1. ざわざわ下北沢
まず映像はこの上なく美しい。フィルムの色、光の使い方、構図の取り方とどれも素晴らしい。机に向かい日記をめくる有希のカットなどは絵画のよう。下北沢のどこかノスタルジックで程好くとっちらかった街の風景も愛情をもって切り取られているのがわかる。その反面、物語性が薄いと感じるのも確か。でもそれは、モノローグやモンタージュを多用し、なるたけセリフを排除する俳人のような監督だからそう感じるのだと思う。本作は少女有希が下北沢というフィルターを透して、大人へと成長する物語。ただ表面的な下北沢の魅力を描くのではなく、この時期の人間にとって住み慣れた街や友人というぬるま湯から距離を置くことの大切さも描く。店のテーブルで煙をくゆらす蚊取り線香のカットの後に、「真っ直ぐな蚊取り線香のよう」と自身を評する有希。そして監督は彼女を旅立たせる。いいじゃないですかこの締めくくりは。雰囲気だけではなく、目を凝らせば何かが見えてくる。こんな監督なかなかいませんよ。なのに市川準作品の多くが未だにDVD化されていない。僕には不思議でなりません。 [ビデオ(邦画)] 8点(2008-01-29 22:58:11) |
2. サン・ジャックへの道
明日、返却なのにズルズルと深夜になってから鑑賞。見ずに返そうかと思ったが見てよかったよ。物語は、遺産相続の条件として、“兄妹3人で巡礼の旅ツアーへ参加せよ”という母の遺言よりはじまる。仲の悪い中年3兄妹を中心にこのまま進むのかとげんなりしてきたが、ツアーにはガイド他5名が加わり、総勢9名でフランスからスペイン西部の聖地サンティアゴまでの1500kmを徒歩で目指すこととなる。旅がはじまると心配した兄妹だけでなく参加者全員にスポットが当たりだし、徐々に面白くなってゆく。個性豊かな面々と歩いては休み、泊まっては歩きゴールを目指すという分かり易いストーリーに分かり易い伏線を、分かり易く拾ってゆく。本当に素直な作り。そして美しい風景描写と人物を溶け込ませた切り取り方もホレボレするほどウマ~イ。でもやっぱり、メッカに行けると信じ、母から大事な家賃まで拝借してきたアラブ系の少年ラムジィ君がいい味だしてます。彼と兄妹との最初の会話から、夕陽に輝くサンディアゴの浜辺の出来事までが僕には心に沁みました。いいです、この映画。 [DVD(字幕)] 8点(2007-10-06 01:19:09)(良:1票) |
3. さびしんぼう
黄昏に染まる尾道水道。哀感溢れるエチュード。そしてあのシーン。たまらんわ。 [DVD(邦画)] 10点(2007-09-14 00:21:32) |
4. 残菊物語(1939)
これほど話と画が一つにまとまった映画を初めて見たように思う。鑑賞後に溜息と涙と感嘆を同時に感じた。画面の中にぼうと浮かぶ画に溜息を漏らし、女の慈愛に涙し、判り易く、無駄のない脚本と演出に感嘆した。なんだろう、この余韻は・・。舳先に立つ菊之助がお徳に御辞儀をしている様で・・ああ、涙が止まらない。映画に於ける全ての要素が素晴らしすぎる。ここのレビューサイトに登録してまだ日は浅いがこの様な作品を知り、そして見ることができて本当によかった。まさにみんなのレビューのおかげである。この作品を置いてくれたTSUTAYAにも“ありがとう”と言いたい。 [DVD(邦画)] 10点(2007-04-01 16:32:37)(良:2票) |
5. 山椒大夫
《ネタバレ》 映像もそうだが安寿の器量の良さに痺れた。何処かで見たなあと思い、ああ“芋たこなんきん”だと思い出した。とても気品のある人だ。物語はと言うと、敷居が高いと思いきや、とても判り易かったと思う。だが人物の描写に少々、違和感を感じた。成人した厨子王や無法地帯での安寿の美しさ、あれでは獣たちの餌食になることは容易に想像できる。一工夫ほしかった。そして山椒大夫に圧倒的な悪を感じないのも、いま一つ入り込めなかった原因かも。でもこう感じたのは、僕の未熟さが最大の要因かも知れない。安寿の死に憤りを覚え、海岸線の美しい映像に溜息を漏らし、暖かな日差しを浴びた浜辺での再会のシーンでは涙も流したのだから。初溝口作品だったので、もう少しエージングを重ねなければ。次は残菊物語だ。 [DVD(邦画)] 7点(2007-03-30 21:04:28) |
6. サイドウェイ
《ネタバレ》 ワインには詳しくないですが批評するシーンが妙に好きですね。マイルズの表情(上目遣いするなよ~)がなんともいえずいい。高級車に囲まれているマイルズの車(個人的には好きな車だが)がなんとも切ないが大急ぎで帰ってクローゼットに頭を突っ込み泣くシーンも切ない。ここで終わってくれと思ったところで終わって良かった。ピノと聞いてアイスクリームだと思った自分が悲しかった。でもこのワインが飲みたくなった。 [DVD(字幕)] 7点(2007-01-29 22:58:56) |