1. パリ、テキサス
昔、15分だけ観て、ああ、これはとんでもない作品だな、と、何だか怖くなって観るのをやめてしまった。数年越しで最後まで観切った時、あの時の予感は当たっていたのだと分かった。ネガティブで逆説的に言うならば、人間は生まれた時から緩慢に死に向かっている。あえて下手な希望や欺瞞などなしに言えば、人間はある意味においては、磨耗し、亡失しながら生きているんだと思う。色々な場所に、触れた所に、触れた人に、触れる度に、自分の欠片をちょっとずつ置いて来ながら生きているんだと思う。天文学的な程の数の微小な欠片をちょっとずつ失いながら。磨耗しながら。亡失しながら。大人になり生きて行くということは、ある意味においてはそういうことなのだ。そしてきっとある分水嶺を超えてしまったら、人間はもうどこにも戻れなくなるんだと思う。亡失と、磨耗と、夢の残滓と、まだ見ない対象への希望の転嫁。“ここではないどこか”=“パリ、テキサス”。求めた地に着いてなお、その地を知らず。そんな物語だと思った。身勝手で汚く、どうしようもなく不毛な物語。でもだからこそ、悔しいくらいに綺麗だ。 10点(2004-08-30 22:47:22)(良:5票) |
2. さよなら子供たち
涙が、零れそうで、零れない。そんな、最後の瞬間の、少年の目。 5点(2004-08-14 14:02:01) |
3. 肉片の恋
どこぞの浸りきった男女が人目を憚らずいちゃいちゃしていても、周りの人間の視線は物凄く冷ややかなもんです。2人が作り上げた独自世界と、その2人以外の全ての覚醒している人々が属している世界との温度差。何やらそんなものを感じてしまいました。恋人たちよ、世界は常に無情で冷徹なのさ。あるカップルの束の間の愛の耽溺タイムでした。 7点(2004-08-03 20:33:11)(良:1票) |
4. ブリキの太鼓
ぬめぬめと温かく湿った内臓を連想させるようなグロテスクさ。観る者の生理的嫌悪を確信的に掻き立てる描写。強烈な不快感。それは表面的なグロテスク描写のせいだけではなく、もっとずっと深い所、この作品の根底に流れる何かに、心の奥の柔らかい部分を鷲摑みにされてしまったからだと思う。オスカル少年は成長を止め、刻々と流れる世界に組み込まれない異質の存在となることで、ポーランド暗黒の時代を客員的な視線で眺め記録する、客観の視点の体現者となった。つまり彼はクロニクルの叙述者であり、無意識的な道先案内人なのだ。しかし同時にポーランド暗黒時代そのものの体現者でもある。正常に成長の轍を踏まず、ある意味幼少期から少年期を丸々欠落させた彼は、まるでポーランドの“失われた時代”そのものであるかのようだ。幾層にも堆積し歪曲した不快なまでの悪意、グロテスクなメタファーで形成されたこの作品。難解ではあるけれど、根底にあるものは単純極まりない。根底にあるものは単純に、人間の業なのだ。人間は自らの業による汚辱からは逃れられない。あれだけ大人の世界を否定していたオスカル少年だって、モラトリアムの最中にあってさえ、実のところやっていることは大人と何一つ変わらなかった。触れられたくないものを、最も汚辱に塗れた手で掴まれたようだった。それは私の心の奥に一点の消せない滲みを残して去って行った。そしてオスカル少年は、結局は自ら汚辱の世界に戻って行った。それは暗黒時代の終焉であると同時に、1つの観念的な戦争における、徹底的な敗退の証明でもある。 10点(2004-07-31 22:34:18) |
5. ポゼッション(1981)
初めて聞いたとき、「ああ、いいタイトルだなあ」と思った。POSSESS、POSSESSION=所有、妄執、憑依、所有物。タイトルだけで色々な解釈ののりしろがある。自らの「所有」する「妄執」に「憑依」され、ついには肥大化した「妄執」の「所有物」になってゆく女性。イザベル・アジャーニが体当たりで挑む、体液という体液、怨念という怨念を吐き搾り出す演技は、ちょっと他ではお目にかかれない位に壮絶で衝撃的。あれで25歳。その年であの老練した表現力。凄まじい女優です。まあ私もテンパって来るとかなりおかしくはなりますが。これもまた観る者を選ぶグロテスクな真性エログロ映画ですが、私としては人間の本質、人間の業を描いた真摯な映画の1つではないかと思います。 9点(2004-03-15 18:07:54) |
6. ネバーエンディング・ストーリー
原作者は相当納得が行かなかったらしいけれど、原作を読んでいない私としては、これはこれで1つの作品として良く出来ていると思う。完全CG依存の現代ファンタジー映画事情に何だか淋しいものを感じている手作りファンタジー大好きっ子の私としては、手作りの美術セットによる世界観の構築と不気味可愛いクリーチャーたちの造形を見られるだけでも、充分にこの作品は素晴らしいと思います。 7点(2004-01-31 12:31:24) |
7. ベルリン・天使の詩
おそらく私はまだこの作品を受け止められるほどには成熟せず達観していないので、手に余ってしまうのだろうと思う。この作品の持つ潜在性を受け取り自分の中で処理するには、もっともっと老練した心が必要だと思う。もっと時間が経ってからまた観たいと思います。 “元天使”小津安二郎だって。ほんと、何て粋なトリビュートなんだろう。素敵だ。 8点(2004-01-15 17:13:10) |
8. モモ
哲学チックで教訓的で、とてもドイツ的な物語。でも難解ではなく、易しい。子供向けの映画ではあるけれど、そのテーマ性には身につまされるものがある方も多いのではないかと思う。セットなどがしょぼいのはご愛嬌。素敵な映画ですよ。日々時間に追われる方、そんな自分を考えてしまう方、ぜひぜひ可愛いモモに出会ってみて下さいな。 8点(2003-12-30 16:36:12) |
9. バロン
独特の世界観を武器にする監督は多いけれど、テリー・ギリアムはその中でもかなり独特。この作品は今まで観たどの映画にも似ていない。強烈なオリジナリティーがある。だから拒否反応を起こす人も多いだろうけど、一見の価値はある。若き日のユマ・サーマン(何と18歳!)や幼き日のサラ・ポーリーが見れることも得をした感じ。ところでバロンの仲間の1人のビジュアルにそっくりなキャラが某有名海賊漫画に出て来ませんか?うちの弟も同意してくれたよ。他にも、あれ?エピソードが似てるぞ?と思うところがいくらか。あの漫画家さんも好きなのかな?この映画。 8点(2003-12-01 21:42:27) |