1. CLOSE/クロース(2022)
《ネタバレ》 13歳になったばかりのレオと近所に住む同い年の少年レミは、子供のころからいつでも一緒にいる大の親友同士。ヒマさえあれば互いの家に行き来し、食事や寝る時も遊ぶ時も親の仕事を手伝う時もいつも一緒、お互いの親同士ももはや家族同然と言ってもいいくらい仲の良い2人だった。レオはアイスホッケー、レミはクラリネット演奏と趣味はまったく違うもののそれでも2人はお互いに応援し合い満たされた日々を過ごしている。きっと僕たちの友情は永遠に続くんだろう。そう信じきっていた。あの日を迎えるまでは――。中学校に入ってクラスメイトから掛けられた何気ない一言、「君たち、実は付き合ってるの?」。その言葉がレオの心を酷く動揺させる。休み時間に素っ気ない態度を取ったり、何も言わずわざと先に帰ったり、レオは何気なくレミと距離を取ろうとするのだった。途端にギクシャクしてゆく2人。納得いかないレミはある日、レオと大喧嘩してしまう。そして、2人の関係はその後、取り返しのつかない事態に陥ってしまうのだった……。とにかく文句なしに映像が美しい作品でした。色とりどりの花が咲き乱れるキレイな花畑をキラキラとした陽光を浴びながら駆けてゆく美しい少年たち……。イエローを基調とした映像のその吸い込まれそうな美しさに、僕は終始目が釘付けでした。主演を務めた2人の少年のもう本当の親友同士なのではとも思える等身大の魅力も素晴らしい。監督の豊かな色彩感覚と詩情溢れる映像センス、繊細で気品に満ちた音楽も相俟って、この世界に永遠に浸っていたいとさえ思えてくる。ただ、物語はそれとは真逆のとても哀しい顛末を辿ります。思春期特有の誰もが体験したであろう些細な行き違いと喧嘩。結果、それが最悪の悲劇を招いてしまう。誰が悪いわけでもない。でも、レオはまだ経験しなくてもいいような心の負荷を負わされ、互いの家族を巻き込んでどんどんと追い詰められてゆく。正直、観ればみるほど気分が沈んでゆくお話なのですが、主人公をはじめとするこの家族たちのひたむきさに心打たれます。特に、圧倒的な悲劇を体験しながらそれでも前向きに生きようとするレミのお母さんの凛とした佇まいに、僕は思わず涙してしまいました。誰の気持ちも痛いほど分かる丁寧で繊細な心理描写、そんな中でこの監督の人に対する暖かな視線が光ります。映画としてもう少しドラマティックな展開があればなお良かったとも思いますが、それは好みの問題なのでしょう。思春期に誰もが経験する切ない思いを瑞々しく切り取った、まるで宝石のように美しい物語でした。 [DVD(字幕)] 7点(2024-09-27 09:08:03) |
2. ベネデッタ
《ネタバレ》 ペストの脅威にさらされる17世紀イタリアのとある修道院を舞台に、聖痕を受け聖者とされたある一人の修道女ベネデッタの数奇な運命を赤裸々に描いた歴史サスペンス。監督はそのどぎついエログロ描写で常にスキャンダラスな話題を振りまいてきた巨匠ポール・バーホーベン。と言う訳で、長年彼の大ファンである自分としては、けっこう期待して今回鑑賞。そんな僕の高まった期待をまったく裏切らない完成度の高い作品でしたね、これ。主人公ベネデッタはこの時代には最大のタブーとされていた、いわゆるレズビアン。そんな彼女がお気にの侍女を自らの寝室に囲んで夜な夜な破廉恥行為に耽るなんて、もはや日活ロマンポルノ(古い!)のノリ。母親から貰った木彫りの聖母マリア像の下半身を削って、震えないバ〇ブにしちゃうとかどんな発想やねん(笑)。夢に現れた磔のイエス様と裸と裸で身体を合わせちゃうなんて不謹慎にもほどがある!でも、そんなかなりお下劣一歩手前?な内容なのに、それでもちゃんと芸術作品として成立しているのが凄い。とにかく画がどれもキレイでお話の展開にも一切無駄がなく、なにより物語として明確な主題が首尾一貫して通っているのが素晴らしいですね。これは、キリスト教的倫理観でがんじがらめに縛られた窮屈な時代に、自由に生きようと願いそして実行したある少女の物語。聖痕が全て彼女の自作自演であったのかや、宗教的な葛藤、そして最愛の人バルトロメアとの愛と嫉妬と欲望が渦巻く関係性など、観終わった後にいろいろと考察したくなるところなどなかなか深い。カトリック教会上層部や地元有力者などに振り回される修道院長や、いかにも俗物でございと言わんばかりのローマ教皇大使など印象的な人物が多く登場するのもこの作品の魅力の一つ。最後、なにもかもを捨てて街を飛び出した2人が素っ裸で燃え上がる街並みを見上げるシーンなど、エロを通り越して神々しくさえありました。そして2人が下したそれぞれの決断……。歴史の巨大なうねりの中で必死に自分らしく生きようともがいたある女性の生涯を、極めて変態チックに描いたポール・バーホーベンの秀作でありました。 [DVD(字幕)] 8点(2024-03-23 10:17:19) |
3. アンネ・フランクと旅する日記
《ネタバレ》 『アンネの日記』――。それは第二次大戦中、ナチスによるユダヤ人迫害から逃れ、アムステルダムの小さな一軒家に家族と隠れ住んでいた一人の少女によって書き綴られた日記だ。作者であるアンネ・フランクという名の少女はその後、謎の密告者の裏切りによってアウシュビッツへと送られ、そこで15年という短い生涯を閉じることになる。彼女の死後に発見された日記はその後、出版。そのユーモアを交えた瑞々しい筆致や鋭い人間観察眼、思春期を迎えたばかりの少女の不安や戸惑い、暗い時代にあっても常に希望を失わない彼女の強さは多くの人々の感動を呼び、世界各国でベストセラーとなる。そして現代、ホロコーストの悲惨さを現代に伝える歴史的名著としてユネスコの世界記憶遺産に登録されるまでになった。本作は、その『アンネの日記』で彼女の架空の友達として呼びかけられるキティーが現代のアムステルダムによみがえったらという驚くべき着想で描かれたファンタジックなアニメーション。監督は、パレスチナ紛争を題材にした政治的主張の強い『戦場でワルツを』というアニメでデビューを飾ったアリ・フォルマン。『アンネの日記』は昔読んで、そのキラキラとした才能の塊のような文才に感銘を受けると同時に、もし生きてちゃんとした小説を書いていたらきっと世界的大作家となっていただろうと思うと改めて怒りと切なさに打ち震えるような感情を抱いた思い出の一冊。なので今回期待して鑑賞してみた。この監督らしい独自の画のタッチに最初は戸惑うものの、空想上の存在であるキティーが日記のインクから現実世界へと降り立つファンタジックな描写に惹き込まれる。その後、まるで中世ファンタジーに現れる悪の軍勢のようなナチスドイツや彼らに立ち向かってゆく英雄たちがアンネの愛した映画スターたちという発想はオリジナリティ抜群で、アニメ作家としてのこの監督の面目躍如といったところだろう。ただ、それに対してお話の方は僕は疑問に思わざるを得ないものだった。空想上の存在であるはずのキティーが現代によみがえって?作者であるアンネを捜すというこの設定がいまいち腑に落ちない。こういう荒唐無稽なお話こそより細部の設定を細かく詰めるべきなのに、本作はそこが非常に甘いのだ。なので全体的にフワフワとした捉えどころのない作品となってしまっている。また、アンネの足跡を追って遥か異国の地まで旅していたキティーが後半、何故か現代の難民を救うために尽力する展開となるのも強引さが否めない。もう少し脚本を練るべきだった。ホロコーストの悲惨さを現代に伝える歴史的アイコンとしてもはや象徴的存在となってしまったアンネ・フランクの、その人間的側面に脚光を当てようとする試みは好感が持てるだけに残念だ。余談だが、本作を観終わって本棚の奥に眠ったままだった『アンネの日記』を久々に手に取ってみた。まるで今もどこかでこの現代を見つめているかのような生き生きとした彼女の文章に改めて感動の念を抱いたことをここに記しておこう。 [DVD(字幕)] 5点(2023-07-31 08:09:48) |
4. アイダよ、何処へ?
《ネタバレ》 1995年、冷戦終結により勃発した民族紛争が泥沼化していたボスニア・ヘルツェゴビナ。ムスリム勢力の町スレブレニツァはセルビア側の激しい攻撃の末、とうとう陥落してしまう。2万5千人におよぶ町の住民たちはたちまち難民化、安全を求めて国連平和維持軍が駐留していた基地へと一斉に雪崩れ込んでくる。当初は住民たちを受け入れていた国連側も余りの数の多さに途中で受け入れを拒否。結果、基地の周りには行き場を失くした町の住民たちが大勢なす術もなく立ち尽くすことに――。国連の通訳として働く元高校教師アイダは、そんな難民の中に自分の家族も含まれていることを知るのだった。夫と2人の息子だけでも基地に入れてほしいと上官に懇願するアイダ。だが、更なる混乱を恐れた上官は彼女の要望を拒否する。到底納得できないアイダは、何とかして家族を安全な基地内に引き入れようと画策するのだが、さまざまな手続きの壁に阻まれどうにもうまくいかない。そんな折、セルビア側の司令官ムラディッチ将軍から住民を安全な場所に移動させるので速やかに引き渡せとの要請が国連側に届く。何か信用できないものを感じたアイダは、家族とともに逃げようとするのだが……。デビュー以来、一貫してボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争を題材とした映画を撮り続けるヤスミラ・ジュバニッチ監督の最新作は、そんな過酷な運命に翻弄される一人の女性を通して戦争の不条理を冷徹に見つめたヒューマン・ドラマでした。この監督の作品は今回初めて観ましたが、全体を覆うひりひりするような緊張感がとにかく真に迫っておりました。この時代、この地で実際に撮られたドキュメンタリー映画なんじゃないかと思えるくらい。そんな中、ただ家族を救いたいがために奔走する主人公。国連にたまたま通訳として現地採用されたというだけで、軍人でも実力者でもない単なる一市民のエイダに出来ることなんてたかが知れている。それでも愛する子供たちをなんとしても救おうと駆けずり回る彼女には胸が締め付けられる思いでした。でも、そんな過酷な現実は彼女だけのものではなく、ここに押し寄せた2万5千人の全ての人々にそれぞれの事情がある。そう思うとやはりやり切れない思いにさせられます。みんな普通に生活していただけなのに。そして最後に辿り着く悲惨な現実――。戦争の愚かさをこれ以上ないくらい痛感させられてしまいます。過去を乗り越え、気丈に振る舞っていたエイダがそれでも最後に辿り着いた場で泣き崩れてしまった姿に自分も思わず涙してしまいました。最後に表示される、「スレブレニツァの女性たちと殺害された8372名の息子・父・夫・兄弟・いとこ・隣人に捧ぐ」というテロップが重い。ただただ最後、彼女が育てた教え子たちがいつまでも平和に過ごせることを祈るばかり。人間の愚かさと悲哀を鋭く捉えたなかなかの秀作と言っていい。 [DVD(字幕)] 8点(2023-02-10 08:33:06) |
5. アナザーラウンド
《ネタバレ》 「血中のアルコール濃度を常に0.05%に保つと生活や仕事の効率が高まる」という説を実際に実行した4人の男たちの顛末をほろ苦いユーモアを交えて描いたヒューマンドラマ。この監督の前作『偽りなき者』が印象深かったのとアカデミー外国語映画賞に輝いたということで今回鑑賞してみました。確かに、こんな地味な登場人物たちが織りなす地味な物語でテーマだって地味なのに最後まで淡々と見せ切る演出は巧み。マッツ・ミケルセン演じる主人公が酒の力を借りて次第に生きる活力を取り戻してゆく姿はリアリティ抜群で、彼が調子に乗ってどんどんと酒の量を増やしてゆくところはアルコール中毒者の生成過程を見ているようでひやひやさせられちゃいますね。ただ、観終わってこの作品の描きたかったテーマが「お酒は楽しく適量を」くらいしか伝わってこず、自分はそこまで得るものはなかったです。 [DVD(字幕)] 6点(2023-01-27 11:07:43) |
6. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 第二次大戦初期にフランスのダンケルク地方で起こった攻防戦を緊迫感溢れる映像で描いた戦争映画。大好きなクリストファー・ノーラン監督の最新作ということでけっこう期待して鑑賞してみました。なんですけど、うーん、僕はなんかいまいち嵌まらなかったですね、これ。時間軸をバラバラにしたタイムリミットが最後、一つに収斂するというノーランお得意の演出がそれほどうまく機能しているとは思えませんでした。映像は相変わらずシャープで迫力があったんですけどね。 [DVD(字幕)] 5点(2018-05-29 20:57:08) |
7. ロブスター
《ネタバレ》 奇妙な物語である。舞台は深い森に囲まれた一軒の豪華なホテル。見るからに冴えない中年太りした男がこのホテルへとやって来たことから物語は始まる。男の手にはリードに繋がれた一匹の犬、彼の説明によるとこの犬はかつて人間でどうやら自分の兄であったという。一見頭のおかしな男なのかと思いきや、彼を迎え入れたホテルの女性支配人から驚くべき事実が告げられる。このホテルにはパートナーの居ない独身の男女が多数集められており、45日以内に相手のパートナーを見つけ相思相愛にならなければいけないらしい。しかも、もし見つけられず独り身のまま期限を迎えてしまうと、その人物は動物にされてしまうというのだ。そう、彼の兄もかつてこのホテルへとパートナー探しに訪れたものの失敗し犬に変えられてしまったのだ。戸惑いつつも男は一匹の犬と幾多の独身男女と共に共同生活を始める。ホテルを取り囲む森には愛を否定する反体制派が跋扈し、男を含む収容者たちは毎日猟銃で反逆者狩りを続けながら来る日も来る日もパートナー探しにいそしむのだった。ただ無気力に日々をやり過ごす男の唯一の希望は、自分がもしパートナーを見つけられなければ一匹のロブスターに変えてもらいたいというものだった――。特異な状況に置かれた男女の葛藤の日々を乾いたユーモアを交えて描いたシュルレアリスム劇。コリン・ファレルやレイチェル・ワイズ、ジョン・C・ライリーという豪華な役者陣共演ということで今回鑑賞してみました。この作品のポイントは、この独特のシュールな世界観を独創的と捉えるか、それとも監督の単なる独り善がりと捉えるかによって大きく評価が分かれるだろうというところでしょうね。僕はぎりぎり後者です。ユーモアとシュールさ、そして意地の悪いシニカルさでもって観客を煙に巻くこの監督の絶妙な匙加減は嵌まる人にはたまらないと思います。が、僕のような嵌まらなかった人間にとっては苦痛以外の何者でもありませんでした。ひたすら退屈。とにかく頑張って最後まで観ましたが、後に残ったのは極度の疲労感のみ。この分かったような分からないような大人のための寓話、興味のある人はまあ一度観てやってください。僕はもういいです(笑)。 [DVD(字幕)] 4点(2017-04-08 22:06:23) |
8. 奇跡の海
《ネタバレ》 僕の思想信条に多大な影響を与えたと言っても過言ではない傑作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を撮った、暗黒の虚空に燦然と輝く天才映画作家ラース・フォン・トリアーによる哀切極まりない人間ドラマ。そんな本作を語る前にあらためて「ダンサー~」で描かれたテーマについて述べたいと思う。それは結局人間の幸せは全て相対的なものでしかなく、自分がいま幸せかどうか、自分の存在に本当に価値があるのかどうかを判断するのは最終的には自分の主観でしかないということだ。もしそんな自分の主観では到底受け入れられないような不幸な境遇に追い込まれたり、あるいは自分の幸せを守るために取り返しのつかない罪を犯しそうになったとき、人の心は果たしてどのようにその危機を回避しようとするのか?きっと、自分以外の第三者によって自分の挫けそうな心を補強してもらいたいと願うはず。そう、その第三者こそが〝神〟に他ならない。ではもしこの世に神が居なければ、この残酷な出来事で溢れ返る醜い世界で、人はどのようにして生きていけばよいのか。また、キリストの如き真の心優しき人間は最終的には人々の悪意によって十字架に掛けられ襤褸布のように死んでゆくしか道がないのではないか?ドストエフスキーが「白痴」などの大作群で追求したそんな深甚なるテーマを、トリアーは映画という手法でもって現代に受け継いでいる。「ダンサー~」では、神を持たなかった女の悲劇を追及していたが、本作の主人公ベスは見れば分かるとおり、冒頭からはっきり神へと縋り付いている。セルマもベスも宗教的に言えばどちらも〝聖なる愚者〟。だが、トリアーはこの世に神など居ないということを、ベスが完全なる善意でもって売春婦となる過程でつぶさに炙り出してゆく。〝神〟とは人間が造り出した生きる為の、そして数々の罪から目を逸らす為の理由付けに他ならないとでも言わんばかりに。そんな残酷な現実を突きつけながらも、トリアーは最後に鳴り響く鐘の音に「それでも人間は生きるために神へと縋りつくしかない」という人間本来の普遍的な切なさをぎりぎりのところで肯定している。「この世に神が居ないなら、どうして人は自殺しないで生きていけるのですか?」これはドストエフスキーの「悪霊」の中の言葉だが、本作にはそれへの答えが――完璧ではないにせよ――提示されている。その後、トリアーは「ダンサー~」を撮ることでその思想を根底から覆してしまうのだが…。正直、「ダンサー~」が僕に与えた影響があまりにも大き過ぎて、その姉妹編とも言える本作を観ることでその影響に揺るぎが生じるのではないかと懸念し、今まで鑑賞してこなかったのだが、それは僕の杞憂に過ぎなかった。こちらも人間の愚かさと美しさを冷徹に見つめた傑作と言っていい。 [DVD(字幕)] 9点(2015-03-14 22:02:26) |
9. ポール・ヴァーホーヴェン/トリック
《ネタバレ》 大企業の社長を務めるレムコは、50歳になった記念に自宅で誕生パーティーを開くことに。様々な人々が集い和気藹々とパーティーが進行する中、急に彼の愛人と思しき妊娠中の若い女性が現れる。戸惑うレムコ、心の平穏を掻き乱される彼の妻、引きこもりでオタクの長男、素行不良のすれた長女、そして長女の親友で長男の気持ちを翻弄する美しい女性メレル。一見平穏に見える彼らのパーティーはそんな愛人の出現により、不穏な空気がまるでさざなみのように拡がってゆく――。実は本作、撮影が開始された時点ではこの4分間の冒頭部のみしか脚本は書かれていません。何故ならこれ、その後の展開は視聴者から公募しその中から厳選されたものを基に紡がれた作品だから――。これまで様々な物議を醸してきたバーホーベン監督が、新たに創出したのはそんな挑戦的な手法で撮られた実験作でありました。まず一言言っておきたい、「前振りがなげーよ!」。本編が始まるまで、その企画意図が監督のインタビューによって解説されるのですが、これが30分以上ある。確かに興味深い内容ではあるのだけど、「とっとと本編に移行しろよ~」と僕はちょっぴりイライラしちゃいました(笑)。とはいえ、ようやく始まった本編なのですが、これがいかにも彼らしいエロとグロが絶妙の按配で配合されたシニカルなホームコメディの逸品へと仕上がっており、さすがの貫禄でしたね。特に、男どもをその美貌で惑わすメレル役の女優さんがとてもサキュバス的な魅力に満ち溢れていて、えがったっす。妖艶な悪女を撮らせたら、やはりこの監督って感じですね!肝心の撮影手法ですが、俳優陣が撮影が始まった時点で自分の演じるキャラがどんな人物なのか分からないというのは裏を考えながら見るとこれがなかなか面白い!メレル役の彼女なんか、「え、私ってこんな役やったん?」とびっくりしたでしょうね。他にも「俺、こいつと愛人関係なんか~」とか「私、悪役なん…」とかいろいろ戸惑いながらも、次第に役に入っていく俳優たちの仕事ぶりは見ていてけっこう楽しい。なんだか良質のインプロ(即興)劇を観ているようでした。まあ、確かにこれが監督の壮大なるフェイクだという可能性も捨てきれないけれどね。でも、それも含めて知的好奇心を刺激する大人の娯楽作品であったと思います。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2015-01-16 13:21:46)(良:1票) |
10. ブラックブック
《ネタバレ》 あの変態映画監督が第二次大戦時のヨーロッパを舞台に、歴史に翻弄されるある一人の女性の運命を真面目に撮ったと聞いて幾分かびっくりしながら観たのだけど、ちゃんと見応えのある歴史ドラマに仕上がっていて一安心。次々と襲いくる理不尽な現実に「悲しみに終わりはないの!」と叫ぶ主人公の悲哀が胸を打つ。でも、やっぱり変態監督だから、物語にほとんど必要ないようなあの男どもの汚物を主人公の頭からぶっかけるシーンの力の入れ方はさすがですね(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2013-04-29 23:05:49) |
11. アレキサンダー
《ネタバレ》 オリヴァー・ストーンが初めて撮った歴史活劇。でも、そこはやはりストーン監督、とにかく暑苦しい演出でしかもがっつりと長い。でも、別に僕は嫌いじゃなかった。アレキサンダー大王の栄光と挫折が、これでもかというくどい演出で壮麗に描かれていく。自分としては、なかなか見応えがあったと思う。 [DVD(字幕)] 6点(2012-05-27 23:09:39) |
12. ダンサー・イン・ザ・ダーク
《ネタバレ》 この映画がどうしてこんなにも人の心を掻き乱し、賛否両論分かれるのか。何度も何度も繰り返し観て(よく自殺しなかったな笑)なんとか自分なりに結論を得ました。この映画は踏み越えてしまっているんです。つまり、主人公セルマは頭のおかしい気の狂ってしまった人間なんです。だから、間違った選択を繰り返し、誰の助けも借りず、最後は息子のためにと幸せに死んでいく。この主人公に「やっぱりお前は馬鹿だ、不幸だ」と誰が言える権利があるでしょうか。そう、この映画のテーマはそこです。人間の幸せは主観的なものであるなら、自分を幸せだと強固に信じる人間を誰も非難できない。つまり、もしかしたら全ての人間の幸せに意味などないのでは、ということです。とても恐ろしい踏み越えてしまったテーマです。この映画が、敢えてその恐ろしい問いに挑戦する武器として、想像力の美しさを選んだことに敬服せざるを得ません。ただ、勝利できたかどうかは観る人の判断ですが。そして、この映画を徹底的に非難するレビューにこそ、僕は感動を覚えます。そこには、全ての人間の幸せには意味があると信じようとする力強さを感じるからです。それこそが人間の想像力の持つ美しさだと思います。敢えて踏み越えてまで、この映画を撮った監督に改めて敬意を表したい。 [DVD(字幕)] 10点(2012-05-14 02:27:21)(良:2票) |