1. 七人の侍
この作品は見る前からいろいろな予備知識を持っていた。とりわけ、雨の中での戦のシーンは「七人の侍」を語る上で必ずと言っていいほど出ていたので余程迫力があるのだろうと思っていた。いざ見てみると思っていたほどではない。しかし、映像から見てとれる迫力を越えるものがこの映画にはある。まず七人の人選からして惹きつけられる。そして何より対野武士の戦術だろう。見ていてゾクゾクする。戦術より大切なことが団結するためのコミュニケーションだったり、百姓達の士気を上げるための渇やリラックスさせるための談笑だったりとそのあたりの描写も心憎い。最後、百姓達は侍達に感謝してチャンチャンと終わるのかと思ったら、何事も無かったように歌いながら農作業に精を出す。そして勘兵衛の、勝ったのは百姓云々のセリフ。菊千代が泣きながらに訴えた、百姓とは云々のセリフが見事な伏線となっている。 9点(2003-11-26 13:37:48)(良:1票) |
2. 仁義なき戦い 代理戦争
これだけの登場人物のキャラクターをこれだけしっかりと描ききった映画はそうは無いでしょう。どうしてバトルロワイアルでこれが出来なかったのだろう。まあ、シリーズものという強みはありますが。それにしても面白い。傑作でしょう。 9点(2003-10-09 13:03:59) |
3. 仁義なき戦い 広島死闘篇
文太は脇にまわり山中役の北大路欣也が主役を張る、シリーズモノにしたら異色作。シリーズを離れ一本の作品としてもかなり完成度が高い。大見得切の乱暴者のくせに慌てふためく様が滑稽な大友のキャラクターがまたいい。 9点(2003-10-09 12:52:24) |
4. 車夫遊侠伝 喧嘩辰
男でも惚れてしまう男をこそ描いてきた加藤泰の映画ではあるが、私は加藤泰の映画の女が好きだ。『昭和おんな博徒』で好みじゃない江波杏子に惚れさせ、『花と龍 青雲篇・愛憎篇・怒濤篇』でも眼中に無かったはずの香山美子に惚れさせた手腕は半端じゃない。そしてこの映画の桜町弘子。惚れいでか!凛として強情で高飛車な面も見せつつもどこまでもどこまでも女。男気溢れる男たちも実に気持ちがいい。そして井川徳道が見せる様式美。内田良平が桜町に命をかけた喧嘩に行くことを告げるシーンだ。『緋牡丹博徒 お竜参上』の雪の積もる橋、『明治侠客伝 三代目襲名』の夕焼け空(あっ、どっちもそこにいる女は藤純子だ)に匹敵する美しい井川徳道の世界がここにある。いいっすよ、ここ。心の奥にあるいろんなもんを引っ張り出してくる。簡潔に言うと感動。感動を誘引する美があるんです。 [映画館(字幕)] 8点(2011-09-16 16:44:47) |
5. 新学期 操行ゼロ
《ネタバレ》 絵が突如動き出すことの斬新さ、あるいはそのユニークさ、あるいはそれらを含めた驚き。ここしかないというところで使われる有効的且つ必殺のスローモーション。先生の後に続く子供たちの列のお見事な、そして笑うこと必至の自由奔放。前衛的でありながら瑞々しく活き活きとした描写の数々。子供たちが大人たちに仕掛ける本気のクーデター。最後はほとんど戦争映画だ。子供たちの堂々とした背中で終わらせるというとんでもないエンディングに度肝を抜かれた。 [映画館(字幕)] 8点(2010-06-18 15:11:41)(笑:1票) (良:1票) |
6. 少女ムシェット
《ネタバレ》 貧しいことがまるで罪だと言わんばかりの世間の目。大人が課した少女の過酷な人生は、仮に小さな幸せが訪れたとしても不幸という大きな波にさらわれてしまう。野鳥が罠にかかってもがく。誰かが罠から外すという奇跡が訪れないかぎりこの野鳥の行く末はもう決まっている。どんなに抗おうとも無駄。弱い者の定め。どこかに少女の人生が好転する機会があっただろうかと再見してもやはり見当たらない。少女の人生は少女以外の罪深い大人たちと大人たちの作った社会によって決められているのだ。そのことを実に簡潔にして深く描いている。しかも少女の行動を通してのみで。少女は最後の最後に運命を捻じ曲げる。いや、ここでも彼女は自らの意思での行動を拒否しているのかもしれない。高いところから低いところへ転がるという現象に身を任せる。転がることにけして抵抗はしまい。これは運命なのだ。そう思って転がっているのだとしたら、キッツイなあ。映画はこの悲しい転がりを美しく映してしまう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2009-05-21 15:41:46) |
7. 四月
サイレント映画のようでサイレント映画でない。無言語映画です。サイレント映画でもナレーションがあったり状況説明の字幕があったりしますが、この作品にはありません。音はしっかりとあります。ユニークで可愛らしい擬音が心の高揚を、そして不安を表現する。映像と音(言語を排除した)だけで何もかも理解させる。理解させるだけじゃなく、面白い。世界中のどの言葉を使う人にも楽しめる映画というのが重要で、「音楽は世界共通」なんていわれるけど、映画も世界共通なんだと気づかせてくれる。映画ってやっぱり凄いって気づかせてくれる。映画に言語は要らない、と言っているわけではなく、あってもいいけど無くても楽しめる、それが映画本来の醍醐味なんだと思う。この作品はあえて言語を排除することでそのことを証明している。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-09-21 12:38:44) |
8. ジャバウォッキー
《ネタバレ》 シュヴァンクマイエルの短編はどれも好きですが、コレと『家での静かな一週間』は別格です。多くの作品にみられる擬人化された無機物の動きと音楽のコラボレーションも、「繰り返し」を軸に展開させ最後にきっちりとオチをつける構成の妙もいつもどうりに完璧で、尚且つ余分なものが無い。内容はあいかわらずの不思議ワールドであるが、鳥篭に行き着くエンディングを見る限り、新作『ルナシー』同様に「抑圧」がひとつのテーマにあると思われる。女の子の人形に課せられる通過儀礼。試行錯誤の迷路は悪意無き黒猫になんども邪魔されながら(このときの「ア~ア~ア~・・」って音楽、最高!笑える!)成長した人形に待ち受けるのは社会の檻。抑圧の時代を生きたシュヴァンクマイエルにとってはこれもまたシュールレアリズム。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2007-04-06 13:25:35) |
9. ジャン・ルノワールのトニ
《ネタバレ》 実際におこった事件を映画にするとき、いかにドラマチックに脚色し演出するかがキーになる。しかしこの時代においてドラマチックに仕上げるのではなくリアルに撤したルノワールはやはり凄い。リアルに仕上げることによってよりドラマチックになる。泣かせようとせずとも泣ける。殺人事件が主ではなく、季節労働者と彼等の暮らす町全体が主として描かれる。殺人事件てのはそのもの自体がリアルと相反するもの。そのリアルと相反するものがリアルな世界に唐突に訪れる。その殺人事件の裏には男と女のドラマがある。そのドラマでも感動をあおらない。女が自首したことを男は知らない。男が死んだことを女は知らない。すごく悲しい。作られた悲しみではなく本気で悲しい。そしてその後はいつもどうり季節労働者はこの町にやってくるし、我々も普段の生活に戻るのです。リアリズム映画の祖であると共にリアリズム映画の傑作です。 8点(2004-10-04 12:59:41)(良:1票) |
10. 地獄に堕ちた勇者ども
《ネタバレ》 一度観ればおなかいっぱいという満腹感を感じるとともに、強烈な印象を残す映画。ヘルムート・バーガー演じるマルチンの異様な存在感が出色。登場からして女装である。幼児偏愛はたまた近親相姦。母の愛に恵まれなかったマルチンがどんどんと悪魔的なオーラを増していく様が恐ろしくもあり美しくもある。国の崩壊、社会の崩壊、家族の崩壊、そして人間の崩壊。「滅びの美学」の真骨頂。容赦なし!そこに「救い」は無い。このドラマでは善き人は死んでいく。突撃隊の男爵の息子も善のままとは言いがたい。父親を殺された怒りにナチスが手招きしている。こんなおぞましい時代があったという事実を描きながら、(母が息子の人格形成をする、アッシェンバッハが人々をナチスの色に変えていく)ように人間が「悪」をつくるという事実、そして「悪」に簡単にとりこまれる人間の弱さを壮大に描いている。こわい映画です。 8点(2004-05-21 15:38:49) |
11. シーズ・ソー・ラヴリー
評価、低っ!かなり好きな映画なんですけど..。演技をまず絶賛したい。ショーン&ロビン・ライト、うますぎ!ロビン・ライト・ペンの10年後の顔はまさに母親の顔になってました。ショーン・ペンが警官に包囲されたシーンなんてリアリティありすぎでドキドキしました。そりゃーたしかに理不尽ですよ。子供がかわいそうだし母親失格ですよ。でも辛そうだったじゃないっすかー。泣きそうでしたよ。笑いあり涙ありで良かったっす。笑いがあったかって?9歳の長女のビールの飲みっぷりは笑ったっしょ?笑えなかった?もーいっぺん見てください。あの不機嫌そうな顔して飲んでる姿は面白いって。 8点(2004-03-10 12:04:35)(笑:1票) |
12. シティ・オブ・ゴッド
《ネタバレ》 鶏が手際良くさばかれ、それを目の当たりにするもう一羽の鶏、そして逃げる逃げる..オープニングのこのシーンで完全にこの映画の虜。目がくぎづけ。スタイリッシュな映像とは対極にあるリアル感も全く損なうことなく見事に両立している。ブラジルの観光地の裏の顔<ファベーラ(貧民街)>の悲劇を、住む家を失った者たちがどんどん送り込まれてくる描写をとおして、ちゃっかり国の政策批判までしてある。中盤以降あまりにも簡単に人が殺されていくことに命を軽く扱いすぎていると感じたが、命を軽く扱っている街が実在するという事実を受け止めなくてはいけない。映画が命を軽んじているのではなく、命を軽んじている街と人を映画にしているのである。今でもファベーラはあり、少年ギャングたちの犯罪の恩恵によってファベーラの住民たちは生きているのだから。 あと、マネが子供に撃ち殺されたシーンは、殺された沢山の人の中の一人として軽く扱った父親の敵をとったもので、このシーンがあることで「殺人」は軽く(現状がそうであるように)扱っても「死」は(メッセージとして)決して軽く扱ってはいないことがわかる。今の某国の対テロ戦争による負の連鎖を思い起こさせる。 8点(2004-01-19 12:27:52) |
13. 情婦
《ネタバレ》 JTNEWSを初めて拝見した時、コレと「バック・トゥ・ザ・フュ-チャ-」と「ショーシャンクの空に」がココのベスト3。どれも10点を付けていない私は自分が一般的ではないことを改めて思い知った。でもこの3作品の中ではこの「情婦」が断然好きです。高木ブー演じる弁護士がいい味だしてます。(高木ブーじゃないって。) オチも爽快!後半私も髙木ブー演じる(演じてないって)弁護士同様うまくいきすぎてると感じていたんです。そしたらあれでしょ。そんでもってあれでしょ。そのうえ看護婦さんがこうくるでしょ。いやー天晴れ!でもなんであんな所にナイフがあるの?何か見落としてます? 8点(2004-01-15 11:27:17)(笑:1票) |
14. 12人の優しい日本人
《ネタバレ》 これはかなり面白いです。まづは、「十二人の怒れる男」と同じように投票するが、全員一致で無罪!ここは先に「十二人の怒れる男」を見ていないと笑えないところ。その後唯一人が有罪へ。この時点で、この男がヘンリー・フォンダだと誰もが思うはず。しかしオリジナルと有罪無罪を入れ替えただけの駄作を匂わせておいて、後半実はヘンリー・フォンダはトヨエツだったという展開へ。彼の弁論には非常に説得力があり安心感がある。これは弁護士という肩書きに、見ている我々が安心感を持って見ているからである。肩書き重視の日本人気質を十二人だけでなく観客までも巻き込んで皮肉ってくれる。が、嫌な気はしない。「実は俳優」御見事! 8点(2003-12-09 11:53:51)(良:1票) |
15. 仁義なき戦い
このシリーズのレビューいいですねえ。学生時代に先輩が「ひとり仁義なき戦い」(文太、旭、金子、千葉ちゃん、松方等々のものまねで一人芝居)をよくしていたのを思い出します。キャラクターがしっかり描かれ、また斜めアングルのカメラワークやこれまでのヤクザ映画に無いバイオレンス描写とスピード感!満足の一品です。もし見るなら3までは見て欲しい。広能のモデルとなる美濃幸造(漢字違うかも)の手記を映画化したものだが、山守(もちろんこの人も実在)をあそこまで悪者にしたものをよく世にだせたなあと思う。 8点(2003-10-09 12:38:26) |
16. 死んでもいい(1992)
オープニングで雨が降り赤い傘が印象的に登場したとき、同じ名美の物語である池田敏春『天使のはらわた 赤い淫画』を想起した。そしてやはり名美の物語、相米慎二『ラブホテル』でかかったもんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」がよぎる。どこかモノクロに近いくすんだ色合いの画面に映える赤。傘を持つ女と男の間に「死んでもいい」と赤いタイトルが浮かぶ。この一瞬がものすごくかっこいい。完璧な構図と配色で見せるほとんど動かない(スローモーション)画はまるで石井隆の漫画のようだ。石井隆はこれまで名美の物語を他人に語らせていたがこの作品で初めて自ら語ることとなる。タイトルバックのセルフオマージュのごとき劇画調とそこにいくまでの鬱陶しいくらいの映画技法の嵐にその並々ならぬ意気込みを見る。しかしこの映画の名美は他の作品の名美とはどこか毛色が違う。なんたって陵辱されない。それでもラスト、名美が何も言わずに涙を流したとき、その顔は「堕ちた」ことを知り「堕ちた」ことを受け入れたように見えた。まさしく堕ちてゆく女・名美の物語であったのだ。しかもその瞬間を切り取り静止させて映画は終わるのだ。残酷な様を美しく切り取る。石井隆の真骨頂。 [DVD(字幕)] 7点(2011-11-11 15:43:43) |
17. ショック集団
《ネタバレ》 それぞれの狂人たる理由がその特徴的な狂人ぶりで提示されてゆく。そこには社会派の色も見えぬことはないのだが、色情狂の女たちの登場で社会派色は一気に減少する。てか、女たちをひとまとめにして色情狂にしちゃうそのシンプルすぎる発想が怖い。そんな異常な世界は、ゆえに外の世界の異常性の写し鏡だなんてことはなく、ひたすらに狂気のるつぼとして描かれる。廊下をゆっくりと移動しながら様々な狂人たちを映し出すカメラワークが凄い。ラストシーンではこの廊下を映し出す一連の流れの中に一人の狂人が加わるのだ。美しいヒロインが待つ外の世界が時折映されることで中の世界の閉塞感が増幅されているように思うのだがそのヒロイン、コンスタンス・タワーズの出番の少なさが唯一の不満。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-04-21 17:54:41) |
18. 死への逃避行
めずらしく(?)狂乱しない美しきイザベル・アジャーニがただ息をするかのように人を殺してゆく。そこに狂気は見えない。狂気を見せるのはむしろアジャーニを追う探偵。ところどころちぐはぐとした物語はもしかしたら探偵の妄想・・。そうであるかのようにどこか悪夢めいている。その悪夢の住人としてあまりにはまるアジャーニ。あまりにきまるコスプレ。美しさがはかなさを助長する。切なさを増幅させる。ああ、再見したいがどこにも置いてない(涙)。ちなみに盲目の建築家だったか、彼に話した女の過去に登場する父親はムルナウ『最後の人』そのまんまだ。(『最後の人』のハッピーエンドは後から付け足されたもの) [ビデオ(字幕)] 7点(2010-12-24 16:09:05) |
19. シルビアのいる街で
カフェの一見リアルな喧騒は、でもしかし主人公の視点と思われるカメラ、つまり我々の側をじっと見つめる女といういくつかのカットによってどこか虚構じみたものに変貌してゆく。音が格別に印象付けられた中で迷路のような街をさまよい歩くシーンもまた然り。カフェの女たちが街にもいることで決定的となる夢の世界。電車の窓がスクリーンと化すのはここが虚構の世界であることを強調しているのだろうか。ユーカラさんが書いておられるように演出が見えすぎているところが確かにあるんだけど、これもまた作られた世界、虚構性を明確にするためではなかろうか。なにせここに映っている風は大袈裟に自己主張していて、こんな風、現実の世界には絶対にないのだから。『シルビアのいる街で』は物語を膨らませなくとも演出でいくらでも映画が豊かになることを証明している。 [映画館(字幕)] 7点(2010-11-09 11:26:21) |
20. 昭和おんな博徒
江波杏子があまり好きではなかったのだが映画が始まってすぐの雨の中の佇まいにいきなり惚れた。まあ映し方もうまいんだろう。雨は笠で江波を隠すために降っているのだろう。で、その顔が映されるときに一種の高揚が得られるようになっている。ついでというわけではないが、天知茂の病床の女房役の松平純子って人は全然知らなかったんだけど、惚れた。病床なのにあの艶っぽさといったら! 私が惚れっぽいわけじゃない。本作と同じく蒸気機関車を超間近ローアングルでとらえた画を持つ『花と龍 青雲篇・愛憎篇・怒濤篇』ではやはりそれまで意識することもなかった香山美子に惚れ、『車夫遊侠伝 喧嘩辰』では怒った顔のアップばかりの桜町弘子に惚れたわけだから、たぶん加藤泰の仕業である。そんな凛とした江波に惚れるのは私ばかりではない。江波の一途で仁義に熱い生き様に惚れたことを証明する天知が発する「姐さん」という呼び方にゾクーーっとした。最後の一人に落とし前をつけるその場所に登場するシーンにゾクゾクーーっとした。そのかっこいい女が生まれるためには前半のみ出演の松方弘樹がどこまでもかっこいい男でなきゃいけないわけだが、そこは流石、風格が漂ってます。 [映画館(邦画)] 7点(2010-10-27 17:06:16)(良:1票) |