1. マンダレイ
《ネタバレ》 ドックヴィルの集落を住民もろとも地上から抹殺したグレースと父親およびその手下たち、どうしてか相変わらずアメリカ南部をキャラバンの様に彷徨っていて、アラバマでマンダレイという綿花農場を通りかかる。そこでは今だに黒人奴隷が存在しており“意識高い女”系の気の病が再発したグレースはマンダレイに入り込んで奴隷を解放し、黒人たちに彼女が理解している民主主義なるものを教えて啓蒙して元奴隷たちが自立できるコミュニティを築こうと奮闘するのだが… ローレン・バコールやクロエ・セヴィニーなど『ドックヴィル』から続いて出演しているキャストもいるが、肝心のニコール・キッドマンとジェームズ・カーンの父娘など半分はラース・フォン・トリアーのオファーを蹴ったというか逃げられちゃったみたいですね。逃げなかった面々にしても、ほとんどセリフもない影の薄い役だったのは可哀想。『ドッグヴィルの告白』というドキュメンタリーを観ると、キッドマンなんかはもうトリアーのことボロクソに言ってましたな。代わってブライス・ダラス・ハワードとウィレム・デフォーの父娘となったわけですが、とくにデフォーはジェームズ・カーンより良い味出してました。彼はその後もトリアー作品にはチョコチョコ出演しているし、類は友を呼ぶというか気が合ったみたいです(笑)。 この映画は『ドッグヴィル』よりも、アメリカ合衆国というある意味奇妙な国家の闇というか負の歴史を前面に押し出しているところは好感が持てます。意識高い系の女・グレースの思考原理は学校で教えてもらったデモクラシーの理想そのもので、砂嵐の件など現実を見ようとしない理想論の欠陥が皮肉たっぷりに描かれています。黒人たちにしても俗にいう奴隷根性が丸出しで、”しいたげられた者は清く正しい“というステレオタイプを徹底的にコケにしています。実は“天敵がいなくて食糧・水にも不自由しない環境ではネズミはどこまで繁栄できるのか?”という事を研究した“ユニバース25”実験のことを思い浮かべてしまいました。これは4ツガイのラットが最高で2,200匹まで増えたけど日も経たずに全滅してしまったという有名な実験で、ネズミと人間を同一視するのは不適切かもしれないが、まさにこの映画でのマンダレイはネズミの天国と似たようなものなのかもしれません。またグレースの行動原理とマンダレイの関係は撮影当時の進行形だったイラク戦争の縮図そのものとも言えて、やっぱ欧州人じゃないと撮れないテーマだなとしみじみ感じました。 ラストで完全にドックヴィルの様に父の助けを借りてマンダレイも地上から抹殺しようとしていたグレイスだけど、15分遅れていた唯一の時計のせいで虐殺は回避されます。この時計は劇中で多数決で時刻合わせしたので遅れていたわけで、けっきょく民主主義が住民の生命を救うことになったというわけです、でも決して住民たちはそのことに気づくことはないであろうというのがある意味で痛烈な皮肉ですがね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-12-29 23:07:26) |
2. ザ・バニシング-消失-
《ネタバレ》 なるほど、サイコパス気質のキューブリックが怖がるぐらいですから、やはりこの映画の禍々しさはタダもんじゃないという証左になるでしょう。しかしこの真綿で首を絞めてくるような恐怖の盛り上げ方は、たしかにトラウマ級です。オランダの映画にはこういったヤバさや不快感といった嫌な後味が残る作品が見受けられますが、ヴァーホーベンなんて可愛く感じてしまうレベルでした。 反社会性サイコパスの犯人像がリアル過ぎて恐ろしい。二人の娘を持つ理科教師、夫婦仲はごく普通で性格は几帳面で高血圧を気にする一見平凡な中年男。この男の恐ろしいところは、何度も失敗しながらもなんで女性を狙うのかが理解不能なこと。ナンパが目的なら判るけど、失敗から教訓を得てひたすら犯行手口を改善させてゆく執念には、淡々と見せられるだけにゾッとするしかないです。“キーホルダー”や“閉所恐怖症”といった伏線が戦慄のラストで回収されるところも見事です。また失踪したサスキアを探し回るレックスを執拗に狙う心理も、常人には理解しがたい。でも彼なりのレックスを追い詰める作戦は理にかなっており、5回も匿名手紙の呼び出しに応じるレックスから彼の心理を深く理解するまでに至る知性は驚異的ですらあります。レックスはこうなると蛇に睨まれたカエルも同然、理性は激しく警告しているのに催眠術にかけられたように睡眠薬入りコーヒーを飲んでしまうのは人間心理の闇を見せられたような気分です。これはオーウェルの『1984』的な現在の権威主義国家が、民衆を操る手法に通じるものがあるかと思います。 やはりあの絶望のラストは、『キル・ビルvol.2』のユマ・サーマンに影響を与えたんでしょうか、タランティーノなら本作を観ている可能性は十分ありますね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2022-04-05 22:56:22) |
3. アレキサンダー
《ネタバレ》 人類史上で最大の偉業を成し遂げたアレキサンダー大王、子どもの頃にこの話を知った時にはあまりに凄くて神話のお話しかと思ったぐらいです。実は他の歴史上の英雄たちと違って、本作の前に彼の生涯が映画化されたのは、リチャード・バートンがアレキサンダーを演じた56年製作の『アレキサンダー大王』しかないんですね。そんな難易度の高い題材にチャレンジしたのが、21世紀に入って誇大妄想気味になってきたオリヴァー・ストーンです。 物語はアレキサンダーの死から40年後、プトレマイオス朝のファラオに収まっているかつての部下プトレマイオスの回想という形式で進行します。家庭教師アリストテレスとのエピソードなど順当なストーリーテリングで始まったと思いきや、プトレマイオス=アンソニー・ホプキンスのいわゆる“ナレ死”だけで父王フィリッポスからアレキサンダーに代替わり、アジア遠征に乗り出しエジプトを征服しペルシャに攻め入りガウガメラの決戦までナレーションだけで進行するので、これは総集編かよ、ってツッコんでしまいました。でも中盤以降になってフラッシュ・バックしてフィリッポス暗殺とアレキサンダー即位をシークエンスとしてきっちり見せてくれ、けっこう巧みな脚本なのかなと感じます。ガウガメラの決戦・バビロン入城・インド侵入と象軍団との死闘、というところが大きな見せ場・スペクタクルとなりますが、やはりガウガメラは力の入った入魂のシークエンスで凄いスペクタクルです。個人的にはインドでの戦象との闘いには強烈な印象を受け、象がこんなに恐ろしい兵器になるとは驚きしかありません。初めて英軍のタンクに攻め込まれたWW1のドイツ兵もこんな感じだったんでしょうね。あとアレキサンダーたちが初めて猿と遭遇して(ギリシャには猿はいなかったみたいですね)、人間の言葉を喋らない小人の軍団だと驚くところが面白かったです。書物を読んだだけでは到底実感できないアレキサンダーの偉業も、こうやって映像で見せられるとイメージし易くなるもんですね。 ストーリー展開の背景では、妖しい母親アンジェリーナ・ジョリーの野望が隠し味となっています。まるでフランス革命の理想を語っているようなアレキサンダー=コリン・ファレルはいかにも現代的なのキャラクターですけど、マザコン的・BL的なキャラとしては最適な彼が大王らしいかというと首を捻るところです。あと驚かされたのは、アレキサンダーの死が側近将軍たちの毒殺という解釈が採られているところで、さすが『JFK』でケネディ大統領暗殺陰謀説の教祖となったオリヴァー・ストーンらしいですね。ということは、彼が主張したかったのはアレキサンダーが古代のJFKだったということか? [CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-25 22:54:00) |
4. サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出
《ネタバレ》 州兵と言っても、集められた面々の顔触れや勤務態度はまるで町の消防団みたいな感じです。軍務経験があるのはピーター・コヨーテの軍曹だけで、ほぼ素人集団である九人の分隊(邦題では小隊としているが明らかに間違い)が湿地帯の森に踏み込んでゆく。経験者と言ってもちょっと頼りなさそうだった軍曹が真っ先に射殺され、完全に烏合の衆と化した八人が地図も磁石も持たずに彷徨する羽目に陥ります。いちおう伍長階級の先任者が指揮を執るけど誰も彼の能力を信頼せず、八人は団結せずにいがみ合い勝手な行動に走ります。そして頭がおかしくなった一人はケイジャンの小屋を爆破するといういちばんやってはいけないことをしでかし、ケイジャンたちから一人一人となぶり殺しされてゆく。軍曹が殺されてからの展開は、もう緊張感が半端ないです。捕虜となった一人以外はケイジャンたちの姿をほとんど映さないという演出がまた怖い。 閉幕十五分前にして生き残った二人はトラックに遭遇してケイジャンたちがお祭りをしている集落に連れてゆかれます。実はこの残り十五分のシークエンスがこの映画でもっとも恐ろしいところで、これは私が選ぶ歴代サスペンス映画の恐怖シークエンスでベスト3に入れたいと思います。豚を銃で屠殺したり絞首刑用のロープが持ち込まれたり、恐怖を煽る伏線が見事に張り巡らされています。私にとってはあの結末はちょっと意表を突かれましたが、10年前のニューシネマ全盛時代だったら絶対違う終わり方だったと思いました。 この悲惨極まりない行軍はヴェトナム戦争の戦闘を暗喩しているのでしょう。でも、実は国内にもヴェトナムが在るのだ、というところがこの映画のテーマなんです。日本では未公開だったそうですが、これは観ておいて絶対損はないと思いますよ。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-10-04 20:08:39) |
5. 娼婦ケティ
《ネタバレ》 ポール・ヴァーホーヴェンがハリウッドに行く前にオランダで撮った五本の長編映画の一編です。“娼婦”なんて邦題がついているけど、実は五本の中でいちばん大人しい映画なのかもしれません。ケイティ・ティッペルという女性の自伝小説が原作で、この人はなんとノーベル文学賞の候補になったことがあったそうです。 時は1881年のオランダ、ケティは貧しい労働者の家庭の生まれ。五人姉弟の二女だけど姉はしょうもないアバズレ、アムステルダムで娼婦をして家族を養っています。母親は長女に「もっと稼いで来い!」とハッパをかけるとんでもない鬼母です。雨が降ると家中くるぶしまで浸水、暖を摂る為に家族全員の靴を燃やしたり、ここら辺の貧困描写はヴァーホーヴェンらしく容赦ないです。仕事もクビになりよくあるパターンでケティも娼婦になるのですが、姉の様に娼館勤めではなく街娼(俗に言う立ちんぼってやつです)、しかもヒモよろしく母親が見張っているときます、ほんとに怖―いおばはんです。ところが商売中に知り合った画家のモデルになり、彼を含む三人の男がケティの運命を変えることになります。 結論から言うと後年自伝を書く作家になるぐらいですからハッピーエンドは当然のごとく予想できますが、『マイ・フェア・レディ』のヴァーホーヴェン版になってもおかしくないけど、そう単純な撮り方を彼がするわけないですよね。オランダ時代のヴァーホーヴェンは反権力・左翼的な視点が目立つ撮り方をしていますが、本作でも労働運動や極端な貧富の差などの社会矛盾が前面に出されていて、それに翻弄されながらも逞しく生きるヒロイン像が描かれています。ケティ役はモニク・ヴァン・デ・ヴェン、『ルトガー・ハウアー/危険な愛』では脱ぎまくってとんでもない演技を見せてくれた当時のヴァーホーヴェンのミューズです。本作では脱ぎはしますが比べたら大人しいもので、これは当時彼女と実質的な夫婦関係だった撮影のヤン・デ・ボンに遠慮したみたいです。ルトガー・ハウアーは気障な銀行員というキャラで出演ですけど、彼らしくないなんか可愛らしいルックスでした。 なんか大河小説の抜粋版の映像化というのが印象ですが、ヴァーホーヴェンはプロデューサーの介入が多かったとブツクサ言っていたそうです。それでも音楽なんかに青春もの映画のような雰囲気があったりして、ヴァーホーヴェンらしい味わいがあったのは確かです。 [ビデオ(字幕)] 5点(2020-01-19 22:54:02) |
6. ブラックブック
《ネタバレ》 第二次世界大戦でドイツに占領された国々にはいわゆる“レジスタンス神話”大なり小なり存在しますが、さすがヴァーホーヴェンらしく「神話なんてなかったんだよ!」とオランダ・レジスタンスの内情を赤裸々にさらしてくれます。彼のかつて撮った『女王陛下の戦士』もレジスタンスものでしたが、これも単純な戦争アクションではなくレジスタンスに対するシニカルな視線が印象に残る映画でした。 サスペンスドラマとしてはよく出来ています。観終わって気が付くのは序盤にちりばめられた伏線の多さで、必ずしもストーリー展開に関わった伏線ばかりではなかったけど、実に凝った脚本です。そしてヴァーホーヴェン風味のシモネタ・お下劣ネタは健在で、オランダ時代の盟友脚本家のジェラルド・ソエトマンとのタッグはやはり強烈です。なんせ『ルトガー・ハウアー/危険な愛』を生み出したコンビですからねえ。レジスタンス側もナチ側も出てくるキャラはもうゲスばっかり、ヒロインのラヘルにしたって匿ってくれていた農家に爆弾が命中しても一家の安否は眼中になく、次の隠れ家をどうしようかと悩むだけなので、「おい、おい…」と引いてしまいます。ヒーローもヒロインも癖が強いのがヴァーホーヴェンの映画の特徴なので、まあ理解してあげてください。さんざんナチとやりまくったくせにすぐにカナダ兵とくっついちゃうロニーや、降伏後も連合軍に協力すると称して態度がでかいカウトナー将軍など、すっきりした勧善懲悪とは程遠い結末はいい味出してます。 砲声が近づいてくるラスト・カットでしたが、1956年ということでこれはスエズ動乱の始まりを示唆しているんでしょうね。ラヘルはなんかまだまだ苦労しそうですが、続編を制作してみても面白いかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2018-07-04 21:55:16) |
7. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 一週間・一日・一時間という登場人物三人の時間軸をラストに集約させるという戦争映画では観たことがないストーリーテリングが、いかにもクリストファー・ノーランらしくて斬新でもあります。空や海上の天気は晴れているのにダンケルク海岸は悪天候気味なのは可笑しいなんて、ピント外れのツッコミを入れていた自分でした。ダンケルク撤退の映画というと、自分にはどうしてもジャン=ポール・ベルモンドの『ダンケルク』が刷り込まれているんです。ノーラン版『ダンケルク』のファースト・シーン、ドイツ軍が撒いたビラを拾うところは、完全に1964年版のファースト・シーンへのオマージュになっています。あの映画はフランス軍側の視点で描かれ厭戦感に満ちていました。でも若いと言ってもノーランもやっぱり英国人でして、救助に向かう側の「戦いはこれからが本番だ」というジョンブル魂を前面に押し出しています。考えようによっては、この映画はマイケル・ベイの『パール・ハーバー』みたいな過剰なヒロイズムで撮るという手もあったわけですが、まあ知的なノーランがそんなバカなことする訳もないですけどね。ラスト、やれることはすべてやり尽くして海岸に着陸して捕虜になるトム・ハーディの不屈の面構え、これこそ英国人という感じでした。 戦闘シーンでは、とにかくノーランのスピットファイア愛が凄かったというのが感想です。今までの彼の作風とは違い、CGを使わず実写に拘るという姿勢でしたが、これも良し悪しでしたね。海軍の軍艦になるとさすがに大戦時の実物を撮影に使うのは不可能で、登場する艦艇はもろ現代の軍艦です。せめてこういうところにはCGを使って、第二次大戦の駆逐艦を再現した方が良かったんじゃないでしょうか。 [DVD(字幕)] 7点(2018-03-03 22:04:32)(良:1票) |
8. ムカデ人間3
《ネタバレ》 やるやると聞いていましたが、ほんとにPARTⅢが世に出てしまいました。今回はPARTⅠとPARTⅡのハイター博士とマーチン君という二大変態が満を持して登場ですが、舞台はテキサスかどっかの刑務所で、まったく違うキャラです。なんとトム・シックスまでもが本人役で出演というのはサプライズでしたが、この稀代の変態監督はずっとグラサンをかけっぱなしでしたがなかなか色男風のダンディなので驚きました。北村昭博も登場してますけど、二作目まで出演していたアシュリン・イェニーちゃんはとうとう顔も出さず、それどころか全編通して女優は一人しか出てこないし、それもブリ―・オルソンというポルノ女優と来たもんだ。 そうなんです、確かにディーター・ラーザーの熱演は鬱陶しいけど、いちばんの問題点は男ばっかり出てくるところでしょう。男の囚人ばっかり何百人もつなげてくれてもちっとも嬉しく(?)ないし、そんな画を見せられても面白くもなんともない。それこそ第一作の男女四人のシンプルなムカデ人間の方がはるかにシュールで衝撃でした。数が多けりゃいいってもんじゃないんだよ! [DVD(字幕)] 3点(2016-10-29 22:59:44) |
9. グレート・ウォリアーズ/欲望の剣
《ネタバレ》 ポール・ヴァーホーヴェンを語る上では、やっぱ本作は外せないでしょう。子供のころTV放映を見逃してからずいぶん長いこと観る機会がなかったんですど、カットされたところは当然あったでしょうがよくこんな映画をゴールデンタイムに地上波で放映したもんだと感心してしまいます。 見通して感嘆したのはルトガー・ハウアーのほれぼれするアンチ・ヒーローぶりです。この人はアンチ・ヒーローを演じるためだけにこの世に生を受けたんじゃないかと真剣に考えてしまいます。ハウアーは劇中で掘り出された聖マーチン像を皆が自分に投影するように仕向けたりするずる賢い面も持ち合わせていますが、そのマーチンを手玉に取るのがお姫様ジェニファー・ジェイソン・リーというわけです。この人、登場してからはそれこそ頻繁に脱ぎシーンが続きますけど、とうに二十歳を過ぎているとは思えない幼児体型はその手の趣味がある人にはもう堪らんでしょう。また彼女の表情がまた悪女丸出しなんですよ、もっともこの人はもとからこういう顔つきなんだからしょうがないんですけどね。宴会のシーンでこのお姫様がテーブルの陰でハウアーの股間を挑発するところは、もろ『トム・ジョーンズの華麗な冒険』の有名なシーンのまんまだったので笑ってしまいました。 原題が『肉プラス血(直訳)』というぐらいですから、ヴァーホーヴェン趣味が全開でそのグロさは『スターシップ・トゥルーパーズ』といい勝負してます。でもけっこうセットやらにはおカネがかかっているみたいだし、活躍するかどうかは別にしてわき役たちもキャラが上手くたっています。やっぱこれは傑作ですね。 [DVD(字幕)] 8点(2016-08-27 23:31:04) |
10. 女王陛下の戦士
《ネタバレ》 ヴァーホーヴェン監督の初期オランダでのまあ大作と言える一篇です。ナチ占領下のオランダ・レジスタンス活動を描いていますが、当時の女王まで主要キャラの一人として登場させているので、ヴァーホーヴェンらしいエロや無茶はほとんど見られません。この映画を思いっきり黒くしたのが、後に撮った『ブラック・ブック』というわけです。レジスタンス活動と言っても華々しい活動とはあんまり見られず、仲間内も裏切り者だらけというけっこうお粗末な内情も赤裸々です。でもオランダ人にも親ナチがいっぱいいたという事実に眼をつぶらない姿勢は評価してあげたいです。 原作がある制約も有りますが、ルトガー・ハウアーが全然ヒーローらしさが無いのも印象悪くしている原因ですかね。近眼で射撃もど下手、唯一の作戦も任務を果たせず一人逃げ帰ってくるという情けなさです。まあリアルと言えばそうなんですけど、なんか観終わってフラストレーションが残ってしまいますよ。これも監督があのヴァーホーヴェンだからというからなんでしょうかね。 [DVD(字幕)] 4点(2015-10-17 11:36:30) |
11. ズールー戦争/野望の大陸
《ネタバレ》 ズール戦争の映画と言えば64年製作の『ズール戦争』がポピュラーですが、本作は64年版の前日譚というか前半戦を描いたという位置づけなんでしょうか。『ズール戦争』は40対1の劣勢ながらもズール人を撃退した伝説のロルクズ・ドリフトの戦いを描いた英雄物語ですが、その前日におこったこのイサンドルワナの戦いでは大英帝国軍はほぼ全滅という『遠すぎた橋』どころではない大敗北を喫しています。主演はバート・ランカスター、有能だけど反抗的な軍人を演じたらやはりこの人の右に出る人はいませんね。対する気ぐらいは高いが無能な将軍はピーター・オトゥールでこれもまた適役です。 冒頭のズール族の若い男女たちの群舞(求婚の踊り?)はなんか凄い迫力です。対照的に描かれるのが英国植民地人たちのスノッブぶりで、ヨーロッパでもっとも貴族的だった英国陸軍将校たちの生態も観れて興味深かったです。お話自体は淡々とすすみいつの間にか戦争が始まったという感じです。でも大量のエキストラを動員した戦闘シーンは迫力満点で、ロングショットを多用した撮り方は戦闘の雰囲気を余すところなく伝えてくれます。 ピーター・オトゥールの他はほとんどの出演者が戦死しちゃう悲惨な幕切れですが、全体にあまり盛り上がるところもなく終わってしまったという印象です。この映画は英国じゃなくアメリカ資本で製作されていますが、観る者がベトナム戦争の失敗を重ね合わせることを期待している様な感じがしました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2015-08-01 22:39:24) |
12. ポール・ヴァーホーヴェン/トリック
《ネタバレ》 ポール・ヴァーホーヴェンと言えば、撮影中に拳銃をぶっ放したサミュエル・フラーと同じ様な無茶苦茶な映画監督というイメージがありますが、本作で観る限りは確かに感情表現は過多気味だけど喋っている内容はしごくまっとうかつ知的なので驚きました(まさか演技じゃないでしょうね)。“冒頭4分だけ脚本を書いておき、後は不特定多数の書いた脚本を繋ぎ合わせて映画を撮る”プロジェクトがしたかったなんて、思わず「お前はゴダールかよ」と突っ込みたくなりました。たしかに集合知で映画を撮るなんて斬新過ぎるアイデアではあります。 そして出来上がった映画ですけど、正直言ってこれが面白い、もう大笑いさせて頂きました。50分という中編なんですけど、エロあり、ちょっとグロあり、陰謀あり、そしてどんでん返しありと充実してました。女優たちはいずれも無名ながらちょっとエロい衆を揃えていて、ヴァーホーヴェンってこういうエロっぽい女優を見つけてくるのがほんと上手いな、とつくづく感心しました。でも具体的に脚本を繋いでゆく作業自体は映していないので判りませんけど、ほんとにこんなに上手にストーリーが繋がるもんなんですかね。そこは監督や編集の手腕の賜物なのかもしれませんが、ふとある疑念が自分の心に浮かんできました。実はこのプロジェクト自体がフェイクで、前半のパートは疑似ドキュメンタリ―(いわゆるモキュメンタリー)だという可能性です。映画の題名が“トリック”なのがどうも気になるんです、でもそうだったとしても良く出来たモキュメンタリーであることには違いありませんけど… [DVD(字幕)] 8点(2014-11-28 22:15:17) |
13. 三文オペラ(1989)
《ネタバレ》 クルト・ワイルの有名なオペラの四度目の映画化です。このオペラの下品でアナーキーなところは他の追随を許しませんが、ボビー・ダーリンが唄って50年代に大ヒットさせた『マック・ザ・ナイフ』のメロディーは誰もが一度は耳にしたことがあるのでは。監督はキャノン映画の総帥メナハム・ゴーラン、イスラエルのロジャー・コーマンみたいな人で、ゴダールをして「映画を撮っているマフィア」と言わしめた男です。 “三文オペラ”を観るのはこの映画が初めてですが、映画の流れ自体は原作や過去の作品とほぼ同じみたいです。意外だったのはメナハム・ゴーランが監督という悪イメージを吹き飛ばすようなダイナミックな撮影と豪華なセットです。19世紀ロンドンが舞台ということもありますが馬車のカーチェイスまで有り、これがけっこうな迫力でした。 主役のメッキー・メッサーはラウル・ジュリアで、過去にはローレンス・オリビエも演じたキャラですが、これがまた堂々としてほれぼれさせられます。狂言まわしの辻歌師はロジャー・ダルトリー、この役はセリフが全部歌なんですが、演技させると暴走しがちなロジャーにはちょうどいいんじゃないでしょうか(笑)。 驚いたのはラストの展開で、あわれメッキー・メッサーは絞首刑となった瞬間ロジャー・ダルトリーが登場「やっぱハッピー・エンドじゃなきゃね」とウィンクするといきなり世界が劇場で上演中のオペラに変わるというメタ・フィクショナルな構成、そしてフィナーレへ。うーん、メナハム・ゴーラン、あなどり難し! [ビデオ(字幕)] 7点(2013-12-08 21:20:43) |
14. ムカデ人間2
《ネタバレ》 観通すのがこんなにしんどかった映画、ほんと久しぶりです。それはグロ描写のせいではなくって、もちろんあのチビ・デブのマーチンくんのおかげです。 いろんな疑問が湧いてきます。まず、この人プロの俳優?それとも素人?あの腹の脂肪は自前?それとも特殊メイク? まあどちらにしろ、こんな人間を見つけてきた監督の眼力には素直に脱帽します。このT・シックスという人、単なる変態おバカ監督じゃなくて実は知性は高いけど趣味が悪すぎる、そうM・ハネケみたいな人じゃないかと思えなくもない。一作目はモダン・アートの様な静謐すら感じさせたのに、『エイリアン』や『プレデター』みたいに“続編では群れで画面に出す”というモンスター・ホラーの王道を守ってくれています。一作目で繋がれた女優をどうやって登場させるのかと思ったら、まさかのメタ・フィクションで攻めてくるとは、なかなかやるじゃないですか。きっとあとの二人にもオファーしていたと思うんですよ、でもきっぱりと拒否されちゃったんじゃないかな(笑) もう三作目が世に出ても絶対観ないぞ、と力んでますが、ひとりだけ逃げたあの妊婦が次作に絡むんじゃないかなと気になって仕方ありません。そう言えば本作ではイギリスに舞台を移していますが、次はまさか日本なのかも。 たぶん観ちゃいます… [DVD(字幕)] 3点(2013-02-06 00:22:40) |
15. 4番目の男
《ネタバレ》 ヴァーホーヴェンにしては珍しく宗教色が濃いのですが、この人やはり信心深くないことが逆に良く判ります(笑)。 『氷の微笑』の原型だと良く言われていますけど、“謎の女”がシャロン・ストーンの迫力に足元にも及ばないんじゃ、『氷の微笑』より遥かに映画としての面白さは落ちます。また主人公の作家が、ホモなのはしょうがないとしても、あまりにおバカなのがまたイラつきます。女に手相占いしてやるシーンなんか、脚本からしてアホまる出しじゃないですか。 よく考えると、この映画ニコラス・ローグの『赤い影』に雰囲気が良く似ているんですよ、個人的には「パクったな、ヴァーホーヴェン」と思っています。 [ビデオ(字幕)] 5点(2012-05-31 23:42:13) |
16. ムカデ人間
《ネタバレ》 「人間の本質は、喉から肛門まで繋がった一本の消化管である」というシニカルな定義をむかし読んだことがありましたが、変態ハイター博士にもきっと影響を与えたと私は確信しちゃいました。それにしてもハイター博士、日本のヤクザを先頭に使ったのは大失敗でしたね(笑)。ハイター博士役のディーター・ラーザーという俳優、シャブ中でやせ細った長塚京三みたいでまさに変態の極北です。もっと凄いのはあの二人の女優、自分のキャリアと未来をドブに捨てる女優魂には思わず涙です。ヤクザ役の北村昭博にはすでに「あのムカデ人間先頭の」という形容詞がついてるくらいですから。 はっきり言って、この映画褒めていいのか貶した方がいいのか悩ましいところですが、繋がった三人を真横から捉えたショットは戦慄を覚えるほどシュールで怖い。でもきっと映画館で観たら、みんなと一緒に爆笑しちゃうんだろうな。 次回作では12人を繋げたそうで第三作目もほんとに撮っているかもしれないですけど、何人繫げるのか興味津々です。もし私が監督なら、先頭と末尾も繋げて“ムカデ人間の環”にしたいですね(我ながらバカです)。 [DVD(字幕)] 6点(2012-03-03 21:12:14) |
17. ギャング・オブ・ニューヨーク
《ネタバレ》 冒頭、ディカプリオが父のかたきデイ・ルイスと出会うまでの30分は、スコセッシらしいスピード感溢れるけれんみたっぷりの演出で大いに期待をもたせてくれますが、その後はいけません、ディカプリオがデイ・ルイスに喰われっぱなしです。「これじゃあいかん」とスコセッシもラスト30分では怒涛の急展開を図るけど、如何せんあまりに詰め込み過ぎで二人の宿命の決闘まで尻すぼみに終わってしまいました。あの暴動は「ニューヨーク徴兵暴動」として知られる史実ですが、徴兵される側も黒人をリンチして処刑するなど、とてもじゃないけど我々には感情移入できない連中なので困ります。スコセッシはこの映画の構想に30年かけたそうですが、こねくり過ぎて結局なにが言いたいのか良く判らん映画になってしまいました。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2011-11-07 20:51:54) |
18. 10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス
《ネタバレ》 『イデアの森』よりも馴染みが深い監督の顔ぶれですが、さてどうでしょうか。①カウリスマキ カウリスマキの作風は短編に向いているというか、普通に撮った長編から任意に10分間だけ切り取ったみたいな不思議な感じ。6点②ヴィクトル・エリセ ごめんなさい!今までエリセって聞くと「長―い、眠―い」という一部の世評を聞いて敬遠していましたが、本作を観て打ちのめされました。この詩情あふれる10分はまさに至福です。優れた映画作家は時の流れの質感を自由にコントロールできるんだと初めて知りました。10点③ヘルツォーク この人ほんと辺境ものが好きですねー。テーマはいいんだけど、「これってフェイクだよね?」ってことがずっと気になっちゃってマイナスでした。5点④ジャームッシュ やっぱこの人は短編の名手ですね、トレーラー・ハウスという狭い空間を使って一人の女優を赤裸々に見せてくれます。9点⑤ヴェンダース これも一種のロード・ムーヴィーですよね、とてつもないバッド・トリップですけど。このエピソードが本作中でいちばん濃かったんじゃないでしょうか。可愛いオチもちゃんとあって感心しました。8点⑥スパイク・リー このゴアvsブッシュの大統領選については『リカウント』という長編が詳しいのですが、あの内容を10分でまとめたってのはある意味すごいことです。ただねえ、本作のエピソードとしてふさわしいかと言うと、それはまた別のお話し。『イデアの森』のゴダールといい勝負のやりたい放題でした。5点⑦チェン・カイコー 東洋代表カイコーは怪談風味で勝負ですか。この『聊斎志異』チックなエピソードにラストあのアニメーションを持ってくるセンスは気に入りました。それに“エアー引っ越し”は思わず爆笑でした。7点 それぞれの監督が個性というか得意技を見せてくれて満足できました、平均をとって7点。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-08-08 01:14:48)(良:3票) |
19. 10ミニッツ・オールダー イデアの森
《ネタバレ》 嫌いな監督と知らない監督ばかりでしたが、さて評価は如何に。①ベルトリッチ まさに『ベルトリッチ版“胡蝶の夢”』東洋の昔ばなし風で自分にはいちばん親しみを感じたエピソードです。8点②マイク・フィッギス 本作の中でいちばん斬新なアイデアで撮られていますが、イマイチ自分には合わなかったです。5点③イジー・メンツェル 「顔に歴史あり」というところでしょうか。このピーター・ローレみたいな顔したチェコの老優のことを知っていればまた感慨が深かったんでしょうが。6点④イシュトヴァン・サボー まさに「人生10分先は闇」ですね。技術的に難しかったかもしれませんが、できれば10分間ずっとワンカットで撮って欲しかったところです。6点⑤クレール・ドニ 予想外の駄洒落オチに唖然・呆然。5点⑥フォルカー・シュレンドルフ 「哲学する蚊」を見せられてもねえ。4点⑦マイケル・ラドフォード 10分で判るアインシュタインの相対性理論。悲しきタイム・パラドックスです。7点⑧ゴダール 良くも悪くもゴダール節炸裂、まあ観る前から予想した通りでした。たしかにこんなパワーを持った映画作家はもう現れないかもしれませんね。5点 というわけで、平均をとって四捨五入、評価6点ということで。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-08-07 01:16:33) |
20. ルトガー・ハウアー/危険な愛
《ネタバレ》 ヴァーホーヴェンとルトガー・ハウアーが初めてコンビを組んだ作品ですが、ハウアーがひょっとして出演シーンの半分は全裸か半裸じゃないかと思えるほどの熱演(?)です。ヒッピーのような若い彫刻家ハウアーと良家の娘が出逢い、結婚し、別れ、そして再会して悲しい結末を迎えるある意味純粋なラブストーリーなんですが、そりゃ若いころとはいえヴァーホーヴェンですからエロ・グロ・ヴァイオレンス(+スカトロ)はちょっと文字にするのは憚る様な凄まじさです。ですけど、はっきり言ってわたくしこの映画好きです。ヴァーホーヴェンという人は本作では「性」の陰にいつも「死」をイメージさせることに拘っていますが、下品な表現のオンパレードの中にも普遍的な「青春のやるせなさ」として感じ取ることが出来ました。本作はヴァーホーヴェン作品の中で技術部門以外で唯一オスカーにノミネート(外国語映画賞)された映画です。もちろん受賞してはいませんが、こんなすさまじい作品をノミネートするとは、アカデミー協会も大したものです。 [ビデオ(字幕)] 8点(2011-05-11 21:56:45) |