1. 牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件(188分版)
《ネタバレ》 幸運なことに、最初の公開後しばらくして名画座で鑑賞しました。ただ、まだ若かった私は、まだこの映画のよさを十分に堪能できず、まったりした退屈な映画という印象でした。で、昨年のリマスター版再公開後、久々に再見。本当は映画館で観たかったが時間がとれず、結局は真っ暗にした部屋で大画面テレビで鑑賞。今回は、全く違った経験でした。国際政治に翻弄される戦後台湾の時代背景、外省人という主人公家族の立場、先が見えない大人の世界の不安さを体現した学校内の人間関係など、退屈だと思った画面の数々が濃厚な緊張関係に包まれていて、4時間の長尺なのにまったくダレることはない。台詞などでは明示されないけれど、日本刀や写真が描く日本植民地支配の名残り、反中国共産党の名のもとの過剰なまでの抑圧、プレスリーと音楽が体現する「自由の国」への憧れ(でもその「自由の国」がその後、この国を追い詰めるわけだが)など、なんてことない不良少年たちとその家族の日常にちりばめた時代の痕跡が、この映画が描く「歴史」を雄弁に物語る。視覚的にもとにかく凝った構図が満載で、暗闇から突然現れる光とそこに照らされる限定された世界が、この映画が描く社会そのものを象徴しているかのよう。技術的なことはよくわからないけど、冒頭の教師と父親の会話シーンから、背景と人物の配置が印象的な場面が続き、映画が持つ手法をこれでもかと詰め込まれている。そして、そこに描かれる青春の淡い物語は、実はとってもビター。あのブラスバンドの演奏のさなかの告白シーンなんて、おっさんの涙とノスタルジーを誘うには十分過ぎるのに、その後の展開は、問題だらけの時代と家族を懸命に生きようとする主人公をどこまでも打ちのめす。でも、本作の魅力は、単なるバッドエンドもので括れないところ。賛美歌を歌いながら涙する姉、リトルプレスリーからの手紙、「唯一の友」を失って涙するお坊ちゃんの姿からは、主人公が「生きた」証を感じることができる。そして、冒頭と同じ大学合格者の名前を淡々とラジオが読み上げるラストは、何も変わっていないのに、どうしようもないと思っていた世界も「変わる」のかもしれないという一抹の光のような、不思議な余韻を残してくれます。ぜひ1日休みができた日に、ゆっくりとこの「映画」そのものを体現したような作品を味わってほしいと思います。 [DVD(字幕)] 10点(2018-01-23 15:02:37) |