21. バロン
テリー・ギリアムのフィルモグラフィ中で最悪の予算トラブルに見舞われたのが本作だそうです。スタッフに名を連ねた大家たちで判るように、イタリアのチネチッタ撮影所で製作しちゃったのがそもそも間違いの始まり。安く撮るつもりだったのに、ハリウッドで製作するよりもはるかに高いコストをぼられて大予算オーバー、最後は保険会社が現場を取り仕切ってようやく完成したんだとか。確かにごてごてと作りこんだセットや衣装ですけど、正直いってどこにそんなお金をかけたの?って感じもします。 ギリアムのファンには堪えられない映像世界なんですが、実はミュンヒハウゼン男爵はギリアムたちベビー・ブーマー世代の暗喩になっているんですね。自分の妄想ワールドを面白がって映像化しているだけじゃなく、ギリアム映画はけっこうメッセージ性を持っているところが自分は好きです(判りにくいけどね)。 しかし、ほら吹き男爵の次はドン・キ・ホーテに挑戦してほんとに大失敗をやらかすとは、この人はある意味首尾一貫しています(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2012-08-19 23:04:23) |
22. バグダッド・カフェ
《ネタバレ》 本作は私の観た映画の中で、観れば観るほど評価が下がった映画の筆頭です。フィルムに色をつけちゃう奇抜な手法とあまりに有名なテーマソング『コーリング・ユー』が紡ぎ出す世界はまだ耐用限度を保っているけど、如何せん中身がなさ過ぎる。ジャック・パランスが新境地を開拓するいい演技だったのは良かったんですけどね。 バグダッド・カフェを去ってゆくクリスチーネ・カウフマンが理由を訊かれて「だって、あんたたち仲が良すぎるんだもの」と答えるのですが、このセリフは私の感想でもあります。 そういやパーシー・アドロンって最近名前を聞きませんが、どうしちゃったんでしょうか? [CS・衛星(字幕)] 5点(2012-05-14 23:54:20) |
23. ダントン
《ネタバレ》 フランス革命史はナポレオンが執政になるまでがゴチャゴチャしていて面白い。フランス革命のこの時期に起こったことは、20世紀に発生した幾つもの革命でも予言された様に繰りかえされていることは注目に値します。 このアンジェイ・ワイダの映画はロベスピエールとダントンの確執とダントンの失脚と処刑までを重苦しくもピリピリとした緊張感で引っ張る映像に圧倒されます。まるでリゲティを使った様な不安感をあおる音楽は、あたかも政治の激動に苦しめられる民衆の呪詛の様にも聞こえます。製作当時のポーランド事情からして、ダントンが『連帯』のワレサ議長、ロベスピエールはヤルゼルスキ将軍を暗喩していることは想像できます。ただこの映画は題名にも関わらずダントンよりもロベスピエールの描写の方に比重が重い様な感じで、彼を従来よりも人間的に見せているところが興味深い。「革命はサトゥルヌスに似て次々と我が子を喰らう」、これはダントンが裁判で放った文句ですが、歴史に残る名言です。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2011-11-25 00:43:12) |
24. U・ボート
《ネタバレ》 私のベスト・オブ・戦争映画は文句なしに『Das Boot』です。この映画ぐらい映画館で観ないと真価が判らない映画もないと言って良く、その音響効果たるや凄まじいものでした。あの爆雷攻撃を執拗に受けるシーンは、まるで自分がドラム缶の中にいて外からガンガン叩かれている様な体験で、攻撃が終息した時にはほんとぐったりしてしまいました。またジブラルタル海峡で海底から浮上するまで修理に奮闘する乗組員たちの行動がこれまたリアルで、このままダメージ・コントロールの教科書として使えそうなぐらいです。この映画に登場するのは“UボートⅦc型”と言う大戦中もっとも建造されて最高の戦果をあげたタイプですが、艦内の異様なほどの狭さは閉所恐怖症の人には観てるだけで耐えられないでしょう。また俳優たちがいかにもドイツ人って顔つきなのもリアル、その顔や服装がどんどん汗まみれ・油まみれになってゆくのがたまりません。 「潜水艦映画にハズレ無し」なんていうフレーズは、そもそも本作が世に出てから言われる様になったものですが、本作の登場で以前の潜水艦映画が一気に色あせてしまったのは事実です。『プライベート・ライアン』と並んで、映画の歴史を変えた戦争映画ですよ。 [映画館(字幕)] 10点(2011-10-24 21:29:15)(良:1票) |
25. ルシアンの青春
《ネタバレ》 この作品、ルシアンを肯定的に描いたということでフランスでは反感を示す批評があったとのことですが、このルシアン・ラコンムの空虚な青春のどこが肯定されているというのでしょうか? その空っぽで愚かな17歳の青春が痛いほど観る者に伝わってくるので、本作は切ない傑作となったのではないかな。 連合軍がノルマンディーに上陸する様な時期にゲシュタポの手先になるなんて、いくら17歳だったとはいえあまりに愚かすぎます。でも始めはレジスタンスに参加しようとして拒否されているのだから、運命というものはあまりに残酷なものです。ルシアン役のピエール・ブレーズはルイ・マルに発見されるまでは本当に木こりをやってた素人なのですが、無表情の内側にルシアンの無教養と無邪気さそして心の闇が見事に表現出来ていて、マルのたぐいまれなる演出力にはため息が出てしまいます。ブレーズは本作出演2年後には自動車事故で亡くなってしまうので、オーロール・クレマンと山奥で戯れる静かなラスト10分がとても悲しくなってしまいます。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2011-06-15 22:47:28) |
26. 郵便配達は二度ベルを鳴らす(1981)
《ネタバレ》 三度も映画化されるとは、ジェームズ・M・ケインの原作小説はよっぽど傑作なのでしょうか、この映画を観る限りではそんな感じはしませんでしだけど。ニコルソン、ラング、コリコス、三人が揃って情念むき出しのキャラでなんかすごく暑苦しさばかりが残る芝居です。ニコルソンは終始ラングに引っ張られて悪事に手を染め、肝心のところではヘタれになる気弱で中途半端なワルだったのが印象的でした。さあこれからというときに、突然の悲劇に見舞われてただ泣くしかなかったニコルソンを観ていると、なんか胸が締め付けられる思いがしました。あっけないないラストは、遅れてきたアメリカン・ニュー・シネマという感じでした。 [DVD(字幕)] 6点(2011-02-24 01:07:28) |
27. ルートヴィヒ(1972)
《ネタバレ》 “巨匠”と呼ばれる様になってからのヴィスコンティ映画はあまり自分は好きじゃない。彼の晩年の作品は大芝居を工夫のないカメラワークで延々と見せられるというイメージが強いし、民主党の大嫌いな某大物政治家が最近どういうわけか『山猫』を演説で引用していることを知ったことも一因かな。でもほとんど遺作と言っても良い本作にはさすがにヴィスコンティの執念が伝わってきます。ヘルムート・バーガーの演技はルードヴィヒの霊がとり付いたかの様な迫力で必見です(そういや最近お姿をスクリーンで見かけませんが、どうしてるんでしょうか)。全篇にヴィスコンティの貴族趣味に満ち溢れていて、民衆や大衆が歴史もののくせに全く画面に登場しないという徹底ぶり(バジェットの関係かな)。そしてロミー・シュナイダーの“シシー”にはただうっとりさせられるばかりで、さすが“シシー”は10代からの彼女の当たり役だけのことはあります。“赤い貴族”と呼ばれたヴィスコンティですが、マルクス主義者のくせに頽廃の甘美な魅力をこよなく愛しており、そこが頽廃を誰よりも鮮やかに映像化するくせに本当は頽廃を嫌悪していたフェリーニとの大きな違いでしょう。 まあお暇なときにはこの4時間の頽廃の極北を味わってみるのも良いんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-01-24 23:56:50) |
28. ロザリー・ゴーズ・ショッピング
《ネタバレ》 えー、一言で言うと、P・アドロン版『お買いもの中毒な私』です。 ロザリーはアメリカの片田舎アーカンソーに住むドイツ出身の主婦で9人の子持ち。旦那は農薬散布の会社に勤めるパイロットで、空軍時代にドイツでロザリーと結婚。映画は「お買いもの中毒」としか言いようのないロザリーがカード詐欺まがいのハチャメチャな生活を繰り広げるのをシニカルに見せてくれます。ロザリーだけじゃなく子供たちも消費生活にどっぷりつかっていて、家族だんらんで観るTV番組は録画されたCMだけというのがとってもヘンです。 P・アドロンという監督は「家族」にこだわる人みたいですが、モノ・消費だけでつながっているこの一家をブラックに見せています。 この映画はそういうプロットは大変興味深いのですが、いかんせん後半ハッピーエンドで締めてしまっては何が言いたいのか判らない怪作になってしまいました。カトリック教徒のロザリーは教会で神父に懺悔すれば罪が消えると思っていて、まめに懺悔しに行くのはとっても面白いのですがね(懺悔を聞かされる神父がJ・ラインホルドで、こいつがまた傑作なキャラです)。 ロザリー役は『バクダッド・カフェ』でお馴染みのM・ゼーゲブレヒトです。 [ビデオ(字幕)] 4点(2010-08-03 23:19:17) |
29. オデッサ・ファイル
《ネタバレ》 原作は未読ですが、フォーサイスの小説の映画化とは思えないご都合主義のストーリーにはびっくりしました。たぶん原作をなぞっただけの脚本をもとにしてるからなんでしょうね。意外とマクシミリアン・シェルの出番が少ないのですが、ラストに彼がジョン・ボイドに言い放ったロジックは確かに衝撃的でした。イギリス人のフォーサイスだから書けたのだと思いますし、ドイツ人はヒトラーに重い十字架を背負わされているのだと実感しました。 ポランスキーかスピルバーグにリメイクして欲しいなあ。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2010-07-09 02:05:00) |
30. 戦争のはらわた
《ネタバレ》 脚本はあまり良い出来ではないのですが、さすがペキンパーで男の滅びの美学を独特のリアリズムで映像にたたきつけてくれました。リアルな戦闘シーンはCG全盛の現代でも色あせることはありません。この映画、確かにジェームズ・コバーンのカッコよさ(ドイツ人っぽくないのが難点ですが)は当然ですが、根っからの悪党貴族シュトランスキー大尉を名優マクシミリアン・シェルが演じたので本当に良い映画になったと思います。腹黒く非道極まりないキャラですが、この戦争で滅びてゆく貴族階級の哀しみが観る者に伝わってきて、シュタイナーと共にソ連兵の大軍に飛び込んでゆく姿は、まさに『ワイルド・バンチ』の再現です。大戦中の兵器類が多数残っていた旧ユーゴで撮影されただけあって、細かく描写される兵器操作には迫力があります。ただ細かいことですが、ソ連兵がみなイタリア軍のヘルメットをかぶっているのがご愛敬です。確かに両軍のヘルは形状が似てますけど。 [映画館(字幕)] 8点(2009-12-08 01:18:33) |
31. ダウン・バイ・ロー
《ネタバレ》 こんなに渋くてカッコ良いオープニングは初めてです。全編に漂うゆるーい雰囲気がいいですね。舞台がニュー・オリンズなのも一役買っているのでしょう。強面のトム・ウェイツとジョン・ルーリーの二人にロベルト・ベニーニを投げ込んでこんなに絶妙なハーモニーを生み出せるとは。ラスト・シーンは、「第三の男」を彷彿させる忘れなれない名シーンでした。 [DVD(字幕)] 8点(2009-09-03 21:40:58) |
32. 薔薇の名前
ウンベルト・エーコのあの衒学的な大著を、正統派サスペンスとして要領よくまとめています。原作はそのまま映像化したらとても娯楽映画にならない「言葉と実在」という哲学的な思考を背景としていますが、ジャン・ジャック・アノーは中世の時代背景と雰囲気を忠実に再現し、また登場人物の造形を異形の人間集団のように描くことで私たちのような異教徒にも観て楽しめる映画に仕上げています。ショーン・コネリーの「バスカヴィルのウィリアム」は、彼以外の配役は考えられないほどの好演でした。しかし、この映画で描かれているヨーロッパは、「暗黒の中世」という呼び名にふさわしい状況ですね。同時代の日本はもう室町時代が始まるころですから、文化や政治の面でヨーロッパは世界的にも遅れた場所だったのです。 [ビデオ(字幕)] 8点(2009-06-21 16:50:03)(良:1票) |