1. ジェイソン・ボーン
《ネタバレ》 『ブラディ・サンデー』や『ユナイテッド93』などに続き、自身の得意とする群衆パニックシーンを冒頭、中盤、クライマックスにそれぞれ 配置し、画面を賑やかす。監視カメラ映像なども駆使しつつ、入り乱れるモブの間に見え隠れしながら行動していく主人公をハンディカメラが追う。 相変わらず、編集の映画だなと思う。 ドラマには時事的ネタを採り入れるなどしてアップデートを試みるものの、さすがにシリーズものの宿命としてのマンネリ感は否めず、 一方でとりあえずの景気付けみたいなラスベガス・カーチェイスの華々しさは作品のテイストから乖離している。 [映画館(字幕なし「原語」)] 5点(2016-10-07 21:29:42) |
2. アンジェリカの微笑み
《ネタバレ》 表記はないけれど、映し出される河川は例によってドウロ河なのだろう。 テレビは見当たらず、不鮮明なラジオ音声が流れる劇中の時代は如何様にも受け取れる。 夜、夜明け、そして雨上がりの日中と移り変わる川岸の街並みの風情はどこか神秘的な様相も呈し、 対岸にある丘陵斜面のキアロスタミ風ショットは彼地の風土を強く印象づける。 人物がフレームアウトした後も黒猫がじっと鳥かごを見つめている。 撮る側も猫のリアクションを息を殺して期待していたに違いない。 中央にドア、あるいは窓を配した屋内ショットは凝った照明設計によって濃密な空気を感じさせている。 [映画館(字幕)] 7点(2016-04-05 17:16:26) |
3. オーソン・ウェルズのフォルスタッフ
《ネタバレ》 高窓から光の差し込む城内の厳かな様。深い奥行きの画面がウェルズらしい。 対照的な酒場の猥雑な様。テンポよく韻を踏むダイアログ、短いショットと共に軽快に人物の動きを追うカメラが画面を弾ませる。 その酒場のセットも、材木の組み合わせと構造に妙味があって視覚的にさらに面白い。 中盤の合戦シーンは白煙の中に人物と騎馬が入り乱れる黒澤的なダイナミズムで目を瞠らせる。 ラスト、仰角のショットで成長した王の威厳を称え、寂しげに去りゆくウェルズの巨躯を小さく小さく捉えるカメラが印象的だ。 [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2015-12-16 23:39:29) |
4. 秘められた過去
《ネタバレ》 ウェルズが監督を始め、製作、脚本、衣装、美術、編集と多才ぶりを発揮。 ロケーションもスペイン、フランス、ドイツ、メキシコと幅広い。 港湾シーンの影の乱舞や、天井を取り込みながらウェルズの威容を強調する不安定な斜め仰角ショットに凄味がある。 とりわけ、船のローリングに合わせて背景セットと手前の人物の揺れをずらす効果は絶大で眩暈すら誘う。 中盤までは回想形式の叙述でありながらも、ジャン・ブールゴワンから引き出されたそのノワールスタイルの暗黒画面によって醸しだされる切迫感がただならない。 『市民ケーン』的な謎解きのドラマに、古城での仮装パーティの喧騒では怪奇映画ムードすら加わって映画的スリルは多彩だ。 クライマックスは天井のスピーカーを通した娘と父との、視線の交わらない対話。俯瞰と仰角の切返し編集、そしてノイズが悲劇性を強調する。 [ビデオ(字幕)] 8点(2011-05-21 21:01:13) |
5. ブンミおじさんの森
大雑把に三部に分けられる構成には侯孝賢の『百年恋歌』のような趣がある。 熱帯林の緑の濃淡と、湿潤の感覚。裸電球の下で食卓を囲むショットとフレームへの人の出入り。エピローグのPOPミュージックなど等、、。 小さな滝と水流の幽玄性、中国茶の入ったガラスコップに木漏れ日を美しく反射させる採光などは実に繊細だ。寝室の蚊帳は幾度も画面に淡く美しい紗をかける。 水と小魚の鍾乳洞のイメージなどは母胎のメタファーそのままだが、まずもって具体の画面として吸引力がある。 冒頭から豊かに響く生命の気配の濃密さ。静かな地鳴りのような音響へと変わり、それが途切れた瞬間に引き立つ静寂、その音響が緊張を孕みながらも心地よい。 あるいは足を患うジェンの不自由な足取り、水牛、犬、精霊の佇まいもまた静かな緊張感を終始漲らせる。 赤い目を光らせる「猿の精霊」の造型はどこか宮崎駿の描く神人の影響などもおぼろげに感じさせる。 暗い洞穴の中で輝く、星のような鉱石の光。その美しいイメージはまさに『天空の城ラピュタ』の一場面の優れた実写化だ。 [映画館(字幕)] 8点(2011-04-18 23:01:37) |
6. 瞳の奥の秘密
欠陥タイプライターとベッドで書き付けた紙片を結びつけていく件りは、ただただ非映画的「語呂合わせ」の為だけに要請された設定と行動に過ぎず、唐突で取ってつけたようなエピソードという印象しかない。 作者の意図が露わになりすぎている。本来、走り書きの行為に何らかの必然性(この場合なら、例えば「習慣性」)を付与することでそうした意図を巧妙に隠すのが演出者の手腕のはず。 また、時の流れの刻印を強調しつつ過度に用いられる対話シーンの単調な顔面アップは、ここぞというショットであるべき目のクロースアップの強度を薄めてはいないか。 といったいくつかの貶しどころはありながらも、ハリウッド映画的な娯楽性は豊かで面白い。 エレベーター内の静かな緊迫感。明度を落とした屋内照明の渋さや、窓外の木々のざわめきがかき立てる不穏感。妻を殺された夫の転居先を訪問する際の、家側からのカメラ移動といったホラー的感覚などはとても巧い。ドアの開閉を、サスペンスとロマンスのドラマ双方と絡ませた多様な用方も良し。 空撮から繋いでスタジアム内をアクロバティックに動き回る荒々しい手持ち撮影はルックの変貌が突出しすぎの感もあるが、やはり楽しい。 [映画館(字幕)] 7点(2010-10-16 16:58:37) |
7. ブロンド少女は過激に美しく
上映時間64分の濃密さ。 列車の座席で隣り合ったマカリオ(リカルド・トレパ)と婦人(レオノール・シルヴェイラ)が語り合うシーンの一定した構図によって、語りが進むにつれ婦人が送る視線の動きが微妙に変化していく様がうかがえるなど、芸が細かい。同じく定点から捉えられたリスボンの丘の美しい遠景ショットの反復が、鐘の音が、不可逆的な時間の推移を印象づける。 そして、通りを挟んで向き合う窓と窓の縦構図の中にルイザ(カタリナ・ヴァレンシュタイン)を妖しく浮かびあがらせていくフレーム造形の妙。 顔の右半分を隠すブロンド、正面を遮る扇、紗のカーテン。そしてカメラは彼女を主に右横からのショットあるいはロングショットで捉えるため、彼女の相貌はなかなか全体像を表さない。 玄関階段での振り返り、右足を浮かせた抱擁のショット、足を開いてソファに座り込む彼女のラストのショットまで、少ない出番でありながら醸しだされる謎めいた雰囲気は絶品である。 公証人の豪邸内の重厚な美術と照明設計。対する、洋服ダンスとベッドのみが置かれた安アパートの深い陰影など、スタッフワークも当然のごとく充実している。 [映画館(字幕)] 8点(2010-10-11 21:11:12) |
8. ノン、あるいは支配の空しい栄光
開巻のショットから目を引く熱帯性の大樹を仰ぎながらの緩やかな移動の感覚と、打楽器の音響がもたらす静かな緊張感。 中盤のヴァスコ・ダ・ガマからするとモザンビークあたりになるのか。その密林沿いを走行する輸送トラック上で会話する兵士たちの顔をカメラは正面から捉える。ルイス・ミゲル・シントラを始めとする、その無表情の異様な強度。 サラザール独裁体制時代の植民地戦争を主舞台として、小隊の議論の中から主要ポルトガル戦史が回顧されていく。 暗殺されたルシタニア族族長ヴィリアトゥスを荼毘に付す炎と灰木の質感の生々しさ。アルカサル・キビルの騎馬戦における、横の広がりを意識した巧妙な空間設計。残照の中、死骸の散乱する戦場の荒涼感などがそれぞれ強烈な印象を残す。 そしてラストの野戦病院のベッドで、顔に巻かれた包帯の中からカメラを正視する、物言わぬ見開かれた眼がまた強烈無比。 [映画館(字幕)] 8点(2010-10-10 20:07:43) |
9. シルビアのいる街で
カフェのシーンの、重層的な画面設計とアングルの妙。「シルビア」の虚像性を際立たせる、窓ガラスへの映り込みの技巧。劇伴BGMなのか、現実音なのか、その真偽を一瞬戸惑わせる強かな音楽用法。主要台詞の極端な少なさと反比例して、鉛筆の擦過音からガラス瓶の回転音まで、過剰なまでの生活音への拘り。細部まで凝った充実した映画であることは確かだが、ここまで演出が勝ちすぎると、もう少し大雑把ないい加減さや生々しさも求めたくなる、というのは贅沢か。雑踏の尾行シーンで行き交うエキストラ達のリアクションに対しても、一見ヌーヴェルバーグ的ではありながら、どこか管理と作為が感じられてしまう。画帳の頁や金髪を舞わせる風のショットの過剰性も。某『映画時評』が言うところの「やりすぎ」感なのだが、逆説としてそれが映画的楽しさといえなくもない。流れる列車の車窓と、そこに瞬間的に映し出される儚い像は映画フィルムそのものを思わせる。いかにも映画の映画らしい。 [映画館(字幕)] 9点(2010-08-08 20:37:45) |
10. グリーン・ゾーン
トレードマークというべき相変わらずのタッチ。寛容に受け取れば、『ボーン』シリーズなら主人公の俊敏さ・機敏さを強調し、『ユナイテッド93』なら乗客の動揺と切迫感を表象する手段でもあり、本作でいうなら現場の混迷と混乱の状況を示すといったところか。主人公は政治状況・組織関係の混迷(大状況)と、迷路のような異郷の夜の路地(局地状況)をひたすら奔走する。それは良いが、バス停留所の件りになるともはや視点が拡散しすぎで、位置関係の把握どころではない。こうなると、サスペンスとしては辛い。撮影途中のフォーカス修正や、高速ズーミングなどの誘導的細工で擬似即興感づくりに勤しむ一方で、映画の「嘘」を敢えて露呈させるようなリバース・ショットは盛んに入り混じり、各キャラクター造型は単純明快で非リアルであり、結末は能天気なほどファンタジックでありと、見事に社会派臭を払拭している。政治性を牽制する戦略も抜かりなし。陸橋の崩れた街道を俯瞰するロングショットや、夜の路地を徘徊する野良犬、義足を外され片足飛びするイラク人など、個々には眼を引くショットも多い。 [映画館(字幕)] 4点(2010-05-18 20:55:13) |