1. 第三の男
《ネタバレ》 この映画を知らない人でも、実はハリーは・・・。という筋を知っている人は多いんじゃないでしょうか。そして主演:オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ、ジョセフ・コットンという順番で、ガイドブックとかに載っているのを見た人も多いんじゃないでしょうか。・・・でも、主役はどう観てもコットンなんですが・・・これはものすごく損な役回りですねぇ。やることなすこと言うこと全部裏目に出るし、女にはフラれ、警察では相手にされず、猫にはスルーされるし、オウムには噛みつかれるし、子供と野次馬には犯人扱い。そして、出演時間がトータルでも20分足らず(ロングショット込み)のウェルズに美味しいところ全部持っていかれるし・・・。じゃコットンの演技がダメかというと、とんでもない、名演技だし。要するにこの役は、大根だとバカだし、名演しても損、結局どう演じても割に合わないんですね。ホリー本人もアンナに「なぜ私達はいつもかみ合わず口論ばかりなんだろう?」と言っていましたが、それはホリーが無傷の戦勝国のアメリカ人で、ここが他国に蹂躙され、統治されたウィーンだからでしょう。酒場に入ってきた警官に毒づくような、分かりやすい西部劇のガンマンはここではただ間抜けなだけ。抜け目ないハリーは上手く対応できましたが、気が付いたら、観覧車からの点を見ることもできない地下水道で逃げ回っている皮肉。彼はむしろ無意識に、自分を裏返した性格のホリーを死刑執行人に選んだんだと思います。 それにしても、映像の美しい映画です。斜めのアングルと際立った影の使い方、壊れかけた荘厳な石作りの建物。ふとアップになる名もない人物の1人1人までが力強く、あの風船売りのおじいさんに至っては、私にはファンタジーに見えます。チターの弦がふるえる様すら美しいモノクロの映像美。完璧を追求した結果か、面白味に今ひとつ欠けるのは否めませんが、後から味が出てきます。素晴らしいです。 [DVD(字幕)] 10点(2005-08-16 15:09:49)(良:4票) |