21. 新選組始末記
雷蔵演じる主人公が新撰組物では定番の近藤勇、土方歳三、沖田総司といったメジャーどころではなく、近藤の人間性に惹かれて新撰組に入った新人隊士というのが意外だが、どうも主人公よりも近藤を演じる若山富三郎や土方を演じる天知茂のほうが印象に残ってしまうし、藤村志保演じる主人公の恋人もほとんど話に絡んでなく、はっきり言っていないほうがよかったような気もしないでもない。三隅研次監督の雷蔵主演映画はかなり久しぶりに見たが、このコンビの映画としては全体的に平凡な印象で、それほど面白くもないし、完成度も高くないように思う。若山富三郎が近藤役というのもごつすぎてどう考えてもミスキャストにしか思えない。(既に指摘されている方もおられるが、どう見ても近藤勇というよりは西郷隆盛にしか見えない。)一方、土方を演じる天知茂はニヒルでカッコよくいかにも冷酷非常な感じがとてもよく出ていた。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-04-19 19:05:59) |
22. 不知火檢校
それまで二枚目風の役柄を演じていた勝新が、初めてダーティーな汚れ役を演じ、のちの自身の代表作である「座頭市」シリーズにもつながることになる時代劇。ここで勝新は座頭市と同じく、盲目の按摩を演じているのだが、この主人公・杉の市の悪人ぶりが凄まじく、同じような風貌でありながら座頭市とはキャラクターからうける印象が全く違う。しかしこんなひどい悪人なのにこうも魅力を感じるのはやはり演じる勝新の存在感、この俳優の独特なオーラと杉の市のキャラクター性が見事に合致しているためだろう。勝新はやっぱりこういう役柄の方が二枚目風のキャラクターより断然あっているし、この映画を見るとこの杉の市のキャラクターが座頭市の原型になったというのもよく分かる話で、この杉の市も座頭市同様に勝新でなければ表現できないような凄さを感じずにはいられない。この映画での共演がきっかけで勝新と結婚することになる中村玉緒はこの頃のほかの出演作同様にとても可愛らしい。勝新との共演は「悪名」、「続悪名」などで見ているが、この映画が初の本格的な共演なのかな。そういえばこの二人の共演って座頭市シリーズでは一本もないような気がするのだが、原型となるこの映画で共演してたのか。でも一度でいいからこの二人の共演を座頭市シリーズの一篇で見たかったなあ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2009-12-22 14:06:30) |
23. 忍びの者
雷蔵主演の忍者映画。社会派で知られる山本薩夫監督の作品ということでちょっとかたいかなと見る前に思っていたが、確かに単純な娯楽映画という感じは受けないものの、それでもなかなか面白かった。雷蔵の忍者役というのは初めて見たが相変わらずクールでかっこよく、それでいて演技もうまい。しかし、この映画ではそんな雷蔵よりも、やはり二つの顔を持つ忍者集団の頭領を演じる伊藤雄之助の存在感あふれる怪演ぶりがもっとも印象的で、中でも普通の老人という感じから突然ものすごい動きをはじめるあたりはインパクトが大きく、また不気味で怖い。まさしくこの役は伊藤雄之助ならではだと思う。そしてその部下を演じる加藤嘉もなにか不気味な演技を見せていてこちらも印象的。ただ、信長を演じる若山富三郎は体格が良すぎで、以前に見た「尻啖え孫市」で弟・勝新が演じた信長と同じくちょっと違和感を感じるのだが。続編もあるようなのでそちらも見てみよう。 [DVD(邦画)] 7点(2009-07-30 12:39:00) |
24. 心中天網島
《ネタバレ》 黒子を使った歌舞伎のような演出や、篠田桃紅の描いた絵をはじめとした独創的な美術セット、白黒映像の美しさなど印象に残るし、ファーストシーンが電話でこの映画の打ち合わせをする監督(篠田正浩)と脚本家(富岡多恵子)のやりとりというのも面白い。だがあまりにシュールすぎて展開についていきづらく、あまり入り込めずに終わってしまった。しかし、岩下志麻は美しかったし、音楽担当の武満徹が脚本にも参加しているのはすごいと思った。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2008-09-14 02:42:26) |
25. 尻啖え孫市
東映を退社してフリーの身となった錦之助が大映で主演した時代劇。あまりいい評判聞いてなかったけど、そこそこ楽しめる作品にはなっていると思う。でも、三隅研次監督の演出にキレがあまり感じられないうえに宮川一夫が撮影をしてるにもかかわらず三隅監督にしては映像も平凡で物足りないし、勝新の織田信長もちょっとなあ。外部出身のスター俳優が主演ということで、スタッフが身構えてしまったのだろうか。錦之助と弟の中村賀津雄のやりとりはなんか東映の時代劇を見てるみたいだった。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2007-11-09 03:09:12) |
26. しとやかな獣
悪いやつばかりが登場すると見る前に聞いていたので、どんな風な映画なのかと思っていたが、人間のいやな部分をブラック・ユーモアたっぷりに描いていてとても面白かった。この映画のように舞台を一箇所に限定している映画だと、単調に感じられる場合があるが、凝ったカメラワークと登場人物たちの会話のおかげでむしろスピーディーに感じられ、途中で全くだれることがなかったのも川島雄三監督の演出力の高さを感じられる。ほかにも川島監督ならではと思えるシュールな演出もあり、ヒッチコックの「ロープ」のような舞台的な作品でありながら、ちゃんと映画としてのつぼを押さえているのには感心させられる。そしてなんといってもこの映画の魅力は前田家を中心にした登場人物たちに尽きるだろう。若尾文子の悪女役はあまり見たことなかったんだけど、したたかに演じきっていてさすがと思わせる。前田家の面々にはちょっと唖然とする。それから忘れてはいけないのが小沢昭一。とても怪しげな独特のキャラクターで強烈に印象に残る。出番が少ないのははっきり言って勿体無いなあ。 2012年12月10日追記:小沢昭一という俳優を知ったのはたぶん映画ではなくラジオのパーソナリティーとしてだったと思うけど、いまでは川島監督の映画で欠かせない俳優の一人というふうに自分の中ではなっている。「幕末太陽伝」の金ちゃんはもちろんのこと、そのほか、「洲崎パラダイス 赤信号」のだまされ屋の店員役もまさにこの人ならではで、比較的シリアスな物語にあって小沢昭一演じるこの店員がコメディーリリーフとしての役割をはたしており、これも忘れられない。でも、やはり、この映画に登場するあやしい存在感を放つ歌手・ピノサクは小沢昭一だからこそ、小沢昭一にしかできないと思えるほどのハマリ役で、今まで見た小沢昭一の演じた役柄ではいちばん印象に残っているし、いちばん好きな役柄だ。そんな小沢昭一の訃報はとても悲しいし、非常に残念に思う。心よりご冥福をお祈りします。「このアパート、エレベーターないの!?」 [DVD(邦画)] 8点(2007-08-02 12:35:26)(良:1票) |
27. 下町の太陽
《ネタバレ》 山田洋次監督の2作目で、倍賞千恵子が山田監督の映画に初めて出演した意味で重要な映画でもある。先週「キューポラのある街」を久しぶりに見返したばかりだが、間をおかずに本作をあらためて(こちらも久しぶりに)見るとやっぱり雰囲気がよく似ていて、かなり意識して作られた映画(東野英治郎や菅井きんが出演しているのもそういったことからかもしれない。)であることが分かるし、あからさまな二番煎じを狙っているのは明白なのだが、倍賞千恵子は吉永小百合よりも庶民的な感じがして、それだけでなにか役に説得力があるし、山田監督の演出はまだ垢抜けないものの、ところどころに粗削りながららしさを感じる部分はあり、とくにラストのヒロインの選択はいかにも山田監督らしい真面目さが出ていると感じる。さっきも書いたように「キューポラのある街」を意識して作られた映画には間違いないと思うが、音楽も日活映画でよく見る作曲家が担当しており、そのためか、どことなく日活っぽさも感じられる中であくまで松竹らしい作風の映画になっているのが少しチグハグな印象も受けるものの、本作のタイトルにもなっている主題歌の「下町の太陽」の明るさがとても倍賞千恵子のイメージにピッタリと合っていて、この歌の存在が本作をアイドル映画だと感じさせてくれているし、またヒロインにとっても希望が込められた歌なのだろうとじゅうぶんに感じることができる。(2023年6月25日更新) [DVD(邦画)] 6点(2006-08-15 03:20:42) |
28. シェルブールの雨傘
噂には聞いてたけど、本当に最初から最後までセリフが歌になっているのが驚きだった。この見たこともない手法に最初はちょっと面食らってしまったが、30分もすれば慣れていた。ストーリーは本当にオーソドックスすぎるが、全編に流れるミシェル・ルグランの美しい旋律を聴いているだけでも満足。雪のガソリンスタンドでのラストシーンがちょっと切なかった。本当はこの映画の点数を8点にして、音楽評価を10点にしようかと思ってたが、音楽がこの映画の魅力の大半だと思うので、ちょっと甘いかもしれないが両方10点にしておこう。 [ビデオ(字幕)] 10点(2005-09-05 01:34:56)(良:1票) |
29. 新選組(1969)
《ネタバレ》 三船敏郎の近藤勇は風格が漂い、存在感も良い。三国連太郎が芹沢鴨をいかにも胡散臭く演じており、大河ドラマで同じ役を演じた佐藤浩市と見比べるのも面白いだろう。内容は芹沢暗殺から新撰組の結成、近藤が打ち首になるまでの新撰組の歴史が2時間の間にギッシリと詰め込まれ、駆け足ぎみではあるが、最後まで面白く見られる。沖田総司(北大路欣也)が病死するのではなく、カッコよく戦死したのは驚いたけど。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2005-03-26 15:50:55)(良:1票) |
30. 十三人の刺客(1963)
《ネタバレ》 以前見た時は後半は面白かったものの、前半がかなり退屈に感じたことを覚えているが、今回久しぶりに見ると前半も面白く、全く退屈することなく楽しめた。ストーリーは忠臣蔵に「七人の侍」の要素を加えたようなものであるが、残念ながら13人分の個性というのは描き切れておらず、最後に仲間になる山城新伍なぞは居てもいなくてもいい感じさえする。しかし「七人の侍」では描かれなかった敵側の人物のキャラクターが立っていて、とくに内田良平演じる鬼頭半兵衛の存在感。千恵蔵とのかけひきは緊迫感があっていいし、ラストの二人の一騎打ちの対決も見ごたえがあるものになっている。この間、外では大乱闘が行われており、それとは対照的に描かれているので、この対決はけっこう印象に残るものとなっている。将軍の弟である殿様を演じる菅貫太郎の暴君ぶりもやはりハマリ役で、こういう悪役がいるからこそ、娯楽映画としての魅力も増すのではないか。それだけにやはりさきほども書いたように13人の個性をきちっと描けていれば、もっといい映画になったのではと悔やまれる。が、一人一人をきちっと描くには7人くらいが限界という気もする。クライマックス30分におよぶ乱闘シーンがやはりすごい迫力で、白黒映画だが、このシーンではそれも効果をあげている。ただ、以前見た時もそうなのだが、「七人の侍」の久蔵を思わせる剣豪役を演じている西村晃のあっけない無様な死にぶりはどんな強い剣豪でも刀がなければただの人というような意図があるのだろうけど、やはり少し戸惑った。まあこのシーンはリアルといえばリアルなんだけど。三池崇史監督によるリメイク版は未見なのだが、この部分をどうしているのかすごく気になる。芥川隆行の力の入ったナレーションが印象的。(2012年12月25日更新) [DVD(邦画)] 8点(2005-03-05 23:09:12) |