2. 怒り
《ネタバレ》 日本を代表する俳優陣がズラっと顔を揃えた作品だけあって、演技面では本当に充実した作品でした。渡辺謙は抜群の安定感だし、謎の人物に翻弄される宮崎あおいや妻夫木聡も従来とはかなり異なる役回りながらも、これを見事に演じています。そして私が何より素晴らしいと感じたのが謎の男を演じた松山ケンイチと綾野剛であり、多くを語らないながらも観客から受け入れられるだけの魅力を持たねばならないという、かなり匙加減の難しい役を見事モノにしています。 他方で問題に感じたのが突飛な展開が多いことで、前述の通りの見事な俳優陣に支えられているおかげでそれほど目立ってはいませんが、よくよく考えてみればトンデモ映画の域に達しています。突如現れる難病設定で死ぬ綾野剛とか、それまで気の良い兄ちゃんだった森山未來の本性がほぼ別人でそれまでのドラマの流れと完全に断絶していたりとか。 特に沖縄パートは杜撰だったと思います。主人公・知念の父親が反基地運動に参加した序盤からイヤな予感はしていたのですが、本筋にもバッチリ基地問題を絡めてくるものだから、視点が散漫になっています。善悪で割り切れない複雑な問題である沖縄の基地問題を記号のように扱うことの違和感。また前述の通り森山未來の豹変ぶりもおかしいのですが、正体に気付いた知念の前だけでその異常性を見せるのならまだしも、泊まり込みのバイト先で深夜に厨房を破壊するという、警察に通報されてもおかしくない行為を突然始めることの違和感。長期間に渡って潜伏生活を送ってきた知能犯が、こんなバカなことをするものでしょうか。 また、犯人の動機もわけわからんものでした。同情されたことで自尊心が傷付いて人を殺すってどういうことなんでしょうか。脚色を担当した李監督自身もその動機をうまく消化できていないのか、森山未來演じる田中が抱えているはずのそうした歪んだ自尊心を全然表現できておらず、突如現れた彼の元同僚に口頭で説明させるという、何とも荒っぽい処理で終わらせています。そういえば、あの元同僚の存在もよく分かりませんでしたね。あれだけ詳細に殺人事件の内容を聞かされていて、なぜ今の今まで警察に通報もせず黙っていたのか。さらには、それだけ秘密にしてきた話を、なぜ今になって頼まれてもいないのにベラベラと話し始めたのか。彼の存在も本筋からはかなり浮いていました。 [インターネット(邦画)] 5点(2018-01-08 01:44:29)(良:1票) |