1. 狩人の夜
《ネタバレ》 恐怖映画としては、もはや風化し古臭い印象を拭い去ることはできません(悪夢的幻想としては素晴らしい)。しかしながら本作は、脳裏にバッチリ焼き付くような陰影に富んだ映画的な場面の連続なのです。例えば、川に沈む母親の死体の奇妙な美しさは特筆すべきものですし、ロバート・ミッチャムと子供たちの食卓と地下室での攻防やボートでの脱出劇(移動感も良い)、あるいは馬でゆっくり追跡する不気味なミッチャムを目撃する納屋のシーン、そしてミッチャムとリリアン・ギッシュ!との対峙等々、設計も実に見事です。あざとい監督だったら、ミッチャムが家庭に入り込み母親が消されるまでの不毛な心理劇に時間を割いていたでしょうが、そんなことはせず常に転がし続けたところに面白さがあるのです。 [DVD(字幕)] 8点(2012-03-02 18:38:18)(良:3票) |
2. 限りなき追跡
《ネタバレ》 これは紛れもなく〝追跡〟の映画であり四六時中、馬で駆けまわり移動しますし、逃げる側も裏切った仲間をわざわざ足跡として残し追われる者と追う者の距離感を出してくれます。ラストの斜面を使った殴り合いも見事ですし、スパニッシュで会話している部分ですら内容を把握できてしまうほど確かな出来で(おそらく英語の部分ですら言葉は不用だ)、僅か90分足らずでまとめ上げてしまっている簡潔さも素晴らしいです。 …が一方で、主人公のロック・ハドソンとヒロインの魅力は乏しいですし(ウォルシュ映画のヒロインとしては個性を欠いている。リー・マーヴィンをひっくり返してしまうのは彼女でも良かったのでは?)、悪役もこズルいばかりで小物感が否めませんし、ハドソンと行動を共にするジェス(キャラクターに一貫性が無い)と先住民の扱いはぞんざいであり、南北戦争の話などにしても中途半端な印象をぬぐえません。 …ところで、明かに意識して正面に向かって発砲したりするのですが、これは3D上映もしていたんですかね? [DVD(字幕)] 7点(2010-10-19 18:30:48) |
3. 海賊黒ひげ
《ネタバレ》 黒ひげの最期は印象的ですが…率直に言いまして、これが全く面白くありません。ウォルシュが監督なのにどうしてこんなことになってしまったのか?もしや別人が撮ったのではないかと勘繰ってしまうほど冴えておりません。 まず、大海原を駆ける海賊の物語であるのにもかかわらず世界がえらく窮屈です。開けた世界はお手の物のウォルシュ監督のはずが、もういかにもセットといった感じの息苦しさで、海なんぞほとんど船が模型の時しか出てきませんし、逃げ隠れする船内の見せ方も上手くいっているとは言い難いです。それに恋愛部分においても中途半端であり、特にレイナード役の俳優さんに魅力が感じられないのは頂けません。ただ、ここにおいてもウォルシュは女優には配慮しており、とても美しく撮られています。 [ビデオ(字幕)] 5点(2010-01-18 18:16:50) |
4. 艦長ホレーショ
《ネタバレ》 海洋、軍人ものなので男くさ~い内容をイメージしていましたが、長期間、大海原をかけ戦闘を繰り返す活劇としては面白味に欠けていますし、常に澄み切った空は美しいのですが、せっかくの海なので嵐も見せてほしいと思います。・・・しかし本作の主体は冒険活劇ではなく、グレゴリー・ペックとヴァージニア・メイヨの恋模様を描いた完全なるロマンスの映画なのです。それも女と話すのが苦手そうに咳き払いをするペックと、芯の通ったお嬢様のコテコテの恋愛模様かと思いきや、そうではなく互いに別の決まった相手がいるという高い障壁のある禁断の恋…。惹かれ合いながらも愛し合うことができない二人の微妙な距離感が絶妙ですし、個人的にヴァージニア・メイヨは趣味じゃないのですが、とっても綺麗に撮られています。特に病に伏せ熱に浮かされる姿などはとても艶っぽく、ペックがイチコロになるのも当然です。 [DVD(字幕)] 7点(2009-04-01 18:12:27) |
5. ガンヒルの決斗
《ネタバレ》 最初にちょこっとしか出てきませんがカーク・ダグラスの町と比べ、アンソニー・クインの仕切る町の張り詰めた空気はどうでしょう。見事なまでに緊張感に満ちておりカーク・ダグラスの孤立無援さが良く出ていますし、それによりカークの凄む、殴るなどのちょっとしたアクションも正義漢の潔癖的強さとして際立っているのです。それは辺りが暗くなってくるとさらに素晴らしくなり、アンソニーがカークの立て籠るホテルに話し合いに行くシーンなどは本作の最大の見せ場だと思います。欲を言えば最後に待っているだろうなと思っていた大銃撃戦が無かったのが残念ですが、ラスト〝漢〟二人の決闘から三人の別れのシーンも実に良いです。 [DVD(字幕)] 8点(2008-11-04 18:07:17) |
6. 影(1956)
《ネタバレ》 何とも奇妙な謎の事件から導入し好奇心を掻き立て、勢いのみに留まらず三本の興味深い話で次々と魅せ、最後には数本が絡まったように見えた糸が一本に解ける面白さがある。三つの不可解な事件が一つに繋がるのはあまりにも偶然が過ぎるのだが、そんなことを気にさせないほど、すんなりとそれぞれの過去の回想に入っていき結末を知りたくなってしまう話の聞かせ方がとにかく巧い。特に二話目は緊張感があってドキドキさせられる。虎穴で仲間の足を蹴った時のあの反応、たった一人のところ狂気に駆られた表情で「手を出すんだ!」と凄まれる恐怖。計算尽でさり気なく事の結末である義足を見せるのも見事だ。作中に漂う空気も暗澹としており、白黒映画ならではかもしれないが物語のキーとなっている陰影のつけ方も不安を呼び起こすようで良い。もちろん1956年製作のポーランド映画であり政治的な内容だが、単純にスパイサスペンスとしても十分に楽しめる。 [ビデオ(字幕)] 9点(2007-03-05 18:49:52)(良:1票) |