701. 不毛地帯
《ネタバレ》 山崎豊子原作の映画化だが、この人の作品ってのは、とにかく社会的腐敗をこれでもかとばかりにえぐり出し、人間の私利私欲にまみれた裏社会を容赦なく描くので、観ていてほんと気分が暗くなる。 その一方、その洞察は凄まじく鋭く、否応なしに引き込まれる。 目を覆いたくなるほどに汚く、腐りきった権力社会に対する辛辣な切込み。 これは凄いという他ない。 仲代達矢の演技の素晴らしさにも感嘆した。 シベリア抑留のダメージを負ったうつろな目、しぼりだすような声。 会社が自分を必要としたことから、当初の意に反して仕事にどっぷりはまり、追い詰められている時の力漲る演技。 ほんとに素晴らしく、そして偉大な俳優だ。 日本映画史の中で、尊敬する俳優を五人挙げるとすれば、私は迷いなく仲代達矢をその一人に挙げるだろう。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-09-09 01:36:59)(良:1票) |
702. 東京暮色
父と母、娘二人の四人家族の構成だが、互いに秘密が多く、意思の疎通ができていない。 いや正確に言うと、父親は娘達に対して歩みよる姿勢を見せていて、秘密もないのに、娘二人はというと、互いに秘密を持ち、父親に対して全てを開けっぴろげにしていない。 家族という形はありながらも、内実はバラバラで、秘密だらけ。 でも、現代の家庭の姿を考えると、今ではそれがむしろ普通だったりするわけで、身につまされるものがある。 しかも、離婚や別居なども出てきて、まさに現代を予見したかのような内容に、現代劇における小津の凄さを感じずにはいられない。 そういう意味で、本作は大人向けの映画であり、子供の目線から見ると理解できない作品かもしれない。 逆に、結婚を経験し、子供も居る大人から見たら、たいそう怖い内容で、現実的な恐怖感を煽られる様な思いである。 キャスティングに目を向けると、原節子・笠智衆の親子はおなじみとして、有馬稲子の陰鬱な目つきが印象的。 エリート役を演じさせるとしっくりくる中村伸郎の、雀荘オヤジ役はややミスキャストか。 三好栄子は、平民の汚いおばちゃんというイメージがあるので(失敬)、本作の女医役が意外にもはまっていて、これには驚いた。 演じようと思えばどんな役でも自然にこなせるという、三好栄子の実力を垣間見た気がする。 山田五十鈴・原節子の母娘は、歳の差に違和感をおぼえた。 親子ほどの年齢差ないでしょ、って感じ。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-09-05 10:49:05) |
703. 小原庄助さん
《ネタバレ》 子供ばっかり出てきて苦手な清水宏監督作品の中にあっては、大人向けの現代劇であり、楽しむことができた。 小原庄助さんのテーマ曲が良い。 でも、朝寝朝酒朝湯っておかしいよな。 だって、朝寝ていたら、朝風呂に入れないからな。 朝酒も飲めないし。 さて、大河内傳次郎の現代劇を初めて観たので、それだけで楽しめた。 そして終り方が良い。 全てを無くした後でも、そっと妻だけは傍に居てくれる。 これは男の理想だ。 最後に「始」の文字が出るのも、粋な演出。 小原庄助さんの人生は、妻と共にこれから始まるのであった・・・ おはら~、しょ~すけさん♪ てんてけてけてけ♪ そ~れで身上つ~ぶした~♪ あ~もっともだ~もっともだ~♪ でも人生はつぶれていない! 始まるのはこれからだ! [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-09-04 21:53:54) |
704. ポーラX
前作『ポンヌフの恋人』から実に8年の歳月を経て作られたレオス・カラックス久々の長編映画。 かつてほどの精彩は感じられず、レオス・カラックス独特の色彩感覚も感じられなかった。 だが、分かりそうで分からないレオス・カラックスならではのストーリー展開は独自のものを感じた。 よくあるアメリカ映画の様に、いたずらに時間軸をずらして分かりにくくなっているわけではなく、これはおそらくレオス・カラックスならではの天才的なセンスによるものだろう。 その分かりにくさが逆に観る者を心地良くさせる作品なのかもしれないが、淡々と終わってしまった印象はぬぐえない。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2010-08-25 22:53:15) |
705. 裸の島(1960)
日本映画史に名を刻む新藤兼人の代表的監督作。 島の暮らしをただひたすら音楽だけで綴った内容。 人はどんなに辛いことがあっても、立ち止まることはできず、今ある現実を受け止めて生きていくしかない。 そんなメッセージが伝わってきた。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-08-21 01:26:15) |
706. 娘々廟會
フィルムセンターにて鑑賞。 満鉄映画の3本立てだったが、目当てはあくまで本作だった。 前の2本が終わったところで、満を持しての登場。 ニャンニャンメヤオホイ、と題字にヨミガナがふってあった。 満州国の、とあるお祭りの様子を撮った記録映画だが、今日観た他の満鉄映画2本と異なるところは、妙に若い声の中村伸郎がナレーションをしているところだ。 お祭りの様子を映しながら、非常に聞き取りにくい小さな音でのナレーション。 はっきり言って、何を言っているのか分からず。 ただ、満州国の時代性と、そのお祭りの臨場感を楽しんだ感じだった。 [映画館(邦画)] 5点(2010-08-19 23:54:34) |
707. 少年拓士の日記
フィルムセンターにて鑑賞。 色々な映画館でよく見かけるオヤジが、出入り口の警備員にしつこく話しかけていた。 警備員は迷惑そうだった。 映画館の警備員やってるからって、映画通だとは限らないのに、映画ネタを一方的に語りかけるそのオヤジは、迷惑人間だと言わざるを得ない。 そのオヤジは、またもや上映中に他の客に大声で注意。 「音たてるのやめなさいよ!」、と。 っていうか、おまえが大声出すのやめろよ! さて、当時の満州国の様子を生きた映像で観ることのできる貴重な作品だった。 記録映画という感じで、何らストーリー性は感じられないが、歴史上の出来事としか感じられなかった満州国の様子を、こうした映像で生々しく観ることができるのは凄い。 そういう意味において極めて貴重な日本映画で、まるでタイムスリップしたかのような感覚だった。 [映画館(邦画)] 5点(2010-08-19 23:39:01) |
708. 草原バルガ
フィルムセンターにて鑑賞。 客層は思った通り極めてマニアック。 満鉄映画だが、内容は蒙古(モンゴル)の人々の生活を撮影した内容。 あまり面白くはない。 [映画館(邦画)] 3点(2010-08-19 23:34:39) |
709. 県警対組織暴力
《ネタバレ》 東映ヤクザ映画を見飽きていたのに、それでも楽しめた。 『仁義なき戦い』よりもむしろ良かった気さえする。 100分の尺の中に、様々な人間模様が凝縮された感じ。 菅原文太や松方弘樹は相変わらずだったが、梅宮辰夫のおとぼけぶりと真面目ぶりには笑った。 特にラストシーンの衝撃。 サラリーマンに転職し、課長っぽいポストに就き、「ラジオ体操しよう」の一言。 深作監督は何たるユーモアと皮肉のきいた監督なんだろう。 成田三樹夫がサングラスかけっぱなしだったのは残念無念。 声だけ楽しみました。 [DVD(邦画)] 6点(2010-08-16 00:02:59) |
710. 贅沢な骨
麻生久美子が今までにないほどの露出を見せている。 最初から最後まで露出度の高い服を着ていて、しかも何度となくセックスシーンが出てくる。 それだのにそれだのに、何故だか今までになく老けて見えた。 話としては、人間関係がなかなかドライに描かれていて、軽いノリで観ることができた。 人間と人間のつながりなんて、しょせんはこんなもんだろうと、しみじみ感じ入ってしまった。 そして人間の命の儚さも。 だからこそ、人は生きているうちにやりたいことをやっておかなければならない。 今ある人間関係も命も、全ては泡のように儚いものなのだから。 凡庸な作品であることは否めないが、そうした人間の儚げな生き様を見せ付けられた作品でもあった。 [DVD(邦画)] 5点(2010-08-15 01:00:05) |
711. 東京ゴッドファーザーズ
東京の風景が実に細やかに、そして綺麗に描かれているのは見事。 偶然続きのストーリー展開は、創り手側のお遊びと取るべきか、手抜きと取るべきか、それともファンタジーと取るべきか。 名うての邦画アニメーションの中でも、一際良く出来た作品。 ただ、登場するキャラたちがウザイのがネック。 しかも女のコはかわいくないし、赤ちゃんさえかわいくない。 これはいかがなものだろうか。 [DVD(邦画)] 6点(2010-08-14 00:03:40) |
712. 新幹線大爆破(1975)
《ネタバレ》 不作な日本映画の1970年代にあっては、おそらく屈指の出来栄え。 長いのに飽きさせないスピーディな展開は素晴らしい。 ただし、スピーディさを優先するあまり、都合よすぎる展開があるのはご愛嬌。 それより何より、一番気になったのはラスト。 新幹線は無事停車し、高倉健をはじめとする犯人たちは全員死亡というハッピーエンドに違和感が。 最後に流れた、意味なく平和な感じのするショボイ音楽も違和感ありまくり。 これだけ犯人たちの背景を丁寧に描き、犯人側の人間性も描きながら、表向きはすっきりハッピーエンドというのは、どうもいただけない。 高倉健だけ独り海外へ逃亡し、飛行機に乗り込む高倉健の寂しい後ろ姿をとらえ、それを切ない音楽で包むという終り方が良かったんじゃないだろうか。 大金と引き換えに、かけがえのない仲間を失った寂しい高倉健を、盛り立てるような感じで終わらせてほしかった。 [DVD(邦画)] 7点(2010-08-11 23:51:37) |
713. どん底(1957)
特別、傑作ではない。 群像劇スタイルで、社会の底辺に生きる人々を丁寧に描いた内容。 不景気の現代にも通ずる内容で、現代に当て込めばそれなりに含蓄を感じる部分はあった。 左卜全の自然な演技は素晴らしい。 それにしても、黒澤明は香川京子の使い方がヘタ。 使うからには、可憐な香川京子を撮ってほしい。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-08-08 00:39:03) |
714. 忠臣蔵(1910-1912)[活弁トーキー版]
まともな形で残っている日本映画としては、最古の作品らしい。 フィルム・センターにて鑑賞。 忠臣蔵のストーリーは知っているから、何とか理解はできたものの、それでもセリフの半分は判然としない。 映像は思ったより綺麗で、普通に観られるし、活弁トーキー版だったので、サイレントを観ている時のような集中力も要しない。 何より、今から100年前の日本映画を観ているということだけで、感動もんである。 [映画館(邦画)] 5点(2010-08-04 23:50:10) |
715. 椿三十郎(1962)
話は普通に楽しめた。 だが、クリント・イーストウッドが監督・主演をしている作品の主人公の様に、強すぎる三船敏郎に嫌気がさした。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-08-03 23:41:25) |
716. 蜂の巣の子供たち
清水宏監督ならではの演出で、古き良き日本の風景を使い、今で言うロードムービー色豊かに、そして静かに語るその雰囲気は、 昭和のいにしえを感じさせる 、、、のだが、いかんせん、好みに合わなかった。 これは趣向の問題なので、如何ともしがたい。 [映画館(邦画)] 1点(2010-08-02 19:18:02) |
717. 秋日和
小津安二郎の中期から晩期にかけてのワンパターン化したストーリー展開は正直飽きがくるものの、小津ならではの様式美と色使い、そしてシーンとシーンの合間に挿入される音楽は、軽妙でいて完成度が高い。 小津が長い間かけて自らの様式美を完成させ、それはあまりの完成度の高さに見惚れるほどだが、むしろストーリーにかけてはワンパターンという欠点が同時に存在する。 小津が好きな人なら、小津様式美としてどんどん進化して深くなっていく後年の作品群にのめりこむことだろうが、親子の離別を主軸に描いた後期小津の作品群は、私のような者には、少々飽きがきてしまうのだ。 原節子は限界。 もはや美しくはない。 いや正確に言うと、小津作品の原節子には、かなり前の頃から、その作り笑いに私は違和感を感じていた。 小津の原節子に対するラブコールとは裏腹に、小津と原節子との相性はそんなに良くはない気がする。 この頃の司葉子は、まさに美しさという点において絶頂期である。 若さと大人の気品を兼ね備え、この作品に花を添えている。 オヤジ三人衆の洒脱さは、本作でも健在。 オヤジたちのやり取りの面白さ、背景にあるオヤジたちの豊富な人生経験を垣間見れる深さなんかは、さすが小津である。 このようなオヤジ達の面白いやりとりを撮らせたら、小津安二郎は間違いなく最強である。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-08-01 02:12:46) |
718. TOMORROW 明日
《ネタバレ》 ある理由があって、苦手の黒木和雄作品を観た。 これまた原爆映画で、全く面白味がない。 しかも、「明日」というのは、8月9日の長崎原爆投下の日をさしていて、その前日をひたすら静かに群像劇スタイル描く、という誠に趣味の悪い内容。 観ている者は誰しもが、この日の翌日に原爆が投下されて、全ての幸せが無になると解っていて観ているわけだが、全ての内容がそりゃあ虚しく感じられ、観ていて気色が悪くて仕方なかった。 描かれている内容がたとえどんなに不幸で陰惨なものであったとしても、例えばラストシーンで希望の光を感じる終り方を見せるような作品であれば、その作品は「良かった」と私は感じられる。 ところが、些細な幸せを描いて、ラストで原爆ボーンでは、観終えた後の気分が最悪である。 これは趣味の問題かもしれないが、私はこんな気色の悪い映画は二度と観たくない。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2010-07-27 22:15:19) |
719. 八甲田山
《ネタバレ》 豪華キャストに超大作。 内容は、ただひたすら雪原を進むだけのもので、3時間、我慢を強いられた。 まるで雪原の中を根性で進む映画の内容と同様に、観ているこちらも、その単調さに根性が必要とされる。 「雪の中で眠ってはいけない!死んでしまう!」 まさしく、私も眠ってはいけない、眠ってはいけない、と自分に言い聞かせながら3時間を辛抱し、やっとエンドに辿りついた。 主演の高倉健の出番はかなり少ない上に、名優の三國連太郎はその演技力を発揮する機会さえ与えられていない。 豪華キャストだが、吹雪の中で彼らの表情がよく汲み取れず、せっかくの豪華キャストが活かされていない。 木村大作の撮影も、別に特筆すべきこともなく、「大変な環境の中でよく頑張って撮りました」という程度。 豪華キャストの意味もなく、そして意味もなく長く、内容は雪原を進むだけ、というまさに超大作駄作。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2010-07-25 15:32:32) |
720. 竹山ひとり旅
全国津々浦々を巡る物語にしては、どうも起伏がない。 そしてキャスティングにも魅力がない。 監督の新藤兼人の妻、乙羽信子は個人的に苦手な女優で、新藤兼人作品にはしょっちゅう出てくるだけに、新藤兼人作品は苦手というイメージがある。 本作でもそのマイナスイメージは払拭できず。 東北の寒々しい雰囲気はよく出ていたとは思うが。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2010-07-23 23:24:51) |