1. フェラーリ
《ネタバレ》 イタリアを代表する高級車メーカー『フェラーリ』の創設者である、エンツォ・フェラーリの矛盾に満ちた生き様を描いたマイケル・マン監督による伝記ドラマ。モータースポーツ界の巨人が、公的にも私的にも最も苦境に立たされた1957年の様子を、監督お得意のドライかつクールなタッチで描いている。 モータースポーツどころか自動車にもまったく興味がない私でも楽しめるのだろうか、と鑑賞前は不安であったが、そこはさすがの巨匠。一瞬のミスやエラーが命取りに繋がるレースシーンは常に死の空気が立ち込めて殺伐としており、見応え十分だった。また、フェラーリを取り巻く人間模様、特にペネロペ・クルス演ずる正妻ラウラの女傑っぷりはこれまた見応えがあり、132分の上映時間があっという間だった。 本作の主題は、フェラーリという人間の本質を描き出すことである。そのアプローチとして、マン監督は、1957年の数か月に脚本を絞って描くことを選んだ。というのも、この1957年は、エンツォ・フェラーリが抱えていたさまざまな矛盾が最も激しくぶつかりあった時期であり、この時期にこそ、フェラーリという人間の本質がよく現れていると監督は考えたようだ。本作で描かれるフェラーリは、徹頭徹尾矛盾の人である。仕事、家庭、本人が全身全霊をかけて愛するレースにおいてさえ、およそありとあらゆる領域で彼は矛盾を抱えている。当然、矛盾が調和するわけはない。矛盾は衝突し、やがて破綻する。本作では、フェラーリが抱えたさまざまな矛盾が、どのようにして衝突し、破綻するのか。あるいはどのように苦い折り合いをつけたのかが描かれている。 つまり、レースが主題の映画ではない。あくまでフェラーリという人間の本質を描くことが主題なのである。爽快なレース映画、あるいはプロジェクトX的な映画を期待すると肩透かしを食らうのは当たり前であるし、そのような人は本作の主題を正確に読み取っていないともいえる。 全体的にドライなタッチの映画だが、フェラーリという主人公に対しても、映画は一貫してドライである。映画は彼の本質を炙り出そうとはするが、決して美化はしない。昔のマイケル・マン作品なら、苦境の中で戦う主人公をロマンを込めて描いたものだが、本作はそうしない。フェラーリの威圧的な振る舞いも、家庭での不誠実も、現代ではそうそう美化できるものではないということなのだろう。レースシーンに爽快さやカタルシスを用意しないのも、実際に起きた事故がいかに悲惨であったかを考えさせるという意味で、ある種の誠実なアプローチだったのではないだろうか。 では、本作にマイケル・マン作品らしい登場人物は出てこないのか? 実は映画の中で悪役のように描かれる正妻ラウラこそ、いままでのマイケル・マン作品によく出てきた「筋を通す人物」、「苦境の中で戦う人物」であるというのがこの映画のミソである。 フェラーリとラウラは、紆余曲折、激しい衝突のあと、苦い折り合いをつける。しかも、対等な立場で。従来のマイケル・マン作品なら男にしか割り振られてこなかった役割が、ついに女性にも回ってきた。こうした点に、マイケル・マン監督81歳にしての進化を垣間見ることができる作品といえよう。 [映画館(字幕)] 8点(2024-08-08 21:24:41)(良:1票) |
2. ウエスタン
《ネタバレ》 ブロンソンのつぶらな瞳の奥から遥かな記憶が立ち上り、灼けた大地の向こうから、野性を露わにしたヘンリー・フォンダが歩み寄る。 何という素晴らしいシーケンスであろうか。そしていつものごとく、モリコーネの音楽が、時代から取り残された男たちの決闘をこれでもかと盛り上げる。 ドル箱三部作を経て、本作は、アクションやバイオレンスを売りにした従来のスパゲッティウエスタンからさらに進化を遂げ、伝統的な西部劇に対するオマージュと、ある種の文学的なテーマ性を盛り込んだ作品になっている。劇中さまざまな意味で重要な役割を果たす鉄道は、新たな時代と文明の波及、西部の終焉を示唆する象徴的存在である。物語はつまるところ、大陸を横断せんとする鉄道とその利権を巡る抗争劇であったわけだが、鉄道を物語のメインモチーフに据えることで、アメリカという国のありよう、西部の終焉、変わりゆく時代、そしてその変化から取り残されていく男たちの姿が、映画の中で鮮烈に浮き上がる仕組みとなっている。ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチら原案・脚本作成に関わった人々の非凡さが光る。 『続・夕陽のガンマン』でも指摘したが、地位も、名誉も、金も、女もないと言い切った薄汚れた男たちの決闘が、どうしてかくも神話的な風格を帯びるのか。レオーネの演出とモリコーネの音楽は、本作でも神懸っている。レオーネ西部劇の集大成であり、最高傑作である。 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2023-03-21 19:42:35)(良:1票) |
3. ひまわり(1970)
《ネタバレ》 戦争のことをどうしても考えてしまう時期時世のこともあり、本作を鑑賞。 ロシアによるウクライナ侵略が始まって以降、本作にもあらためて世間の注目が集まることとなった。 ひまわりといえばウクライナの象徴だが、本作上映時はそのウクライナもソ連の一部だった。 現代的な観点で見ると、ソ連周りの描写は、色々と無理がある。 ロシア戦線の想像を絶する過酷さを考えると、あの状況でアントが生き残る、しかもロシア娘に救助され、生活を共にしていること自体が非現実的に映る。そのまま凍死か、処刑か、収容所送りの方が遥かに現実的な気がする。また、ジョバンナがあの広大で、しかも情報を隠匿する共産体制下のソ連でアントを探し当てるのも、かなり無理があるだろう。他にも、やけに小綺麗な街並みの描写や、やけに善意のある人々など、ソ連に都合のいいプロパガンダ描写になっている感がどうしても拭えない。昨今のロシアの蛮行や閉鎖的なロシア社会を目にしてしまった現在からすると、その当時は善意に溢れる社会だったとはなかなか信じがたい。 一方で、人物描写の巧みさがとにかく光る映画であり、戦争に引き裂かれた男女の悲劇を、十二分に演出し切っている。 情が深く、烈女ともいうべき誇り高い性格のジョバンナ。美男だが、どこか頼りなく、不安定さが見え隠れするアントニオ。主役二人の性格描写が素晴らしい。愛に忠実で、愛のためならどこまでも毅然となれるジョバンナ(だから役人や、帰還兵にも敢然と食って掛かる)だが、愛に裏切られると、その毅然とした性格が裏目に出て、荒れに荒れてしまうのだ。アントを探し当てるも途中で逃げ去る場面や自暴自棄になって想い出の写真や服を投げ捨てる場面は、ジョバンナの心情が痛いほど理解でき、強く感情移入してしまった。 毅然と誇り高いジョバンナに対して、優男のアントがいい具合に未練がましく、どうも頼りないというこの対比が良い。記憶喪失のくだりは、何回観ても嘘くさい(笑)ロシアに残した妻子を放り投げて、ジョバンナと一緒になりたいと言い出すあたりの情けなさも、ジョバンナとの対比がよくできている。だが、ジョバンナは、誇り高い性格であり、そうした一線を踏み越えることは拒絶する。 戦争さえなければ、ウマがあった二人が引き裂かれることはなかっただろう。そうしたやるせなさも含めて、戦争そのもの、そして戦争がもたらす悲劇について考えさせられる作品である。 クライマックス、下ろした髪で隠れているが、ジョバンナの耳にはかつてアントから贈られたイヤリングがつけられている。アントはなにも気づかない。最後の最後、ジョバンナに見送られ列車で去るアント。遠ざかる車窓から、ジョバンナの涙は、はたして見えていたのか。すれ違いの悲劇やヒロインの愛情深さが、言葉でなく、映像で表現された素晴らしい場面だ。 [DVD(字幕)] 8点(2022-08-14 22:03:34) |
4. ニキータ
《ネタバレ》 こんなメンタルがピヨピヨな殺し屋に 殺られる人たちが逆に可愛そうだなと思ってしまった(笑) あらゆる意味で、レオンのプロトタイプという評価は、まさしくその通り。 要所要所では、監督のセンスが発揮されており、印象深いシーンもあるのだが、 荒唐無稽な展開も目立つ。最後の変装は無茶あり過ぎ(笑)。 まあ、そうした粗も含めて6点評価ということで。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2022-05-18 08:32:12) |
5. アパートメント(1996)
モニカ・ベルッチがいつものファムファタール役で…と思わせておいてからの、意表を突く展開の数々が待ち受けており、なかなかに面白かった作品。今から見ると、キャスト全員が若い。モニカとヴァンサンなんて、ガリガリに細い。制作年代は90年代半ばで、予算の制約もあったのか、序盤の映像は日本のトレンディドラマを見ているようだった(あと中盤のすれ違いシーンも! こういうところはまさにトレンディドラマ)。映像のチープさに慣れてしまえば、物語がぐいぐいと動き出して面白くなっていく。 ただ、ツッコミどころは満載の映画である。まずヴァンサン・カッセルよ、さっさと東京に行きなさい。昔の女に会うためだけに、大口の国際取引をすっぽかす営業がこの世のどこにおるんじゃい(笑)。あと最後の最後で、もとのガールフレンドと空港でばったり会うって、どんだけの偶然じゃい。そういうアンリアルな場面が多いので、7点評価で。 [DVD(字幕)] 7点(2020-05-05 20:42:07) |
6. 続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
よくよく冷静に観てみれば、小汚いオッサンたちが金塊を巡ってジタバタする映画なのだけれど、モリコーネの音楽がかかってしまうと、オッサンたちの醜い争い(≒ドタバタ劇)が、なぜか神話的な雰囲気のある、運命的な決闘に見えてしまうという…。冷静に観れば不思議でしかないが、まさに映画的マジックを見事に作り出しているのが本作だろう。ストーリーに特段テーマ性があるわけでもないし、脚本的だけで判断すればよくある娯楽活劇でしかない。ただそこにレオーネの演出とモリコーネの音楽が入るだけで、一気に作品の質が変わってしまう。何回見返しても、墓を駆けずり回るシーンから三角決闘の流れは、胸が躍る。この突き抜けるようなわくわく感を作れているだけでも、名作といえる。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2019-11-24 16:42:11)(良:1票) |
7. 太陽がいっぱい
今となっては青春もの、サスペンスの古典であるため、確かに犯罪手法は古くずさんかもしれない。 ただ時代を考慮すれば、違和感なくサスペンスの面白みを味わう事が出来た。 アランドロンの妖艶で屈折した瞳に終始惹きつけられた。 ラストシーンの余韻も良い。名作。 [映画館(字幕)] 8点(2018-12-02 10:12:11) |
8. ニュー・シネマ・パラダイス
映画への愛に溢れた映画。 モリコーネの音楽が素晴らしい。 全身に鳥肌が立つほどの感動と、多幸感が滲み出てくるラストシーン…。 [映画館(字幕)] 10点(2018-12-02 10:05:09) |
9. 夕陽のガンマン
ラストの決闘シーン、時計を映し出すショットと、そこからのBGMに全身が熱くなった。 とにかく男臭いシーンなのだが、これで熱くならない奴がいるのだろうか。そして決闘を演ずる二人の男の眼が良い。 特にモーティマー大佐の眼。復讐に燃えながら、もはや戻らない過去を思う、哀愁に満ちたあの眼。 映画史に残る決闘シーンだ。 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2018-07-28 16:12:02) |