1. インスタント沼
この映画のテーマは、ずばり「楽しむことの自由」である。僕ら人間は、出来合いの作られた「楽しさ」をお金を出して買うことが多い。でもその「楽しさ」は「消費」の一種でしかないし、みんなが楽しいといっていることをやってみたら、たぶん楽しいだろうという、ある意味確実性の高い、でも別の意味で凝り固まった世界観でしか成り立たない。この世界観では、「みえないものは存在せず、みえるものだけが存在する。」三木監督はどの作品でも、この「出来合い」の「楽しさ」に対して、別の形の「楽しさ」がちゃんとあるんだよと言っているように僕には思える。その「楽しさ」とは、「みえないものだって、存在する」というハチャメチャな世界観の延長線上に現れる。世界は、そのままで楽しくて、可能性に満ちているはずだ。世界を固めるか、柔らかくするかは、人間次第なのだ。すでに見えているものから何かを選ぶ自由は、まだ本当の自由ではない。本当の自由とは、世界をじーっと見つめることで、世界の新しい見え方に気付く事なのではないか。ゆえに、この映画をみて、「あーおもしろかった」、「つまんなかった」という感想を抱いているだけでは、この映画を本当に理解したことにはならないのだ。その意味で、この映画は、映画を超えたなの傑作である。 [映画館(邦画)] 9点(2009-08-10 15:37:10)(良:1票) |
2. 犬猫
家出した妻を追いかける夫が、階段の真ん中を通っている手すりのうえに腰かけて滑るシーン、まいりました。そのアイデアだけでこの作品は殿堂に入るべきです。全体的にすごく「うまく」撮られている作品。ストーリー自体は平凡で何の感動があるわけでもなく、台詞が輝いているとかもない。ただし、画面が伝えるディテールがすごく良くできている。仲の悪い二人が共同生活することになって、初めて布団をしいて、シーツをかけた時の二人のシーツの敷き方の微妙な差とかで、性格が何となくわかってしまう。こういうの文学では表現できないなぁと思いつつ、非常に映画的であるという意味でこの作品に敬意を表する次第です。 [DVD(邦画)] 8点(2008-07-27 19:14:49) |
3. インサイド・マン
《ネタバレ》 銀行強盗の手法のアイデアとしては、いままでになかったオリジナリティーを評価できる。で、監督がスパイク・リーなので、ついつい裏の意図まで読んでしまうのだけど、結局、だれがインサイドなのだろうか?もちろん銀行の中の強盗たちもそうだけど、ほかならぬすべての登場人間が、金銭で動く社会のインサイドにいて、そのなかで役割を演じるしかないということを言っているのではないだろうか。最後にデンゼル・ワシントンが昇進したのは、かれが取引を受け入れたのではないとおもう。たとえ銀行の会長がナチとつるんでいたとしても、その銀行を行政としてつぶすわけにいかないから結局だれもその会長を裁けないという事情による。それが今のアメリカの現状であるということを、リー監督は言っているような気がして、その辺の風刺の効き具合も考慮して6点献上。絶対外せない名作ではないけど、見たら結構楽しめる映画だと思う。 [DVD(字幕)] 6点(2008-07-20 09:29:00) |
4. 1980(イチキューハチマル)
この作品が本当に1980年当時のことを描ききれているかどうかは知らない。でも映画部が切羽詰って踊りはじめまくったり、やたら「そうだよね??」ってみんなに確認しながら場を仕切ってるやつがいたりとか、なんか無責任な時代だな~って印象が強い。時代的な制約とは別に、ライトなコメディとみればそこそこ面白い作品になってると思うので+5点。そして3姉妹のキャスティングに+2点。 [DVD(邦画)] 7点(2008-05-12 19:35:50) |
5. イノセンス
本当の自分はどこにいるのか? という問いは、以前から哲学史において思考実験という形で練成されてきている。この映画はある意味で、そういった思考実験が実際に起こっている未来を描いたSFということになるのだろうか。個人的には、デカルトが考えた時にすでに答えは出てきていると思う。自分が本当に純粋に自分だと言える自己意識(この映画ではゴースト)とは、あくまで単なる自己意識だから、何ができる訳でもなく、何ができない訳でもなく、ただスカスカの私として、身体にくっついているだけ。いわば「無としての自分」にすぎない。やたら自分にこだわる所や、全てを情報として捉えるデジタルな感覚なども、結局の所、デカルト「省察」に対するひとつの解釈のように考えることも可能だろう。 5点(2005-03-03 12:55:44) |