。今こそ見返すべき作品だと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2006-10-30 02:21:58)
875.  アンダーワールド/エボリューション
前作と本作を見た感想は、面白くなりそうな駒を揃えているのに、いまいち不発なのはなぜだろうということです。ブレイドやマトリックスの露骨な後発作品ではあるものの、ヴァンパイア族とライカン族の抗争という新機軸を持ってきた前作にはバカバカしくもはじけた映画になることを期待していたのに、どうにも不発。予算が拡大した続編も前作と作品の質は同等で、いまいち盛り上がりに欠ける印象です。レン・ワイズマンという人物はプロデューサー向きの人物であって監督には不向きなような気がします。このシリーズ、面白くなりそうな駒は揃ってるんですよ。ヴァンパイアとライカンというふたつの種族を登場させることで、ヴァンパイア単品で勝負している他の作品よりもアクションやキャラクターのバリエーションは確実に広がっています。さらに続編の本作は「最強の始祖vs新世代の混血」という燃える構図を準備しており、そこにヴァンパイアの特殊部隊なんかも絡んできて良い意味でマンガ的。撮影は美しいし、出演者も良くハマってるし、アクションやSFXも頑張ってるので普通にやってれば間違いなく面白くなりそうな映画なんです。これだけの駒を揃えてきたレン・ワイズマンはなかなかのもんだと思います。ただし肝心の演出が平板で、作品全体でのテンションの配分が全然できていません。見せ場の連続なのにどこか退屈。ラストのバトルなんて、最強のヴァンパイア&ライカンにパワーアップしたヒロインがぶつかるという最高に盛り上がるべきパートなのに、「さぁいよいよ決戦だ!」みたいな高揚感のないまま戦いがはじまり、それぞれの力量を十分に見せ切らないまま終わります。マンガ的な話なのにマンガ的な盛り上げをしないのがいけないんだと思います。その辺の描き方が抜群にうまいドラゴンボールでも見て勉強すべきですね。決戦をはじめる時の盛り上げやヒーローを登場させるタイミング、各キャラの力量の描き分けなど、ハリウッド映画ができないことを日本のマンガは余裕でやってますから。
[DVD(吹替)] 6点(2006-10-29 21:02:51)(良:2票)
876.  ボーン・スプレマシー
スターの出ているアクション大作でありながらキリっと締まった作風が気持ちの良いシリーズですが、私的には第1作を上回る出来と面白さだったと思います。普通のアクション大作にしようとする映画会社とケンカしてでも作品の完成度を保った前作の功労者ダグ・リーマンが製作に回り、ポール・グリーングラスという誰も知らない人物が監督に決まった時には「大丈夫か?」と不安になったのですが、結果としてこの監督はリーマン以上の手腕を見せ付けました。この人はジャーナリスト出身で作家を経て映画監督になったという変わった経歴の人物なのですが、そうした経歴のおかげか説得力ある語り口で複雑な話をまとめていくという腕前はそこいらのベテラン監督を軽く超えています。謎が明かされながらテンポよく進んでいくこの映画のストーリー展開は知的で大変心地よく、この完成度なら仮に目立ったアクションがなくても十分に楽しめるスパイ映画になっただろうと思います。また単なるインテリ監督に終わらず画面作りにもセンスを見せているのもさすがで、作品全体を通してクールにして緊張感溢れる映像と編集がなされています。ここぞという時のアクションもスパイならではのストイックさに溢れていて大変かっこよく、無闇に見せないからこそ盛り上がるという前作の良さを引き継ぎつつもそれを超えることに成功しています。それまでクールに淡々と進んでいた話とアクションが収束し、一気に爆発したかのようなクライマックスのしつこいカーチェイスには大興奮しましたとも。マトリックス・リローデッドやバッドボーイズ2がド派手カーチェイスの究極の進化形であるなら、この映画のカーチェイスはリアル路線の究極の進化形です。現実離れした銃撃や爆破などせず、いろんなものにぶつかって車をぼこぼこにへこませ、「街を猛スピードで走ること」の怖さをストレートに伝えるこの手のカーチェイスは、ブリットやフレンチ・コネクション以来久々に見ました。そんなわけでかなり大満足の作品でしたので、同監督が続投するシリーズ最終作にも期待しています。
[DVD(吹替)] 8点(2006-10-28 21:48:49)(良:2票)
877.  ブラック・ダリア
この話にデ・パルマというのは最高の組み合わせではないでしょうか。性と殺人が密接に絡み合うというテーマはこれまでのデ・パルマが執拗に描いてきたものだし、残酷でドロドロしてるんだけどなぜか上品という風格もデ・パルマでこそ出せる独特の味わい。この話をもっともうまく見せられる監督はデ・パルマであり、またデ・パルマの才能をもっとも発揮できるのはこの話であり、両者にとって理想的な出会いであったと思います。正直、この映画の脚本自体はそれほどクォリティが高くありません。まず話が入り組みすぎてわかりにくすぎ。かなり映画を見慣れており、映画文法やデ・パルマの手法を正確に把握できる者ですら、最初から最後まで集中していなければ理解できないほどわかりづらいというのは映画の脚本としては致命的。一般の観客では到底理解不能な話になっているのはさすがに問題だと思います。また、それほどわかりづらい話でありながら、謎解きの興奮が薄いのも映画の脚本としては失格。見ている人間の頭をさんざん悩ませながら、結局謎のほとんどはセリフで語られてしまいます。もっと動きのある謎解きにしてくれないと、映画でやっている意味が半減します。そんな完璧とは言えない脚本なのですが、かなり良いメンバーが集まったおかげで謎解き以外にも見るべき要素が加わった結果、映画としては救われたと思います。時に過剰に感じられるデ・パルマのテクニックがこの映画の雰囲気には良く馴染んでいて、饒舌なテクニックにより業の深い話を効果的に見せると同時に、テクニックにはある意味機械的な感触があるおかげで、必要以上に陰惨さを感じさせず話の風格を妨げさせないという、相反するふたつの効果を挙げているのは驚きです。また、ジョシュ・ハートネットとスカーレット・ヨハンソンのふたりが期待以上に良く、このふたりが出ているだけで画面が引き締まっていました。ヒラリー・スワンクに絶世の美人の資産家令嬢をやらせたのはミスキャストでしたが、確かに彼女の演技力にも見るものはあり、そこに期待してのキャスティングだったのだろうなと思います。そんなわけで決して完成された映画ではなく、見る者がどの要素に重きを置くかで評価の大きく変わる映画ではありますが、私としては大いに評価したいと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2006-10-28 15:22:31)(良:3票)
878.  スネーク・フライト
なんと天晴れなバカぶり!飛行機で毒蛇が暴れる、小学生のような一発アイデアを恐ろしく素直に映像化したこの映画の自覚したB級ぶりは見ていて惚れ惚れとします。この映画に感動はいらない、難しい話もいらないとばかりに、ただひたすらパニックの連続を見せ付けるこの潔さ。「ヤクザはどうやって目撃者を見つけたんだ?」「あの短時間でどうやって大量の蛇を機内に持ち込んだんだ?」「飛行機墜落させるなら蛇仕込まずに爆弾仕掛けろ」等、深く考えれば納得しがたいこのお話も、説明的な描写やドラマ部分を極力排除し、怒涛の勢いで危機に襲われるハイパワー演出の前ではまったく気になりません。「飛行機に蛇がいっぱい(原題)」という素晴らしいタイトルが気に入っただけで出演を決めたサミュエル・L・ジャクソン以外の出演者は全員無名、10年も前にERを引退したジュリアナ・マルグリーズがヒロインという、下手すればそこいらのB級映画以下の出演陣の醸し出す絶妙な安さがこの映画の無理矢理ぶりをさらにサポート。「ああ、そういう映画なのね」という空気が全体を覆っているので、見ている間は自然と深いことを考えさせられず、偏差値ゼロの心地よい空気が楽しくて仕方ありません。無茶苦茶な設定だからこそ話の先が読めず、そんな荒唐無稽な話に疑問を抱かせないよう良い意味で安い演出をほどこし、無名の出演者ばかりだからこそ次に誰が死ぬかわからない。脚本・演出・演技の各要素がうまく補完し合い、なかなかバランス良く作られているのです。この監督は前作「セルラー」でも感心させられたのですが、ワンアイデアの面白い話を見せることにかけては天才的。蛇が襲い掛かってくる時のスリルや緊張感はそこいらの大作を凌ぐレベルだし、その間には笑える場面も入れてまったく飽きさせず、最後までダレることなく一気に見せる采配は見事なものです。そして最後の危機を乗り越え迎えた大団円では、助け合いながら戦った男女が「今度食事にでも」なんてナンパし合うという、「パッセンジャー57」や「エグゼクティブ・デシジョン」などという10年前のB級アクションの定番の締めで話は終わります。わかってらっしゃる!マジメに映画を見ている人たちは怒るかもしれませんが、ヴァン・ダムやセガールをたしなむ人たちにとってはゴッドファーザー級の傑作であることを申し上げておきます。
[映画館(字幕)] 8点(2006-10-28 14:19:08)(良:7票)
879.  ブラディ・サンデー
大して有名な映画でもないし、ポール・グリーングラスという人もさして有名監督ではないのであまり期待せずに見たのですが、ほとんどの日本人が知らないうちにこんなすごい映画が作られていたことに驚きました。1972年に起きた実話をきわめてマジメに再現する作品で、映画的な脚色やドラマティックな演出はことごとく排除され、音楽すら使わないという徹底ぶりなのですが、だからと言ってこの手の映画にありがちな企画倒れや製作者の自己満足に終わることなく、映画として十分におもしろく作られているのがすごいところ。この映画はもはや「ドキュメンタリータッチ」という生易しいものではなく、1972年1月30日という日を丸ごと再現することに挑み、成功しています。あたかもその日その場にカメラが居合わせたかのような映像やセリフが続いて空気感まで再現してみせ、観客もその場にいたかのような臨場感を味わわせてみせます。ドラマ的な脚色は廃されているため前半の話は淡々と進むものの、無作為なように見えて実は巧みに話をまとめていくので退屈さは感じさせず、見る側のテンションを落とさないまま「血の日曜日事件」へと突入していきます。「血の日曜日」での監督の手腕は本当に圧倒的で、平和的に行われるはずだったデモが徐々に混乱していき、やがて丸腰の市民への発砲へ至っていくまでの様子をデモ隊、イギリス軍の双方の視点を巧みに交えながら、きわめて的確に描いていきます。また画面作りもしっかりしていて、実際のデモの中にカメラがいたとしか思えないほどリアルな映像であの事件を観客にも追体験させる一方で、同時に映画的な見せ場としての機能も十分果たしており、不謹慎ながら見ている側を興奮させるのです。このポール・グリーングラスという監督はタダモノではありません。画面作りに並ではない才能を見せると同時に、インテリジェントな題材の脚本を自ら書き、もっとも適切な手法で見せてくるのですから。ウィリアム・フリードキンが今の世代の監督なら、多分こんな風になっただろうなと思わせるようなすごい監督です。
[DVD(字幕)] 9点(2006-10-24 22:32:18)(良:1票)
880.  X-MEN:ファイナル ディシジョン 《ネタバレ》 
これは面白かったです!ブライアン・シンガー監督がスーパーマンに乗り換えたことを受け、急遽ブレット・ラトナー(スーパーマンの監督をクビにされた人)に監督が決まった時にはイヤな予感がしたのですが、この交代が完全に良い方向へ作用していました。ブライアン・シンガーの良い点は極めて徹底した世界観の構築にあり、見せ場ひとつにもこだわりまくってマンガ映画にも知的であなどれない風格を持たせるという才能を持っていますが、その反面素直に楽しめる娯楽作を作ることには不向きなところがあります。X-MEN2やスーパーマン・リターンズなどを見るにつけても、目を見張るような素晴らしいシーンが多くある一方で、最後まで観客のテンションを維持する見せ方ができていませんでした。そこに来て、卒なく娯楽作を作れるもののこだわりのない演出しかしないという対照的な才能を持ったブレット・ラトナーという監督の当番は、「良く出来てるけどいまいち面白くない」というこのシリーズの欠点を完全に補っていました。前作まででブライアン・シンガーが世界観の構築を細かく細かくやっていたおかげで、本作はとにかく戦って戦って戦いまくってればそれで良し。細かいことにはこだわらないブレット・ラトナーの大味采配のおかげで、大決戦が次々とテンポ良く見せられていき、本当に気持ちのいい娯楽作に仕上がっていました。サイクロプスやミスティーク、果てはプロフェッサーXまで、シリーズで主役を張っていたキャラクター達を「おいおい、いいのか?」と思うぐらいアッサリと切り捨て、ぞろぞろ登場する新キャラ達の紹介も最小限にとどめ、すべてをクライマックスの大決戦へ向けてテキパキと話をまとめていくのは薄味監督ならではの巧さでした。マグニートー軍団の襲撃を受け陥落寸前のアルカトラズに「X-MEN参上!」と言わんばかりにウルバリン達が駆けつけ、それぞれが一番かっこいい顔をしてファイティングポーズを決める場面は、まさにマンガ映画の真骨頂。アメコミ映画はいろいろ作られていますが、こういうストレートにマンガ的な演出をしたのはこれがはじめてだと思います。バットマン・ビギンズのようにヒーローにもリアリティを持たせることを重視する傾向が主流となっていますが、こういうバカバカしくもかっこいいシーンを見せてこそのマンガ映画だと私は思います。
[映画館(字幕)] 9点(2006-10-22 19:09:54)(笑:1票) (良:4票)
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