1. イーダ
《ネタバレ》 全編モノクロームの静謐な映像。これがストーリーの雰囲気にとてもよく馴染んでいて良かった。 修道院の誓いを立てる前に自分のルーツや外の世界を知り、恋愛も経験して修道院に戻る。 そして、毅然たる表情で前に向かって進むイーダの姿。 最後はハッピーエンドと捉えました。 至る所に印象的なシーンがあり、オープニングのキリスト像を立てるシーンや、イーダがミュージシャンと夜を共にする時の髪を下ろす姿、ヴァンダが自ら命を絶つシーンなど、象徴的でファンタジー性を感じさせるシーンが特に印象深く響いてきましたが、その一方で、人物を右下に配する構図が多用され、人物を捉える際の引き出しの少なさが垣間見れたのは減点材料。 また、音に関して言えば、部屋で聞くクラシック音楽や車の中での歌謡曲、レストランでの生演奏、静かな部屋の中で聞こえる喧噪など、BGMを流さない分、どれも非常に耳に残っていたのですが、生演奏は何回も繰り返されて若干しつこい感じがしてしまいました。 自分としては、ポーランドの歴史的背景はあまりよく知らないままで観たのですが、イーダの出生を辿りつつ歴史に触れることができたのは良かったです。 [映画館(字幕)] 6点(2015-12-15 23:32:44) |
2. イントゥ・ザ・ワイルド
《ネタバレ》 序盤の家族間の会話のシーンまで見てこの映画ダメだと思ったけど、大自然という良質な素材があれば誰が撮ってもそれなりの映画が出来てしまう、そんな一本。 冒頭で車を降りて雪原を歩くシーンの不可解な視点による奇妙な構図でハナっからセンスのなさが出てしまった上に、無駄にスローモーションを多用したかと思えば、家族間の会話のシーンではほぼ全てのショットがクローズアップという有様。 ただ、猟をして獣の肉をさばいたりするアドベンチャーっぽい場面や、革のベルトに自分の旅を一大絵巻のように描いたりするアイディアは面白いと思いましたし、最後のチャプターでの老人との交流は心温まるような一節になっており大自然の雄大さのみならず人間性を丁寧に描いていたところは凄く良かったと思いました。 旅の最終目的はアラスカに行く事だったようでしたが、最初に廃バスに辿り着いてそこを拠点にして生きているように見え、且つ、そこで最期を迎えていたことから移動感が感じられず“アラスカに向かう”という大局的なテーマが薄らいでしまっていた事がちょっと残念に感じました。 [映画館(字幕)] 6点(2015-10-17 13:32:10) |
3. イースター・パレード
《ネタバレ》 結論から言ってしまうと、アステア出演作は4,5作は観ているので彼の流麗なステップには以前ほど驚きも少なくなってきたし見ていて楽しいといった感覚も薄らいできてしまっているので、自分としてはダンスよりももう少しストーリーの方に重点を置いた映画の方が好きかなぁという気がします。 しかし、オープニングでアステアが帽子屋に入り女性がズラズラと奥から出てくるところから帽子を受け取るまでの流れが、具体的・現実的な動作が一切なく「シェルブールの雨傘」を彷彿とさせられたのには驚きました(こちらの映画の方が先だから尚更ビックリ!)。 さらに、ウサギのぬいぐるみを手に入れるまでのシークエンスでは、今まで自分が観てきたアステアのどのダンスよりも華麗なもので、ここまでは目を奪われるシーンが続いたこともあって凄く期待して見ていたのですが、その後がどうしても普通のミュージカル映画に成り下がってしまい、物足りなさを感じてしまいます。 終盤の方になるとダンスシーンが多くなっていき、アステアの動きをスローモーションで見せる演出なんかもややクドい感じがしてあまり好きではないですし、それよりも、ハナー・ブラウン役の女優をもう少し若い人を起用するとかして、二人の女優に年齢差を付けた方が互いにキャラが立っていて良くなったと思います。 サラダ・フランソワの説明をするウェイターや、ナディーンに振られた時に飲んでいたバーテンダーなど、脇役の方はなかなか個性的だったんですが。 [映画館(字幕)] 6点(2013-12-21 20:14:25) |
4. 石の花
《ネタバレ》 原作はもちろん知らないんですが、たぶん冒頭で出てきたようなロシアの一地方で代々語り継がれてきたような説話か何かでしょう。 物語の雰囲気や映像面の気合の入り方なんかを見ても、そんじょそこらの映画とは格が違うというか、気品すら感じさせる作品に思えます。 ただ、ちょっと細かい部分にアラが見えてしまうのが非常に惜しく、結婚を決意した時の思いつきのようなモノローグの流れとか、石の花を見たいと願い洞窟の中に行ってから出てくるまでの会話の内容とか、物語をおかしくしてしまうような箇所が他にもまだまだありましたし、それと若干音量が大きすぎたのとオフレコが耳障りだったのも良くなかったです。 ロシア映画の伝統なのか分かりませんが、とにかく映像が非常にしっかりしていて、瞬く間に花が一面にパァーッと咲くところや、湖面を映したフィックスの映像で季節の移ろいを表現したシーン、洞窟内の煌びやかな映像など全てセットでの撮影でありながらも・・・と言うよりは、セットだからこその美しさが全開に出ていたと言って良いでしょう。 リメイクは、確かにストーリーは良くなるかもしれませんが、映像面の格は落ちるでしょうから難しいところですね。 [映画館(字幕)] 6点(2013-01-09 00:32:10) |
5. イヴの総て
《ネタバレ》 舞台演劇をテーマにした物語であるにもかかわらず実際に舞台で演じるシーンが出てきたのは皆無で、実際の舞台のシーンと言えば幕が下りるシーンを袖から撮った数ショットのみという、何とも特異な映画という気がします。 新旧の女優をはじめ、彼女らを取り巻く人々の舞台裏での人間関係に的を絞って描いており、主演2女優は勿論のこと脇を固める助演陣の演技もオスカーに多数ノミネートされるだけのことはあってやはり素晴らしく、非常に目を見張るものがありました。 自分の好みの観点で言うと、あまり脚本に頼った感のある映画は好きになれないことが多く、更に高飛車な女が皮肉タップリに罵る映画もそれだけで無条件に嫌いになってしまうのですが、これほどの力作となると話は別。 マーゴの台詞ですが、よくもまぁあれほどのイヤミを考えつくなぁと感心させられる程の台本ですし、Eveとevilを掛けて貶したりするのも面白いです。イヴに関しても化粧室でカレンを呼び出しての会話なども、イヴの言葉遣いが徐々に変わっていく様(お座りになって→座ったらどうなの)は非常にスリルに満ちたワンシーンで、この辺りからの彼女の本心の出し方などは必見と言えるでしょう。 2点ほどケチをつけさせていただくと、マーゴが実際に演じるシーンがなかった事もありイヴがマーゴを師と仰ぐ理由や背景のようなものが見えてこなかったのと、ガソリンを抜いてマーゴを本番に間に合わなくさせたのが「私は自分の行いを恥じた」という台詞のみであった事が若干説明不足のような気がしてしまいました。 とは言っても、やはり映画の前後半でイヴの印象に驚くほどのギャップが出るように感じさせるシナリオは非常に卓越しており、オープニングのストップモーションの時に感じられた可憐で謙虚なイメージが再度動き出してからのシーンではそれが見事に消えてなくなった代わりに狡猾な悪女のイメージが新たに出てきたのは、女の怖さに他なりません。 「All About Eve」はシンプルでありながらも深みも感じさせ、まさにベストなタイトルですし、邦題も下手にいじらないで大正解。 最後に出てきた女も、彼女の説明する「掃除係がドアを開けたままだったから入った」という説明は到底信じるに足らず。恐らく策を巡らして忍び込んだのでしょう。「一流になりたいのなら彼女にノウハウを聞け」という台詞にドレスを自身に合わせ陶酔する姿でのエンディング。上手い! [映画館(字幕)] 8点(2012-12-28 23:56:38)(良:1票) |
6. E.T.
《ネタバレ》 自分は、ハリウッドの娯楽映画は基本的にあまり観ないようにしているのですが、それは何故かと言うと、余りにも非現実的なストーリーだったり、映画後半のクライマックスなんかの“ここが一番の見せ場ですよ~”と言わんばかりの派手なアクションや、ただの一組の男女の恋愛なのにハッピーエンドを迎えると周りの人が拍手までしてしまうような大袈裟な演出など、オーバーでわざとらしい映画を見せるハリウッドのスタンスに辟易してしまう事が何度もあったわけですが、この映画は不思議とそのような気持ちは湧いてこなかったです。 宇宙人なんて、映画の中では地球の生活に順応しているように描かれていますが、実際は敵対心剥き出しで人間に攻撃してくるかもしれないし、食べ物だって人間が食べるようなものは食べられないかもしれないし、もし食べたとしたらその辺にウ●コを撒き散らす事だってあるかもしれない。要するに、そういったマイナス要素を全て排除して、感動を与えられるように上手い具合に筋道立てて作った、言わばファンタジー映画のド真ん中的な映画でしょう。 エリオットがE.T.と一緒に空を飛ぶシーンは、満月を背景にして飛ぶワンショットのわざとらしさに多少の嫌悪感を抱くことはあったにせよ、音楽の素晴らしさも相俟ってそれを打ち消すほどの見事なシーンだったと思います。 そして、最後の方でパトカーに追われているシーンでも、一度空を飛ぶシーンを見ていたことである程度の予測は出来ていてニ回目に感動なんか出来るのかと不安になりましたが、一度目のシーンを更に上回る感動を覚えた自分にもまた驚いてしまいました。 想像を超える感動というのはまさにこの事で、観る側に悟られていながらもそれを超える驚きを演出するというのは、バーーン!といきなり驚かせることよりも何倍も難しいはずです。 ハリウッド嫌いの自分でも、スピルバーグだけはやはり一目置かざるを得ないと改めて感じさせられた一本。 [映画館(字幕)] 8点(2011-10-08 12:51:19) |
7. イタリア麦の帽子
《ネタバレ》 非常に珍しく入手するのが困難な「イタリア麦の帽子」を巡るアイディアが凄く面白い。 このストーリーは、手に入れるのが難しいものなら何でも、そのアイディア一発で映画が作れてしまいそうなだけに、このアイディアをパクった作品が後世に作られてもおかしくなさそうですが、リメイクも含めて意外と存在しないそうですので、これは今からでも遅くはない、是非ともリメイク作品を作って欲しいところです。 麦の帽子以外でも、手袋やブーツを生かしたコメディアスなサブプロットも上手い具合に効いていたり、他にも傘・ネクタイ・補聴器・置時計など使われた小物は沢山あって、いろいろな場面で楽しさが感じられる作品だと思います。 我々日本人にはわかりにくいですけど、帽子というのは当時のフランス人にとって非常に大事なアイテムなんだなというのが良く分かる映画です。 [映画館(字幕)] 8点(2011-07-31 01:38:39) |
8. 家路(2001)
《ネタバレ》 “老い”を描くというこの手のストーリーは、いろんな映画作家によって作られていて、哀愁漂うものもあれば、コメディタッチに描かれたものもあったりと、とにかく色々あるのですが、まぁ、この映画が楽しめたかといえば、自分の年齢的なこともあってか、少なくとも共感の念は湧いてこなかったと思います。 ただ、この映画が他と違うのが、老いをテーマにしている他に、日常の繰り返しを多様な人物のケースで描いているところでしょうか。 例えば、馴染みのカフェの決まった席で飲むコーヒーだったり、一日の始まりのいつもの挨拶や抱擁だったりといったささやかな幸せがこの映画の中に出てきています。 また、その些細な幸せを奪い取る事も同時に描かれていて、主人公の老人に突然仕事が舞い込んできて平穏な日常を奪い取ってしまい、さらに、その孫である少年からも毎朝の挨拶を奪い取り、終いには、普段からラジコンで一緒に遊んでくれたりして友達みたいな感覚でいた祖父を抜け殻のようにしてしまうという、ちょっと残酷なラストで幕を閉じます。 ・・・と、ここまで書いてみて、老いを描いた映画とばかり思っていましたが、意外と日常の繰り返しからくる幸せの有難みやそれを失った時の失望感を描いた作品だったりするのかも。 全くもって油断なりませんな~、このオリヴェイラという人は。 [映画館(字幕)] 7点(2010-04-14 00:43:17) |
9. 石の微笑
《ネタバレ》 しばらくレビューの間隔が開いていたお陰で、シャブロルと決別したのを忘れてうっかり観てしまいました。 映画を含め全ての経験が糧になるという信念により、厚かましくもレビューをさせて頂くと、エロい女は好きだけどエロさを露骨に画面に出した映画は嫌い。そういうのが見たいのなら、それ専門の映画館に行けば良いわけで。 そういう意味でこの映画はあまり好きではないですが、この映画に限っていえば、それ(最後の死体の直接的な描写も含む。普通は死体の一部を映すだけで十分。)がないと映画自体が成り立たないので、過去に観たシャブロル作品同様、非常に評価に悩むところです。 この映画を語る上で欠かせないのが、センタという女性。何か、肌の質感やボディラインを強調するような撮り方なので、肉感的なエロさがプンプン出てて凄く良いんだけど、ちょっと重い。毎回、登場する毎にいろんな表情で出てきてくれて、僕はなかなか好きなんですが、やはり重くてキモい。主人公の男フィリップが浮浪者を殺したと嘘をついてセンタと関係を維持しようとするところなんかは、自分でもたぶんそうするだろうなぁと思ったり・・・。「いとこ同志」より後のシャブロルは奇妙な映画ばかり撮っているような気がしますが、この映画はセンタという女がちょっとオカシイだけで、ストーリーは入っていけます。 まぁ、このサスペンス感や狂気を味わえるかどうかが評価の分かれ目だと思うので、好きな人は好きなんじゃないですかね? ところで、あの石像は一体何だったのだろう。親子ぐるみであの石像に思い入れがあるようで、“フローラ”などと名前も付けたりなんかして。ただ単にあのような顔がフィリップの理想だったというだけのことなんでしょうか。持ち主が狂気じみてきたりとか、いろいろ勘繰ったりしたのですが、特に何もなかったような感じです。 まぁ何というか、あの女の存在自体がちょっとしたホラーかと。 [映画館(字幕)] 5点(2009-12-26 23:05:15) |
10. いとこ同志
《ネタバレ》 試験前日に追い込みをかけるシャルルの部屋に行ったフローランスとシャルルとの会話「あなたと一緒にいたいの」「そこに掛けてれば」「いや、あなたの側がいい」・・・。 こんな女が近くにいたら絶対ブン殴ってると思う。 そもそも「性格が正反対の男二人」という構図に飽き飽きしてきてて、ストーリーに全く面白みが感じられなかった。シャルル役のジェラール・ブランはまだ若いのに程よく渋さが出てて格好良かったっていうのと、レコードが止まる洒落たエンディングは好き。今はCDの時代だからレトロな感じがあっていいと思うけど、当時の人にとってはどうだったのかな? [映画館(字幕)] 5点(2006-12-23 15:09:49) |
11. イベリア 魂のフラメンコ
《ネタバレ》 この監督は舞台の演出家としても優れた人だと思う。 最初の、グランドピアノから始まる長回しは、まぁ、挨拶みたいなもの。鏡を駆使して人の動きを多角的に捉え、光と影を使いこなして巧みに人物の表情をつかみ、さらに、真っ白なスクリーンを背にしてダンサーの表現するものを最大限に“魅せる”カメラワークは秀逸の一言。 また、ダンサーの背後にあるスクリーンに写し出されたダンサーの分身との“共演”も素晴らしいが、極めつけは、ラストシーンでの雨粒の演出。もう、とにかくカメラワークがカッコイイ! できれば、ストーリーを語って欲しかったけど、それを拒否したところが残念でならない。このくらい素晴らしい演出ができる監督ならばきっと見事な作品を作ってくれるに違いないのだが・・・非常に惜しい。 [映画館(字幕)] 7点(2006-03-05 14:33:37) |
12. いぬ
《ネタバレ》 この映画はモノクロ映画独特のクールさがあると思う。シブい!玄関を開けたときにわざと影を作って顔を見えなくしたり、シリアンが宝石類を土から掘り起こすシーンなんかは、ストーリーの構成上(モノクロ画像によって)程よく影を作って映しているのが上手いと思った。走っている車を外側から映している場面の、あからさまに合成である部分を除けば、映像面ではかなりイイと思う。 ただ、やはりストーリー面をとってみるとかなり難解で、私にとっては完全にお手上げ状態。繰り返し観てみて大筋は把握できたけどこれは間違いなく難しい部類。最初に見たとき“花輪”とか“葬儀”とかの意味が解りませんでしたからね。そのせいで、最後にモーリスとシリアンが撃たれた理由が全く意味不明でした。 あと、ヌテッチオ役のミシェル・ピッコリは絶対に配役ミス。もっと存在感があってズル賢そうな顔の人の方が適していると思う。 [ビデオ(字幕)] 5点(2005-10-10 12:38:44) |
13. 犬の生活
《ネタバレ》 初めて観たサイレント作品がこの「犬の生活」。すぐ後に「担え銃」、「偽牧師」と続くのですが、本作が一番良かった!犬の可愛らしさは言うまでもないですが、私にとっては酒場でのパントマイムよりも職安での受け付けに飛び込むタイミングが周到に計算された窓口争奪戦とホットドッグ屋さんでの早食いシーンが好きです。特にホットドッグ屋さんのカウンターに置かれたパンを食べるスピードがスゴイ!全く咀嚼せずに飲み込んでいます(笑)。 また、ラストで犬の赤ちゃんを可愛がるシーンで、チャップリンのコメディ役者の風貌がすっかり影を潜め、非常にやさしさに溢れた人間らしい顔になっているのがとても印象に残りました。音楽もGOOD! [ビデオ(字幕)] 8点(2005-01-09 22:40:45)(良:1票) |