1. オーケストラ!
《ネタバレ》 映画が紙の媒体と決定的に違うのは音を伝えられる、ということ。クライマックスの演奏会は圧倒的。音楽の凄みに何度観ても泣く。アンヌ・マリーが(額に怒マークをはりつけて)ソロパートを奏でるその音色が金色の一筋となってするすると天上に昇ってゆく。彼女の音に叱咤され鼓舞されて、ダメ団員たちの音楽家魂に火がついてついには太く力強い音の奔流になってほとばしる、この瞬間は肌が粟立つほど。N・キンスキーの再来と見紛うような、神々しいまでのM・ロランの立ち姿と合わせて永久保存したい位の美しい舞台だった。前半から中盤にかけての、すったもんだな喜劇っぷりも好き。ネタは定石なれど、団員フルばっくれは予想できなかったなー。旧共産党の栄光の残滓もなにやら切なく、圧政のもと起こった悲劇も織り交ぜて話に奥行きも持たせている。笑って、やきもきして、戦慄して、うっとりして、泣いた。感情のほぼ八割方を喚起させられたこの映画、私にとっては満点。 [DVD(字幕)] 10点(2011-09-28 00:25:50)(良:1票) |
2. 女は二度決断する
《ネタバレ》 震えながら観ました。D・クルーガーの放つ凄まじい絶望感に。あまりに理不尽な展開に。ラストを見届けた後も震えが止まりません。 あのエンディングをどう思うか、色々なサイトでは是の人もいれば非の人も見受けられます。 痛いほどに思うのは、暴力は人の心を粉砕してしまうのだということ。D・クルーガーが演じるカティヤの真っ暗な瞳。以前は仲良かった友人のめでたい出産も、我が子をあやす友の幸福が逆にナイフとなってカティヤに刺さる場面は、二人の対比があまりに残酷でありました。まるで死者のように感情を失った顔のクルーガーの演技は辛くて見ていられないほどです。 復讐だけをよすがに日々息をしている彼女。犯人逮捕の一報で復讐の糸筋が見えたことで、彼女は戻ってきたのに。 連中だけを死なすこともできたのです。一度はそうしようとしたのです。だけどカティヤの心は修復不可能なほどに、希望を持てない死に体になっていたのでしょう。戦友である弁護士の上訴の勧めにも背を向け、再びやってきた生理にも新しい家族の可能性という希望などもはや抱けずあの決断をしたのだと思うと、私は「時が癒すからがんばろう」とは軽々に彼女に言えないのです。 傷だらけのカティヤをさらに鞭打った被告側の弁護人のことは一生許しません。許しませんとも。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-11-22 23:57:34) |
3. おとなのけんか
《ネタバレ》 こりゃもう、子育て経験ある人ならば、さらに子供同士のいざこざに親もろとも巻き込まれたことのある人ならば思わず膝を打つ、リアリティ炸裂コメディ。序盤の空々しい空気感やら、互いの物言いにカチッとくるイライラ感といい、“子育てあるある”満載の滑り出し。いやあひとごとじゃございません。事態がヒートアップするにつれ、2対2でなく、4人各人の個人戦の様相に(笑)。観てるこっちもいらっとさせる弁護士のケータイ業務連絡に、場を脱力させるゆるーいバアちゃんの横入りTELといい、脇もいい味出してきます。なんつったってエンドロール流れるラストシーン最高。ハムちゃん元気やん。子供らに至っては仲直ってるやんか~ ああ大人どものまぬけが際立つことよ。しれっと遠景でさりげなくみせちゃって、ポランスキーこんなにやるとは思わなかったな。 [DVD(字幕)] 8点(2012-08-15 17:42:12)(良:2票) |
4. 大人は判ってくれない
《ネタバレ》 アントワーヌ・ドワネル。13歳の彼が、どーん、と胸に飛び込んできた。彼の弁護に是非立たせてもらいたい。さらさら流れる音楽と、瑞々しい映像に紛れそうになるけど、この話はなんて残酷なんだ。ドワネル、私に言わせればこの子はひとつも悪くない。サボリに家出、他愛のない嘘。生活のためにお金が必要、てんで安易な窃盗。こんなの単なる少年のおイタじゃないか。あんな母親がいる家、私だって帰りたくない。望まなかった子供、遊びたい自分。気まぐれにごほうびをあげれば良い成績をとってくると思ってる。こ、こいつ・・。母親の化粧台を触るドワネル、家の手伝いをするドワネル、家族で映画に行って幸せそうなドワネル。思い出すと泣けてくる。ラストシーンの、生命力の強そうな瞳が救い。親、大人、教師たち。解り合えない者たち。10代の胸の疼きが、今になっても蘇る。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-02-17 18:27:52) |
5. 桜桃の味
《ネタバレ》 キアロスタミ監督が好んでいた「演者が素人」というのがとても良い目となって出た作品ですね。人生に詰んだ(と自分では思っている)おじさんの一日を描いているのですが、役者オーラの無い人たちばかりで展開される訥々とした話はスペクタクルでなくどんでん返しもなく、ほんとに市井のザ・日常であります。 死ぬのを見届けてくれと言われたら我々は、さあどういう言葉を彼にかけるか。若い兵士は逃げ出すし、神学生はその道のセミプロならではの説得をする。けどやはり人生の大先輩の三人目のじいちゃんが良いですよね。頼みを引き受けたうえで、人生で得てきた気持ちを素朴な言葉に変換して伝えます。「もう月を見なくて良いのかい?桜桃の味を忘れてしまうのかい?」「明日の朝会えても会えなくても友達だ」ただの紙袋を下げた(中にはウズラ)じいちゃんの、同胞としての言葉には静かだけれど耳を貸してしまう力がありました。 そして監督ったら「という、お話。」と突然こっち側に引き戻すのですね。驚いた。あのおじさんがフィクションの中で結局どうしたか、各自が想像する余白がごっそり残りました。私はね、翌朝せっせと穴を埋め戻している彼を確信しています。「死ぬ気」メーターが元々半分くらいだったのが、作中どんどん減ってましたもん。あそこで横たわるには雨だって冷たいしね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-04-12 23:49:43) |
6. 落穂拾い
《ネタバレ》 現代の落穂は市場で売れ残った食材の数々、廃棄された‶傷んでない”食べ物。それらを拾う人々を追いながら、でもサステナブル社会への転換を声高に主張するわけでもない筆致。アートなセンスを強く感じさせる散文詩のような作品で、訴えもふわっとしています。 時折ふっと挿入されるのは名画だったり自分の手だったり。トラックの車列を追い抜いたり抜かれたりするシーンは普通のドキュメンタリーなら不要としてカットされるでしょう。 「社会」の実相を描いたジャンルのものでは米映画の‟ノマドランド”的な描き方の方が分かり易く、ストレートに響きましたが。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-11-21 23:14:04) |
7. オール・アバウト・マイ・マザー
《ネタバレ》 女性賛歌と評価されているようで。確かに登場人物は女(または自覚が女)ばかりだけど、女だから頑張ってる、というよりこのシチュエーションでは誰だって一生懸命生きるんじゃないのかな。 タイトルが「母について」なのもちょっとどうかな。母親であるというアイデンティティはマヌエラの行動や生活にさして影響していないみたいだったけど。「お母さん」のあり方がどう描かれるのかと期待して観たから、その点は予想と全然違う話でした。 ボランティアで世話してる女装男の子を孕むシスターとか、同性の付き人との恋情に悩む舞台女優だとか、この監督ならではのぶっとんだキャラばかりで共感もなにもただただひえ~っと眺めるばかりでありました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-06-20 21:51:40) |
8. オルランド
《ネタバレ》 すごーくヘンな映画だった、という印象が強くて。長々400年生き続けて男であり女であり、こんな人生ぞっとしないなあと思うんだけどこの主人公は実に淡々と人生を受け入れてゆく。娘さんにふられては嘆きの詩に逃避、外交官となって派遣された先では戦争勃発、女になってからはじいさんに言い寄られるしとこちらがぽかんとしてる間に事件は盛りだくさんでしたがあくまで飄々としてる彼(彼女)なのだった。シュール。時代が移るにつれて衣装が変わるのが観ていて楽しい。絢爛豪華できらきら、品もあります。 [地上波(吹替)] 6点(2012-10-26 00:08:37) |
9. 男と女(1966)
夕陽に照らされた街並み 波打ち際に犬 男に駆け寄る女と子供 そして音楽とアヌーク・エーメ。麗しさに心をゆだねて観賞しましょう。話が凡庸とか男がけっこうちゃっかりしてるなーとか脇に置きましょう。66年当時で、このお洒落感。フランス文化の貫禄すら感じてしまった。アヌーク・エーメのコート素敵だなあ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-12-10 01:10:27) |
10. 女の都
《ネタバレ》 うーん阿呆らしいというか大金かけてこんな映画を撮るフェリーニ、「私は映画だ」っと言い切って威厳ある顔で撮ったのがコレ?・・と笑いたくもなったり。好きだなあ。カサノバの如き主人の屋敷で無数の女たちの写真とボタンで遊ぶマルチェロのくだりでは、たけしの映画を連想してしまった。おっかない女たちに小突かれっぱなしのマルチェロが可哀想で、でも懲りないとこが可愛いのでプラス1点。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2012-11-15 00:42:33) |