3. 砂の器
《ネタバレ》 省略するところはすっきり省略し、何度もTVドラマ化されて描かれているような、刑事側のつまらん事情やドラマを廃して、映画の四分の一を占める、最後の捜査会議=「宿命」発表会=親子の旅物語に、すべてを賭けたようなすごい構成と演出。これの後に作られた多くのTVドラマ版は、この演出の呪縛から逃れるのが一苦労だ。 この「宿命」を聴いただけで、もう半ば条件反射的に泣いてしまう。それは、この音楽と一体になっている、千代吉と秀夫の苦難の旅と、親子の情愛を思い浮かべるからだ。この、親子の旅と音楽を、見る者の心の中に、一体として刷り込んだ演出方法は、見事というしかない。そして、また今西が言うように、この曲は彼が父親に会う唯一の方法なのだ、という事を自然に観る者に感じさせる演出。 正直、これだけでハンセン氏病をテーマとして描ききれているとは思わない。しかし、物語の本質は、病気周りの問題ではなく、親子の情愛である。殊に加藤嘉さんの、我が子の写真を前にしてなお、それを否定する部分には、涙を禁じ得ない。だからこそ、(原作遺族の意向とはいえ)病気事情を変更してでも、何度もドラマ化されるのだろう。まあ、この映画版の、この演出を超えるものは、まだお目にかかっていないが。 [DVD(邦画)] 9点(2011-09-13 18:40:37)(良:1票) |