1. ヘヴン
山ほどいる教師の中でもとりわけ愛情深い教師であり妻でもあった人の必然と、全く理屈の介在しない愛情を秘めた人(父親の慈しみの賜でもある)の必然とが作り出した映像として、受け取りました.やはり A. ミンゲラが総指揮を執っていた、と思える映像の美意識がとてもとてもとても好きです. G. リビシの静かな揺るがない眼差しが C. ブランシェットの絶望をぴたりと凝視していて、今でも残像として残っています. 作り手が心を込めて作り出した映画だと思う. 9点(2004-05-05 11:10:53) |
2. ルートヴィヒ(1972)
この作品の製作途上で既に財政的にも体力的にも行き詰まっていたことを感じさせない、ヴィスコンティの執念が伝わる作品.併せて、H. バーガーという役者がいなければ撮れなかった映画だとも思う.一国を統治する王の待つべき資質にヴィッテルスバッハ一族の芸術気質が最も必要でなかったという悲劇.王たる資質に悉く欠けていることを真摯な部下に“義務無くして幸福があろうか.”という言葉で語らせ、またそれを聞くことをあえて拒否しないルードウィヒの哀しさ.対して、R. シュナイダー演ずる同じ一族でも最も気質が似ていたと云われるシシイを、翳りのみえない人物にしてしまったことに違和感を感じてしまった.ルードウィヒの唯一の理解者ともいえるシシイもまた、ハプスブルグ家とのあまりの確執から自分を持て余し、皇妃という身分から逃避し続けた人なのであるから.そして階級と時代が違っていたなら、双方とも優れた才能を存分に発揮できたであろう人物であったと思う. 8点(2003-09-15 17:53:03)(良:1票) |
3. 家族の肖像
もう20年ぐらい前に観ました(笑).日本の生活からは考えられないような重厚な屋敷と、退廃(公爵婦人の黒く隈取りしたアイ・メイクが強烈)と暗く立ちこめる死のイメージとがくっきりと記憶に刻まれています.果てしなく無節制な闖入者たちと、人との接触に背を向けて生きてきた老人との心ざわめくような出会いの中で展開する出来事を、今なら違った視点で観ることができるかもしれない.これからヴィスコンティ作品を観直してみます. 5点(2003-09-13 00:00:40) |
4. 息子の部屋
《ネタバレ》 息子が亡くなってからの、欠落感、空白感、喪失感が、観る側にありのまま伝わってくる演出だった.思いもかけない身内の死を受け入れようが受け入れまいが容赦なく時間は流れていき、どうやっても繕えない感情をじっと抱えたまま苦悶することも間違いなく人生の一部なのだと.ラストの展開も、この意図からするといかにも自然だ. 9点(2003-08-22 14:26:16) |
5. イングリッシュ・ペイシェント
映像、音楽、脚本、舞台(まさにサン=テグジュペリの世界だ)の全てにおいて上質さを感じる。自分にとっては隅々まで納得のいく作品なので、手元に置いて何回でも手を伸ばしたいし、観る度に新しい発見がある。 R. ファインズは言うに及ばず、K. S. トーマスがとびきり美しいのに加えて、チャーミングで哀しくて知性的な内面を演じていて、とても素敵だと思う。そして J. ビノシュは、職務を超えた献身と人間としての情感を滲み出るように演じてい、“役柄に対する取り組み方が普通じゃない - J. デップのビノシュ評”も納得できる出来映えだった. 10点(2003-06-22 12:07:24) |
6. ギャング・オブ・ニューヨーク
点のほとんどは、D. デイ=ルイスに捧げます.“ボクサー”の後の空白どころか、取り憑かれたような演技への入り込み方はちっとも変わっていなくて、嬉し涙が・・・.衣装と時代考証も素晴らしかった. 7点(2003-02-05 00:25:59) |
7. ライフ・イズ・ビューティフル
構成がとても緻密なのですね.前半で彼がとても上質な人間であることが判ってきていて、後半へほとんど心の準備がなく突入していく.後半の親子の科白の積み上げが、愛らしく哀しく強い.この世でもっとも護り抜きたい子供を完璧にゲームの世界に引き入れること、その大目的のためだけに後半の彼が存在する.そして護りきった後、目と目で合図をして最後まで子どもを喜ばせて命をまかせる.心を打たれずにおれない. 9点(2001-11-07 21:58:20) |
8. 海の上のピアニスト
ティム・ロスの、スッコーンと抜けた青空のような、空洞のような表情がよけいな感情を廃していて、巧いなと思った.ピアノを弾くシーンがやはり圧巻で、あの演技には敬服.あそこにもっていくまでの彼の努力にも敬服.共演のP. ビンズも(瞳孔が微妙に揺れるんですね.)底抜けのいいヤツで、泣かせる.滅びの美学を毅然と見せるんだろうな、と思いつつ映画は進行していくが、「陸にあがって海を見」せたかったな、とも思う.ラストの爆発シーンは要らないと思ったので8点. 8点(2001-11-01 22:24:42) |
9. ロミオとジュリエット(1968)
ゼフィレッリの美観がそのまま出ている映画で(彼の部屋は白一色だったらしい)、衣装を含めた細部にまで拘った作りが素晴らしい.O. ハッセイはこの一作だけで何作分もの働きをしたと思う.彼女がはじめて登場するシーンの演出が(名前を呼ばれ、深紅の衣装で窓から顔を出す)、最高に巧く、脳裏に鮮やか. 9点(2001-10-02 10:18:12) |
10. タイタス
観終わって、しばし呆然.濃く強く弱く卑怯で賢明.人間のあらゆる業をこれでもかと見せてもらった.A. ホプキンス、全身で演じていて、役者冥利に尽きる嬉しさを全開で表現していたと.それを味わうことができて、幸せ. 9点(2001-05-26 09:44:23) |